第42話 復旧作業

 管理者ラクガンは捕らえられた。人間たちは、傷ついた崖の街を立て直す。


 崖の街の住民たちは、まず各階層ごとで協力しあい、建物復旧に尽力した。それから、専門技術を持つ者が他階層に出向き、作業を行う。また、人間が浮遊ロボに頼んで、掃除ロボを呼び寄せ、ゴミ回収するという共同作業も、以前の生活と変わないやり取りがある。

 アワユキの[薬草と酒]店は、サイプレスの若い衆が率先して修復し、アワユキは体力回復の薬湯を振る舞い、復旧が早まった。


 カルカンは、ビル街のアクマキ車両整備と崖の街復旧手伝いの往復で忙しくしている。その合間を見ては、アワユキの店に顔を出す。


「お~い、アワユキ~、手伝いにきたぞ~。何か飲ませて~」

「お疲れ様~。って、まだ昼間だからお酒成分は入れないよ」


「そんなことは分かってるよ、本当は飲みたいけど。ところで、隣の診療所跡はどうなるの?」

「それがさ、やっとハブタエ先生から連絡があって、今も自然災害があった場所で野外診療所をやってるんだって。崖の街の診療所が壊された話をしたら驚いてたけど、最近知り合いになった方に貸すから、設計図を持って崖の街に来るとか」


「・・・いや、そう簡単に家って建たないよ」

「そう思う。予想として、ハブタエ先生みたいな出張の多い医師仲間かなって思ってる」


 コン!コン!


「こんちは~。あら、カルカンが来てる」

「カジャク、サボるな」


「何言ってんだよ、用があるから来てんだよ。まず、私事ですが~、無事子供産まれました」

「おめでと」

「おめでとうございます。6人目でしたっけ?」


「そうだよ、6人目も娘だ」

「すげぇ賑やか。というかカジャク一緒に遊んでそうだ」

「尻に敷かれて喜んでるわけか」


「あぁ、3人目からは、家族内が円滑に進む作法を学んだよ。じゃなくて、本題があるんだ。ここの隣、事務所として使いたいって連中が、これから来るんだって。サイプレスからの伝言だ」

「事務所?」

「連中・・・何人来るんだろう?騒がなければいいけど」


 コツコツと足音が響き、皆が、開けてあった入口を見た。


「やぁ、お久しぶり」

「隣で管理事務所を開くことになりましたので、挨拶に来ました」


 シルコとゼンザイが、相変わらずの黒スーツ姿で現れた。カルカンは、すごく嫌そうな表情をし、カジャクは固まっていた。


 アワユキが言う。


「あの~、お二方、人間に関わらないんじゃなかったでしたっけ?」

「・・・方針が変わったんだよ」


 ゼンザイが申し訳無さそうに伝える。


「創造主を始めとする高位の存在が、先日の件で人間たちに多大な迷惑をかけたお詫びとして、人間たちに協力すること。また、これまでの調査内容は偏見ではないか?と再調査を命じられて人間と生活を共にするよう言われてきたんだ」

「それじゃ~よ、ウチの会社って人手が足りてないんだが、作業してもらえるかね?」

「カジャク!それは、本社で面接してから考えること。誰でもいいってわけじゃないんだよ!」


 カジャクとカルカンのやり取りを聞きなながら、アワユキは薬湯をシルコとゼンザイに差し出した。


「管理者の方々は、ハブタエ先生とどこかで出会った、と言うことですか?」

「そうだ、自然災害によって多くの人間が淘汰されそうになっている現場で、それに抗い、命を蘇らせる行動に創造主が大いに感動された。そこで指示があり、ハブタエ医師を我々管理者に誘った。・・・断られたがね」


 シルコは苦笑いをする。そして、アワユキが返答した。


「無理な話ですよ。ハブタエ先生は患者さんと向き合うことを使命とされているので、『この世界の管理』って漠然と大きすぎることは引き受けることはないでしょう」

「事を急ぎすぎたか・・・」


 シルコの呟きに、ゼンザイが反応する。


「アワユキさん、ボクたちと管理者やってみないかい?創造主は、アワユキさんの行動がとても興味深いと、人間より、もっと能力を与えても良いと考えておられる。どうかな?」

「アタシには次元が違いすぎて・・・お断り致します」


「・・・それなりの年数が経った時に、また誘うよ。ハブタエ医師もね」

「なんですか、その口説き方は」


 管理者たちの勧誘に、カルカンが聞いてみた。


「ジブンは、どうです?管理者、ダメですか?」


 シルコとゼンザイは顔を見合わせ、薬湯をグイッと飲み干し、アワユキに同じものを注文した。


「ちょ、何か言ってよ!流されるのは、すごく傷つく!」

「開発業務に尽力されなさい」

「カルカンさんは、会社管理がふさわしいよ」


「現状維持じゃねぇかぁぁぁ!」


 カルカンの叫びが外まで響き、アワユキの[薬草と酒]店が再開したことが崖の街に知れ渡った。



 崖の街に住む人間たちの行動は、創造主や管理者たちの想定を覆し、より人間たちに興味を持たせた。決めつけや偏った見方を離れた場所から想うのではなく、同じ目線で感じ取る。そんな事を発見させられた創造主は、人間の計り知れない特性に、これまで滅んできた世界とは異なる世界があることを、管理者たちに楽しませたかった。


 崖の街、大海原にある場所。特殊な環境だからこそ、人間と機械文明たちの共存が見られる。管理者たちは、お手本として他の世界を見直していく。人間を滅亡させないよう、その環境を守っていくために。そして、人間たちは、この世の成り立ちを

いろんな形で伝承し、問題のあった過去を繰り返さないよう日々を暮らしていく。




おわり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

崖の街、白衣と黒スーツ まるま堂本舗 @marumadou_honpo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画