第5話 建前の悲劇
「はぁ~~やっと終わったよぉ.......ほんとにいちいち馬鹿にしてくるの何なの?そのせいでいつもより長引いちゃったし......」
溜息を吐きながら疲れ切った体を何とか動かし家へと向かう。
「寒いなあ..........ま!とりあえずレイの料理を食べて元気出そっと♪今日は何かな~?」
ワクワクしながら家に近づいていくと、少し違和感があった。
(あれ?なんだか木々がやけに騒がしい.....)
自分のスキルの影響で自然の声には敏感になっているせいか、いつも以上に騒がしかった。
(それに.......いつもならこの辺で.......)
普段自分が家の近くまで来た頃にはレイがドアを開けて迎えてくれるはずだった。
(きっと.....寝ちゃってるんだよね.......)
ますます高まっていく不安をなんとか誤魔化しながらドアノブに手を掛ける。
(ふう......大丈夫......きっと何でもないから......)
「ただいまー!!今日はちょっと遅くなっちゃった!!」
勢いに任せてドアを開ける。
一番に視界に入ってきたのはランプの灯りに照らされた部屋だった。
ひとまずランプが点いていることに安心する。
しかし肝心の「ランプの火を点けた人物」がいない。
「...............えっ?」
思わず口に出る。
突如アリシアに浮かんできた二つの可能性。
(出掛けた?それとも攫われた?)
後者は最悪の可能性だった。しかし前者である可能性は限りなく低い。
そもそも街に自分が出歩く危険性は彼が一番分かっている事。ましてや火を灯したまま出ていくなんて考えられなかった。
「嘘.......」
すぐさまアリシアは外に出て、スキルを使った。
(お願い.....私に応えてっ........)
すると遥か昔からアリシアの家の前にある一本の大木が応えた。
[恐らく.....王の関係者である何者かに連れ去られてしまった。時刻はつい先程だ。
たかが一本の木ではどうすることもできなかった........力不足で済まぬ......]
(っ........教えてくれてありがとう。大丈夫。あとは私が何とかするから。)
[健闘を祈る......]
アリシアは風をも追い越すスピードで王城の近くまで走る。
(間に合って.......!!)
街の人混みを避けながら、道行く人が自身の顔を認知するよりも先に駆けていく。
人々の声が騒がしい。しかし今はそんなこと気にしている場合ではない。
城まで数百メートルという所で、なにやら城の入り口付近に人が集まっている事を確認した。
(もしかしてっ.......)
その集まりを掻き分け、人々が注目しているものを目にした。
一本の棒に、一人の青年が縄で括り付けられている。
「レイっ!!」
思わず叫んでしまった。途端に、走っている時には気づかなかった町の人々の声が鮮明になってくる。
「やっぱり!忌み者を匿ってたんだ!」
「表ではいい顔しといて、裏ではこいつと一緒に何か企んでたなんて.....」
「英雄の恥さらしめ!」
「王子様の方がふさわしかったんだよ!」
人々のこんな一面を初めて見た。今までいろんな手助けをしてきて感謝ばかりさていた。街を歩けばいろんな人から挨拶や贈り物をされ、とても暖かかった。
でもそんな面影はどこにもなかった。予想はしていた。
彼が連れ去られてしまった時点で人々に知られ、私の印象は変わるだろうと。
それでも、ここまで変貌してしまうなんて思えなかった。
ふいに、近くにいる三英雄の二人を見つけた。
英雄同士は非常に仲が良く、冗談も言い合えるような存在だった。
だから王子に陰湿な嫌がらせをされた時にも慰めてくれたし、いつだって友達だ。
もしかして、この二人なら、レイのことを分かってもらえるかもしれない。
そう思っていた。魔導士は怯えながらこちらを見つめ、大賢者は呆れながら睨みつけていた。
(二人まで..........?)
この影響で、アリシアはかなり精神的に滅入ってしまっていた。まるで今までの事が全て無かったことになってしまった様だった。
「やっと来たか。裏切者め」
甲高い嫌な声が響く。
王子だ。
(やっと来た......?まさか.......誘き出された........?)
「まったく.....剣聖ともあろう者がなんという事を.......」
不気味に笑いながら国王ダルヴォスがそう言う。
おそらくここに私が来るのも思惑通りだったらしい。
「前から憎たらしいと思っていたが、尊敬はしてたんだぞ?僕に勝った唯一の存在だったからな。しかし、こんな汚らわしいものを匿うような犯罪者ならば話は別だがな」
(尊敬なんて元からしてなかった癖に.......)
