第31話 もう1つの可能性
2024年10月15日 火曜日。宣告された死まで残り20日。
ここ最近涼しかった朝方も再び20℃を超えるようになり、季節が逆戻りしているように感ぜられた。そんななか一翔は約1週間ぶりとなる出勤のため、7時きっかりにスマホのアラームで起床した。
「おはよう」
そして今朝もまた、『天使』がベランダ際で置物のように座って
「…おはよう」
一翔も小さく
「さっきはごめんなさい。
昨晩、トイレを経由して浴室で熱いシャワーまで浴びた一翔が恐る恐る居間へと戻ると、
とはいえ棒読みのような口振りには申し訳なさなど感じられず、デリカシーという表現も
一方の一翔は以前『天使』が飲み会で唐揚げを摘まみ食いしたときのことを思い出し、どうにも安定しない彼女との距離感に悩まされていた。
彼女は基本的に思ったことをストレートに尋ねてくるタイプであり、
人間的に仲を深めて距離を縮めたいのか、それとも役目を
「…気を付けてくれれば、それでいい。俺も、その…じろじろ見るような
結局一翔は
不本意でも彼女と同じ空間にいなければならないのなら——その現実から
——俺が目を向けなきゃならないのはあいつじゃなくて、『
マッチングした相手とのメッセージは今のところ順調に続いており、一翔は返信を始業前に送るべきか昼休みまで先延ばしにするべきか思案しながら久方ぶりの通勤路を移動していた。
そうして『
「おはようございます」
「おはよう。葬儀は無事終わったか」
「はい、不在の間ご迷惑をおかけいたしました」
「いやいや、不幸があったんだからそれをカバーするのは当然だら」
口元を緩ませる伊熊部長に頭を下げつつ、一翔は先週と何も様相が変わっていない自分の机に
「一応
「へぇ、キリスト教式でもそういうのあるんだな」
「そうですね、詳しくは知らないんですけど…」
他愛のない会話をしながら、未読が溜まりに溜まっているメールボックスを開いた。
「おはようございます」
一翔は
その光景もまた見慣れたものであり、一翔は
だが間もなくして、匂坂社長の方から声を掛けてきた。
「
「…はい」
社長
「相羽君は…
「はい…名前くらいは、ですが」
株式会社前沼製作所とは浜松市の隣の
商業用不動産としてではなく投資などによる経営支援が狙いらしく、根底では
「その会社に去年オサカベグループから
「…えっ!? 自分が、ですか!?」
「そうそう。あそこは従業員を200人だか300人だか抱えてるからな、総務の仕事も大変なんだろうが…君はパソコンも得意だし色々と取り
青天の
詰まるところ
——あのとき代表がキャリアプランとか
——俺は…
まるでこの会社に居場所はないと断言されたようで、
だがその込み上げる感情に紛れて、見方を変えればこれは重要な転機なのではないかという期待も湧き上がっていた。
——もし俺が選ばれたとしたら…それは
——ひょっとしたらその選択もまた、余命宣告を回避する手段になり得るんじゃないのか…?
ろくでなしと笑わない天使 吉高 樽 @YoshidakaTaru139
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