「SFコメディ × シリアス怪獣パニック」とでもいうべき本作は、宇都宮の古墳、怪獣、そして餃子が織りなすカオスな物語です。
「好きです!」と告白したのに、なぜか古墳ツーリングに参加させられる乙掛輝男。クラスメートの古墳オタク・甲斐路優によると、古墳は宇宙人の飛行ポートで、護神獣が見張っている。そんなバカな……と思っていたら本当に怪獣が出現。餃子どころじゃない大騒動に政府と自衛隊までもが動き出す。乙掛と優はこの混乱を止めるべく、怪獣の秘密を探ることに——。
乙掛は 「いや、どう考えてもおかしいだろ!」 と毎回的確なツッコミを入れる読者の代弁者。ヒロインの甲斐路優は「ほら見たことか!」とどこまでもマイペース。UFOが飛び怪鳥が暴れる中、冷静に「宇都宮の歴史的価値」を語るあたり、強すぎます。「東北自動車道を封鎖せよ!」とか「栃木県庁に護神獣が接近!」というシーンは普通の怪獣映画ではお目にかかれません。
コメディのノリで読ませつつ、気づけば壮大なSFドラマに引き込まれます。栃木県のローカル感が生むシュールな笑いとキャラの掛け合いの軽妙さに心を掴まれつつも、しっかり怪獣パニックSFを味わえる作品でした。
まさに『読む怪獣映画』といったキャッチコピーに相応しい、臨場感に溢れつつ細部にまでこだわりが行き届いた良質な怪獣モノでした。
大怪獣同士のバトルとか戦車を並べて大火力でドンパチするような方向ではなく、むしろ未知の存在に対して政府や自衛隊がどう対応するか、そしてその中で主要登場人物達がどのような行動を起こすか、そこに主眼を置いたクラシックな怪獣映画の源流を感じられる作品です。
往年の怪獣映画ファンには「そうそう、こういうのが見たいんだよ」と共感し、逆に昨今の作品が好きな人でも新鮮さをもって受け入れられる内容だと思います。
5万文字とは思えないボリューム感と満足感のある作品でした。面白かったです!