アリシアは自身の胸の底から怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「彼は普通の人間よ!どうして同じ存在なのにそんな差別を受けなきゃいけないの!」
人目なんて気にする必要もなくなり、アリシアは本気で怒りをぶつける。
「認めたぞ!」
「こんな奴と一緒にするな!」
「普通の人間?そんなわけないだろ!」
アリシアとレイにとって心無い言葉がぶつけられる。
そんな騒ぎが耳に入り、処刑台の上のレイは目を覚ます。
レイは周りを見渡し、自身がやってしまった過ちを思い出す。
そして目の前にいるアリシアを見つけ、咄嗟に逃げるよう叫ぼうとする。
だが、口にも縄が縛られており、声が出せない。
レイの悲痛な叫びは、ただの呻き声へと変わってしまう。
そんなレイにアリシアが気付く。
今までの経験からして、レイが伝えようとしていることを瞬時に理解した。
しかし、アリシアは逃げようともしなかった。
最早剣聖としての名声も、印象も全て崩れてしまった。
否、もともとあってないようなハリボテの存在だ。それが剥がれて人々の本性を見ただけ。
アリシア自身も、生まれで差別される経験は幾度となくあった。
女の子は魔法使いがいいだの、剣士なんて向いていないだの。
自分が憧れた存在を、忌み者だの汚らわしいだの。
今思えば、自分という存在を真っすぐ見てくれていたのはレイだけだった。
ならば、自分がすることはただ一つ。
守るべきものを守り、そして約束を果たすこと。
もう他人の目なんて気にしなくていい。
刹那、アリシアは剣を抜き、とてつもない速さで王子に斬りかかった。
しかし、あと一歩のところで踏みとどまる。
アリシアが王子を斬る直前に、王子の剣がレイの首元へ添えられていた。
「この卑怯者っ......」
「よっぽどこいつが大事なみたいだな。僕には理解ができないね。でも、この状況は一石二鳥さ。」
「何言ってっ...........」
「君は全てを失うことで、僕は剣聖になれる。さらに忌み者も始末できる。こんないい話はないだろう?........あ、もしかしたら三鳥かもしれないね....♪」
「え?」
王子がアリシアの顎を指で上げる。
「君、意外といい体してるしさ、顔も悪くない。最近あんまり出来てなくてね。
まあ、憎たらしいのには変わりないけど」
(こいつ.....アリシアになんてことをっ......)
「この......ふざけるな!」
すぐさまアリシアは王子の腕を払い除ける。
「ま、断ってくれてもいいんだよ、殺すだけだし」
そして王子がレイに向かって剣を振りかざす。
「やめて!!.........分かった.......もし..............したら.......解放してくれる?」
「もちろん。神に誓って嘘はつかない。」
一連の話を間近で聞き、レイは体を揺らし暴れ回る
(ダメだ!!やめろ!やめてくれ!!嘘だ!こいつらは俺を殺す気はない!)
実は、攫われている時、朦朧とする意識の中でとある会話を聞いていた。
それは、自分を生け捕りにして村に渡すというものだった。
(こいつらは俺を殺せない!天神の雫とやらをもらうために!!
だからやめてくれ!アリシアだけでも逃げてくれ!!これは罠なんだ!)
そんな悲痛の叫びは届かない。
「レイ.....ごめんね......約束の為だから.....絶対に守るからね.........」
そう呟く
王子に命令され、アリシアは下半身の衣服だけを脱ぐ
(やめ...やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろ。ああダメだ、そんな奴となんて、いやだいやだいやだいやだいやだいやだ見たくない見たくない見たくない見たくない)
「はっ、裏切り者の剣聖にしてはいい体してるなあ」
「裏切り者とはいえ、あんな美人とヤれるなんて王子は羨ましいぜ」
そんな国民の声が聞こえてくる。
(見るな見るな見るな見るな見るな見るな!!!!!!アリシアを見る権利はお前ら屑共なんかには無い!!!!!絶対に殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!)
国民の湧き上がる声にアリシアの嬌声が混じる。
王は満足げにアリシアを見つめる。
王子、クソ野郎は優越感に浸りながらニヤけ顔をこちらに向ける。
「ははっ、君、そんな顔を僕に向けていいと、思ってるのかい?まあ、今は気分がいいからっ、特別に許してやってもいい」
殺す殺す殺す殺す
コイツだけは
いや、他の奴らも全員
怒りに任せて、自身の両手を縛っている縄を力づくで引きちぎろうとする
(あと少しあと少しあと少しあと少し)
その時、クソ野郎とアリシアの動きが止まる。
どうやら、終わった、らしい。
絶望と、嫌悪感と吐き気と、いろんな感情がごちゃ混ぜになり押し寄せる。
(ああ、ああああああああああああああああ。ああああ?ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
(嘘だ嘘だ嘘あだあだだうそだうそだうそだ嘘だうそそそだうそだだ)
「はあっ........はっ..........これでっ.....いいんだよね........」
ようやくアリシアが言葉を発した
「ああ。それじゃあ、約束通り。」
アリシアは安堵の顔を浮かべた。
そして
アリシアの腹部を金属が貫通する。
「ぅえ?」
「君は用無し。じゃあね。剣聖としての責務は僕が引き継ぐからさ」
王子が剣を引き抜く
真っ赤な液体が勢いよく飛び散る
辺り一面鮮血に染まる
甲高い笑い声の中で彼女の声がした
「あ..........ごめんね......約束.....守れなくなっちゃった........」
(は?)
(なんで?)
(なんで赤いんだ?)
(生臭い)
(約束は?)
(生きてるよな?)
(死んだ?)
(え?)
(おかしい)
(剣聖だぞ?)
(ああ)
(あんなに強いのに?)
(ああああ)
(嘘だよな?)
(ああああああ)
(ずっとなんとかなってきた)
(こんな辱めを受けて?)
(あああああああああ)
(なんとかなるよな?)
(ああああああああああああ)
(いつもみたいに笑って)
(あああああああああああああああ)
(太陽みたいにさ?)
(あああああああああああああああああ?)
(あああああああああああああああああああああああ。)
(あああああああああああああああ。あああああああああああああああああああ?)
ああああああああああああああああ(ああああああああああああああああああああ)
あああああああ(ああああああああ)ああああああああああああ(ああああああああああああああああああああああああああああ)(あああああああああああああああ)
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ああああああ、あ、ああ、ああ、あああ、ああ、ああ、ああ、ああああああ・ああ・ああ。あ・ああ・あ・ああ。あああああああああああああああああああああ」あああああああ:あ:ああ「@ああ;ああああ」あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
忌み者の下剋上 ミネギシ @minegisi
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