第4話 集会
「..........はあっ!」
強く息を吐き、目の前の彼女に向かって剣を振り下ろす。
「おっと、危ない危ない。」
結構本気で当てるつもりだったのだが、軽く避けられ反撃される。
咄嗟に剣を構えて守りの態勢に入るも、あまりのパワーにバランスを崩してしまう。
「....っぐ..............」
勢いに負けて尻餅をつくレイに、赤髪の少女は剣を振り下ろした。
「ふふっ、結構動きは良くなってきたけど、まだまだだね。腰に力が入ってないし、何より隙が大きすぎるよ。」
アリシアは剣を鞘へと納め、冷に向かって手を伸ばす。
「..........................うるせ」
悔しさと恥ずかしさで顔を背けながら、彼女の手を取る。
「ま、君が私に勝つなんてまだまだ先だけどね♪」
「これで264連敗かよ。全くもって勝てる気しねー」
「えっ、もうそんなに行ってた?というかよくそこまで数えてるね。」
「いつか絶対に勝ってやるからな」
「あははっ、そんなに燃えてる君、出会った時は考えられなかったな」
そんなセリフを聞き、ふとアリシアと出会った時を思い出す。
思えばあれからもう4年近く経っている。
レイとアリシアはとっくに成人し、もうお酒も飲める年齢だ。
アリシアの家は城から少し離れた自然豊かな場所にあり、滅多に人が通ることもないので、レイも人目を気にせず訓練をすることができる。
「結構動いたから、お腹すいちゃった。」
「じゃあ、早いけどご飯にしようか」
そう言って二人は家に入り、レイは夕飯の支度を始める。
あれから彼女に料理を教わり、毎日練習を積み重ねた結果、料理の腕だけならばアリシアを超えるほど(自称)になったのだ。そのため最近はレイが料理を担当している。
「はぁ.......明日の集会行きたくないなあー」
アリシアが椅子に座り、テーブルの上に脱力して倒れて、そう呟く。
それに対してキッチンからレイが質問する。
「またあの王子?」
「そうそう。毎回毎回嫌がらせがひどいよ。王子じゃなかったら絶対ぶっ飛ばしてるんだから。」
彼女が言う集会とは、月に一度開かれる国の会議みたいなもので、そこには国王、王子、その他お偉いさん方と三英雄が集まり今後の方針について話し合う場だ。
まあ、彼女曰くほとんど国王と王子が意見を言いそれに賛成しまくるだけで、その他の意見は意味を成さないらしい。
(それ集まる意味あんのか..........?)
彼女から集会の話を聞くたびにいつもそう思うが、口には出さないでおく。
そして王子の嫌がらせというのは、皆の前でわざと足を引っかけて転ばしてきたり、アリシアに対してありもしない噂を流したり、集会でアリシアにだけ不利な政策を提案したりするらしいのだ。
(んな陰湿な.....)
一応王子も成人しているのだが、いかにも子供らしい嫌がらせの方法に毎回呆れる。
そう思いながら出来上がった料理をテーブルに運ぶ。
「わあ!美味しそうなシチュー!...って、ここ最近ほとんどシチューじゃない?君、いくら何でもシチュー好きすぎでしょ。これじゃ体がシチューになっちゃうよ!」
いや体がシチューになることは無いと思うが。
「別に美味しいからいいでしょ。それに、アリシアだってシチュー好きだろ?」
「そうだけど.......でも流石に飽きるって!明日は違うメニューにしてよ!」
「はいはい。分かりましたよ。」
そんな会話を交わしながら、二人はシチューを口に運ぶ。
(嫌がらせ.......ね..........)
先ほど言ったように、王子がアリシアに対して異常な執着を見せているのは理由があるのだ。
実は国王ダルヴォスの息子である王子ヴォルギスは、前回の三英雄決めが行われる前まで、次の剣聖だとちやほやされて育ってきたらしく、その座をアリシアが奪った(?)ことで国王や国民から失望され、その怒りを張本人であるアリシアにぶつけてきているというのだ。
勿論、彼が次の剣聖だと言われてきたのにも理由があり、それは彼の持つスキルにあった。
この世界では後天的な能力(魔法などの習得できるもの)の他に、生まれつき持つスキルというものが存在し、これを持つ者は全員ではないが少なからず存在する。
そしてヴォルギスもその一人で、
彼のスキルは「ブレイド・タイラント(剣による支配者)」であり、剣を握っている時のみ自身の全ステータスが飛躍的に向上する。というシンプルかつ強力なスキルだ。
ちなみにそんな彼に勝利したアリシアもスキルを持っているが
「グリーンハート(大地の呼び声)」という自然の声を聴くことができるスキルであり闘技場での戦闘ではほぼ役に立たないらしいので実質スキル無しで勝っている。
(アリシアが強すぎるのか王子が弱すぎるのか......)
まあ長年の付き合いからしておそらく前者だ。訓練をしている時もつくづく思うが彼女は強すぎる。どれだけの鍛錬を今まで積んできたのか分からないほどに。
「さっきの集会のことだけど、そんなに嫌ならやり返せばいいのに」
「いやいや!相手は王子だよ!やり返したらどんな事されるかわかんないし、君もいるんだからあんまり目立たないようにしないと!それに約束もあるしね。」
レイとアリシアは、出会ってすぐのころ、とある約束をしていた。それは、いつか忌み者など誰も気にせず、少しの心配も要らないような場所を見つけ、そこで二人で暮らすというものだ。
(約束.....まだ覚えててくれてたんだ......)
かなり前のことだが、それでも彼女が覚えていてくれたことに嬉しさを感じる。
「ふわーぁ。食べたら眠くなってきちゃった。明日は早いし、先に寝ちゃうね。」
「うん、後片付けはしとくよ」
「ありがと。それじゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」
そんな何気ない会話を交わして、その日は幕を閉じた。
~次の日~
朝目が覚めると、隣のベッドにアリシアの姿はなかった。
(やっぱ集会の日は朝早いんだな.....)
いつもは寝起きが悪く、自分が起こしている事を思うと、それだけ剣聖としての自分に誇りを持っているらしい。
彼女がいない日はかなり退屈なので、いつも剣術の鍛錬をしている。それが終わったら、昼ご飯を作るという名の料理の練習をする。そしてあとは本を読んで時間を潰す。
そんな風に過ごしていると、だんだんと空が暗くなってきた。
(そろそろ帰ってくるかな、夕飯を準備をしないと。)
寝そべっていた体を起こし、キッチンへと向かう。
すると、外から足音がしてきた。
(お、もう帰ってきた)
とりあえず彼女を迎えるために玄関へ向かい、ドアノブをひねって外側に開く。
「おかえりー、今日は早かったね。」
そう言って迎えたつもりが外には誰もいない。
(あれ?おかしいな.......)
見渡すも木々と薄暗い夜の空気が漂っているだけ。
(気のせい.....かな.....)
少し不信感を抱くも、ドアを閉めてキッチンに向かおうとする。
――――――――――――――ドガッ―――――――――
鈍い音と共に、突如視界が揺らぎ、全身の力が抜けてその場に倒れこむ。
「は?」
目の前にある鏡には、薄気味悪く笑う男が映っていた.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます