第3話 普通
「レイ....あんまり聞かない形の名前......もしかして瑠璃村から来たの!?」
瑠璃村という名前を聞き、過去の記憶が蘇る
(「お前は瑠璃村の恥だ!!」)
村長と思われる人物に吐き捨てられる
(瑠璃村......ああ、そんな名前だったっけ.....)
「多分.....そう.......」
曖昧な記憶なので不確定ながらも答える。
もしかしたら気持ち悪がられるかもしれないという恐怖もそこには混じっていた。
だが、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。
「えぇ~~!?あの瑠璃村!?私、ずっと瑠璃村に行ってみたいと思ってたんだ!」
「行って..............みたい........???」
思わず困惑するレイに、アリシアはさらに畳み掛ける。
「小さい頃、本で読んだことがあるんだ!その名も、「瑠璃村伝説」!!
これは本当にあった話を元にしてるらしくて、この物語の中には、赤い眼をした英雄が出てくるんだけど、その人がすっごくかっこいいの!!私、その人に一度は会ってみたいんだ~♪」
赤い眼という言葉にレイはやっと気付く。
(しまった!!!眼の色でバレる....!!)
とっさに顔を隠そうとするレイをよそに、アリスはさらに興奮した様子で語る。
「だからね!私も有名になればもしかしたらその人に会えるかもしれないと思って、頑張って剣聖になったんだよ!」
すっかり火がついてしまったアリシアを見て、一旦ほっとする。
そして、「剣聖」というワードが気になったので、思い切って聞いてみる。
「剣聖って?」
すると彼女は待ってましたと言わんばかりに鼻を高くし、自慢げに答える。
「この国にはね、国に多大な貢献をした人だけがなれる「三英雄」ってのがあるんだ!これは剣士、魔法使い、賢者の人がそれぞれ一人づつなることができて、
なんと10年に一度しか決められないから、すっごく貴重な称号なんだ!」
それを聞いたレイは思考回路をフルに使って考える。
(え?10年に一度?三人しかなれない??この大きな王国で???)
そこで今まであった違和感がようやく解かれた。
なぜ彼女は自分とあまり歳は変わらない(と言っても3~5年ほど年上に見える)のにこんな立派な一軒家に一人で住めているのか。
家族の気配はないし、ベッドも一人用だ。
さらには子供でやつれているといっても人一人運んでどうやって森からここまで来たのか。
(道中には魔物だっているはず.........)
あまりにも情報が大きすぎて思わず口からこぼれる。
「えっ........それって無茶苦茶凄いんじゃ........」
その言葉にアリシアは目をさらに輝かせて顔を勢いよく近づける。
「でしょ!!私ってとってもすごいんだよ!!それにとっても強いし!」
まるで初めて褒められたかのように嬉しがる彼女を困惑しながら見つめていると、
ふとアリシアの口から
「あれ?君.....よく見ると赤い眼........」と呟かれる。
しまった。完全に忘れていた。とっさに目を隠すがもう遅い。
アリシアが眼を隠している手を無理やり剥がす。
「やっぱり!赤い眼だ!すごい奇跡だね!瑠璃村出身で赤い眼なんて!まるであの英雄みたい!もしかして......私夢が叶ったのかな!?」
「え?」
思わずこぼれる。
「捕まえ........ないの?」
それに彼女は答える
「捕まえる?なんで?私の憧れの人と全く同じ眼をしてるのに?」
その回答に僅かな希望を見出し勇気を振り絞って質問する。
「その......赤い眼は......忌み子.......だか....ら......」
「忌み子?あっ!そういえば、小さい頃に私が英雄に憧れてるって事を家族に話した時も怒られたっけ。「赤い眼をしているのは忌み者だっ」とか、「二度とその話をするんじゃない!我が一族の名が穢れる!」とか。全く、人の憧れを侮辱しないでほしいよね!第一、忌み者だって普通の人間なのに。どうして差別なんかするんだろう」
(普通の....人間?.........)
「だ・か・ら!君は赤い眼をしてても忌み者なんかじゃないし、もっと誇っていいよ!私からしたら、赤い眼なんて羨ましいもん!」
優しくて、暖かい。そんな言葉がレイを包み込む。
初めての感覚に思わず涙をこぼしてしまう。
「えっ!?泣いちゃった!?そんな....ひどいことしたっけなあ......とりあえず、
悲しんでる子にはこうするのが一番いいんだよね?」
急に抱きしめられ、こぼれていた涙は勢いを増し、今まで我慢していたせいか、声も響く。
先程まで復讐に燃えていた心は、嘘のように消え、いつしか普通に生きたいという希望に変わっていた。
「さっきの反応を見る限り、村には帰る場所がないんだよね?だったら、私と一緒に暮らさない?さっき君が食べたシチューの作り方とか、他にもいろんなことを教えてあげる。」
そしてレイの「希望」は、彼女のその言葉によって「未来」へと変わる。
こんなにも幸福が重なっていいのだろうか。
いや、今まであんな事をされてきたんだ。
こうなるのも必然だったのではないか。
レイは思わずそう考えてしまう。
それほどまでに、彼女の腕の中は暖かかった。
「えへっ.......実は助けた時から聞こうか迷ってたんだけど、いざ口に出すとなると結構恥ずかしいね.....」
ほのかに笑いながらそう呟く。
「暮....らし....たい.............一緒.....に.....」
泣いていると声が出しにくいが、精一杯の力を込めて答える。
「良かった!じゃあ、今から私たちは家族だね!」
ああ、なんて良い日なんだ。
レイはあまりの嬉しさにこれからのことを考えながらそう思う。
まずはシチュー?とやらを作れるようになろう。
彼女から言葉を教わるのもいい。
もしかしたら、彼女をアリスと呼べる日が来るかもしれない。
今はまだ恥ずかしいけれど。
今までできなかったことをたくさんしよう。
これから俺は、普通の人生を送るんだ。
アリシアと一緒に。
それはあまりにも楽しそうで、ワクワクする未来だった。
~王国のとある場所にて~
「陛下、たった今瑠璃村から、忌み者が我が国方面へ逃げたとの情報が入りました」
「瑠璃村......久々に聞いたのう............そして忌み者か......なんとも汚らわしいものを.........それで?私たちにどうしろと」
「それが、生きたまま捕まえてこちらに譲ってほしいとのことです」
「はっ!なんと図々しい事か。笑わせてくれるわ。だが、それなりの「物」はあるんだろう?」
「はい。もしこちらに忌み者を連れてくれた暁には、「天神の雫」をそちらに譲るとのことでした」
「なんと.....天神の雫か....それは瑠璃村代々伝わる伝説の品物。何が何でも手に入れたいものだな......仕方ない、少々骨は折れるが、穢れをこの国にいつまでも入れといてはならん。」
「今すぐに全兵士に伝え、捜索を開始しろ。だが、国民に知られてはならんぞ。忌み者がいると噂が広まれば、我が国の評判も落ちてしまう。」
「ハッ!!直ちに!!」
側近の男はそう言うと、すぐさま部屋を去った。
「忌み者か....興味深い....それに天神の雫.........なかなかに面白いではないか」
陛下と呼ばれたその男は、窓から見える月を眺めながら呟く。
目の前のガラスには、不敵な笑みを浮かべる人物が映っていた。
忌み者の下剋上 ミネギシ @minegisi
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