確かな世界観と描写によって語られる心温まるクリスマス物語

 キリスト教(の行事としてのクリスマス)、魔法、妖精が共存する中世ヨーロッパらしい世界。

 フィリグリーさまは、実力はあるのに、国で2番人気の音楽家。住んでいるのは壁が薄くガタが来ているらしい共同住宅、雇っている使用人も、この物語の語り手コーム君一人だけ。
 朝食で異様にこだわる食材は緑の梨。
 たいへんな変人です。
 女性を前にすると何も言えなくなってしまう、女性に対してとくにシャイなそのご主人さまですが、「魔道王国」らしいあるできごとをきっかけにフィリグリーさまの運命は大きく動き始めることになります。

 何か寂しさを抱えているらしい住み込みの召使い(メイド扱いされる若い男性)、クリスマスの街の描写、じつはコンプレックスがあるらしい大音楽家など、何気なく読み過ごしてしまいそうな人物や情景の描きかたがたいへんすばらしいです。