第5話 部屋G 出現!→死体!→希望が見えた

地図

https://kakuyomu.jp/users/yurayurahituji/news/16818093088468309458



 部屋Gには、令一だけでなく桐生も驚いた。

 部屋一面が、黒い水で満たされていたからだ。

 正面、左右、十字型に吊り橋がかかっていて、それぞれの扉へ通れるようになっている。



「湖とか池に吊り橋がかかっているイメージかな。

 すごいや! 床に水を張るって演出は初めて見た!

 これ怖い、映画みたいだ」



 吊り橋に一歩踏み出すと、吊り橋がやたら揺れた。

 令一がぶるぶる震えている……。



「ご わ゛い゛」


「うん、ここは怖い。かなり怖いね。

 さっさと通ろう。もう一度、扉Cが開くかだけ確認して」



 足場が悪いので、令一が歩いてくれなければ進めない。

 桐生は吊り橋のロープを掴みながら、生まれたての鹿のような令一の歩調に合わせてゆっくり中央付近へ近づいた。



 ざばあっ!!



 予感はあった。でも、ただのお化け屋敷でそれはないだろ、とも思っていた。

 斧を持った大男が、水の中から飛び出してきた!!

 ぶん、ぶん、と斧の水滴を振るい、水をばしゃばしゃとかき分け、斧を振り上げて……



 がたぁん!!



 吊り橋の一部が破壊された。

 部屋Cへ繋がる橋。ちょうど向かおうと思っていた方向を……!



「ぎいやあああああああ」



 ワンテンポもツーテンポもスリーテンポも遅れて、令一が悲鳴を上げた。

 その気持ちはわかる、と桐生も思った。

 お化け屋敷慣れしている桐生でもこれはびびった。そして怖い!

 部屋Bで見せた行動パターンと同じなら、これは、



 ばしゃばしゃばしゃばしゃん



 やっぱり、こっちを狙ってきた!!



「令一、走って! あれに追いつかれたら、四方向全部、橋を落とされちゃうかも!」



 桐生にしがみついていた力が急に軽くなった。

 令一はロープも持たずに猛ダッシュで吊り橋を走り抜け、まっすぐ部屋Hに飛び込んだ。

 走りながら桐生の手を掴んでいたところに愛を感じる。



 ばたん! とドアを閉めると、斧男は追いかけてこないようだった。

 部屋が境目になっているのか。とりあえず逃げ延びた。

 令一は、たぶんなりふり構わず進行方向のドアを開けたのだろう。偶然ルートが一致していてよかったというべきか、真っ青な顔でぜえはあしている令一に、ご愁傷さまというべきか。



「追いかけてこないみたい。よかったね」


「もうかえる」


「引き返すの? さっきの部屋に?」


「いやだああああ

 でもかえるううう

 もうかえるーーー」



 桐生は令一をなでなでして、ぎゅっと抱きしめた。

 ここまで怖いとは思わなかった。令一の精神衛生上すぐに出たいところだけれど、本当に出口がわからない。

 さっきの吊り橋で腕を落とさなくてよかった。令一のダッシュはすごかったから。



「この部屋は静かだね。確認してみよう」



 懐中電灯で照らすと、男が転がっていた。



「ひぎゃうあ、げほっげほっげほっ」



 悲鳴を上げすぎてむせる令一の背中を桐生がとんとんする。さっきのさっきで、桐生も緊張した。

 これも起き上がってくるのかな……?



「令一、令一。

 大丈夫大丈夫。

 これ、マネキンだ」



 最初はびくっとしたが、あちこちに人形らしさがある。倒れ方も微妙に不自然で、人間らしくない。

 とはいえ、人形の色付けはやたらリアルだった。

 ぼろぼろの囚人服。全身に激しい傷を負っていて、両手の爪は全部剥がされている。

 仰向けの表情は苦悶のまま固まっていて、目をむいて大きく口を開いて絶命している風だ。

 明るいところで見ても怖いと思う。桐生は、令一に見えないように自分の体でマネキンを隠した。



 周囲の壁を照らしてみる。浮かび上がる絵は、夜の墓地のようだ。

 墓地に打ち捨てられた、囚人服の男の死体。

 埋葬もしてもらえなかったか、墓場から這い出てきたか。後者ならやっぱり動くのかな、と桐生は、そーっとマネキンに近づいた。



 ごろん。



「いまなんかおとがしたああ!!」


「僕もちょっとびっくりした!!

 うん、マネキンが動いたというか、転がった!!

 うわー、ドキドキしたあ」



 大きなアクションではない。仰向けのマネキンがうつ伏せになっただけだ。

 十分怖い。死体が急に動いたら人形でも怖い。



「ん?

 令一、ちょっとマネキンに近寄るよ。いい?」


「やだ」


「聞き方が悪かったね、ごめん。

 なにかヒントがある。見たいから近づくね」



 令一にイエスノーを聞くだけ無意味だった。桐生は宣言して、一歩ずつマネキンに近づいた。

 マネキンはそれ以上動かない。

 うつ伏せの死体の服は背中が大きく破かれており、そこに血色のペンキで文字が書かれているように見えた。

 懐中電灯で照らす。思ったより長くて細かい文字だった。



「令一。そんなに怖くないから、読み上げるね。


『頼みがある これを読んだあなたよ

 息子を救って欲しい

 息子は非業の死を遂げ ここに囚われてしまった

 あの子の宝物の腕輪を あの子に渡してくれ

 絶対に奪われるな


 あの子に勇気をと 渡した腕輪は

 あの子を苦しめたかも知れない

 それでも それが支えであったならば

 ここを出る力に きっと』


 僕たちは正しいルートを進んでいるみたいだ。

 あの男の子は腕輪を求めていた。

 この男性は、あの子のお父さんみたいだね。宝物の腕輪、つまりこの腕をあの子に渡してくれって。

 それがゴールに繋がるかもしれないよ」



 桐生の後ろで、令一がこくこくと頷いている。

 出口への希望が見えて、少し元気が出たようだ。



「うーん……」



 桐生は少し気になった。

 『絶対に奪われるな』という文言。

 もしかして、この腕を奪いに来るなにかがいるのかな。

 さっきの斧男とか? でも、部屋Bにいた時に腕は持っていなかった。

 斧男以外に、何かが追いかけてくるとか……、この予想は口に出さないでおこう。



「さ、早く出ようね。部屋Lに移動しよう」


「ん」



 令一の返事がちょっとマシな声だ。このまま持ってね、令一の精神。

 桐生は、次が令一に優しい部屋であってと念じながら、部屋Lへ足を踏み入れた。



 部屋Dに鍵がかかっているか確認するのをすっかり忘れていたが、桐生はまあいいやと流すことにした。

 令一の精神を守らないと!




   つづく

 

 


 

 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お化け屋敷 桐生&朝霧バージョン 完全クリアを目指します! 真衣 優夢 @yurayurahituji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画