第41話 小さな指輪
アワユキがラクガンに向かって投げた小さな指輪。それはゼンザイがあずけたもの。そして、ラクガンが手にした。
ラクガンが拾い上げた小さな指輪から声がする。
「キミを吸い込むには十分な大きさだ」
「ふん、失礼な」
ラクガンは手に持っていた小さな指輪を放り捨てた。
くるくると回転する小さな指輪。地面で跳ね、高く上がり、キラッと輝いた。目の眩む明るさが周囲を照らした時、その小さな指輪から考えられない大きさの紫色した拳が現れ、ラクガンを掴んだ。
「な、なんだ!ワシに任せるはずじゃないのか!」
「管理者が・・・欲に飲まれて・・・どうするんだ・・・もう少しで・・・設計者になれたはず・・・」
大きな拳はラクガンを掴んだまま回転し、大きな螺旋を描いて小さな指輪に流れ込んでいく。全てが入った後、小さな指輪はまた地面に落下した。
「はいはい、失礼しますよ~」
いつからいたのか、ゼンザイとシルコがサイプレスたちの後ろから走ってきて、小さな指輪を回収した。
「アワユキさん、怪我ない?」
「え?ぶ、無事です。というより、いつからいたんですか?ゼンザイさん」
「ラクガンが指輪を手にした時から。この指輪はね、ラクガンが触れれば、我々管理者が介入できるよう作ってある」
「それじゃ、ラクガンさんが触らなかったら?」
「その時は、シルコと一緒に強引に接触させただろうね」
「・・・最初から、そうしてくれませんかね?」
「無理だね。ラクガンは逃げ回るし、機械文明たちに何か妨害をさせただろう。おや、機械文明たちへの影響が取れ始めたみたいだね」
「おお、激しい」
作業員たちの周囲を取り囲んでいた人参色の浮遊ロボたちが、振り子のように前後に大きく機体を揺らしている。作業員たちは、その場を離れ、安全な距離を保つ。ぶぅんぶぅんと、機体を揺らし続ける浮遊ロボは、機体の色が変化し、元のくすんだ緑色に戻っていった。
アワユキの元へカルカンが走ってくる。その後ろにカジャクとサイプレスがやってきた。
「お二方のどちらか、詳しく説明をしてくれますかね?」
「えぇ、サイプレスさん。ボクが皆さんに今起きた状況をお話しましょう」
ゼンザイが集まってきた人間たちに対して話し始めた。多くの人間にとって初めて聞く話。宗教や地元信仰、語り継がれる民話、そういったものと重なる部分もあるが、現実に起きていること。普通なら『誰が信じるか、そんな話!』となるところだが目の前で起きたありえない事が多数見せつけられたので、信じるしかなかった。
この世には創造主がいて、その依頼を受けた設計する者がおり、創られた世界を管理する者がいる。今回は、管理する者が設計上とは異なる勝手な判断により、その世界に住む存在に対して多大な迷惑をかけた。
あの紫色の大きな手は、設計主任だという。ラクガンという管理者は、今後さまざまな世界の構成管理に携わることが出来ない。さらにその存在自体どうなるかは、高位の存在が決めること。過去にあった事例では、地中深くの発芽することのない種子に生まれ変わり、ただ、そこに存在したそうだ。
今後、管理者は人間には関与しない。自然環境による影響に任せることになり、どのようなことがあっても人口増減も見守るだけ。そもそも人間には、すでに制限がかかっているので、手を加えることもなく、何もしない。
ただ、人間同士の諸問題があった場合、機械文明が介入する。過去には、諸問題を取り締まる組織があったが、それも考え方の違いが現れ、不当な場面が増えた。なので、人間の表現を借りるならば『第三者機関』、それが機械文明に与えられた役割。機械文明は抑止力として存在することになる。
一通りの話があった後、作業員の一人が手を上げ質問した。
「何故、我々がこのような目にあったんだ?」
「以前、アワユキさんにも同じことを聞かれたが、これは偶然でしかない。そう、出会ったのは偶然。管理者たちが、この世界を見ていく中で、ラクガンが、この崖の街とビル街を自らの欲を動かし始めた場所となった。我々管理者や高位の存在は、ラクガンの策略を察していたが、本当に実行に移すのか、明確な証拠がなかった」
作業員の質問をきっかけに、皆が手を上げる。しかし、周囲の取りまとめ役であるサイプレスへ質問を任せた。
「ご存知の通り、崖の街は被害を受けた。住む場所を失った者もいる。あんた方は変わった力を使えるが、建物を直しちゃくれないか?」
「我々は破損した部分がその場に残っているならば、修復・復元可能だ。しかし、掃除ロボが回収を競い合ったため、不可能になった」
「それじゃ、さっき言ってた創造主って、創り出すとか生み出せるわけだろ?建物の面倒は見てくれないのか?」
「創造主は、そのようなことに手を出されない。見ているだけだ。高位の存在は、生み出したあなた方が、どのように行動し、どう考えて対処していくのか、成長と発展を眺めていたい。例えば、人間の生活に介入することは
「あのさ、オレっちたちに何を出来なくしたんだ?」
「答えても、聞き取れない。試しに言うが、『人間同士がいがみ合い、争って滅亡に向かうことは出来ない』。分かったかい?」
「へ?人間同士が~、噛み合って~、アメ買えない~?なんだそりゃ?」
「言葉数が合わないだろ?何度言ってもそうなるから、人間は直接的にも間接的でも誰かと関わっているから、尊重し合ってくれってことだよ」
ゼンザイが言ったことに対して、周囲の作業員や若い衆が話している。
「オレらが普段、サイプレスの旦那に言われてることだよな?」
「そうだよ。いつも助け合いとか、横のつながりを大事にってさ」
ゼンザイとシルコは少し笑みを浮かべ、小声で話す。
「ここの住民は問題ないと思うけどね」
「あぁ、見て分かる」
その後、管理者たちは他の街も調査する、ということで姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます