第4話 腕ゲット 今後のルート決定

地図

https://kakuyomu.jp/users/yurayurahituji/news/16818093088468309458



 桐生は、懐中電灯で新聞の切り抜きを照らした。

 本物の新聞っぽいインクと紙で作られた記事は、内容も生々しかった。



『誘拐された少女 悲しみの帰還


 ××年 ×月×日

 3日前から行方不明となっていた旧家の長女ハレアノちゃん(10)は、両親の願いむなしく無言の帰宅となった。

 ハレアノちゃんは、誘拐グループ××××によって拉致されたらしく、グループは未だ逃走中である。

 家長はいち早く警察に通報。身代金を渡す前に警察が現場に突入したが、そこにあったのはハレアノちゃんの無残な遺体だった。

 現在もハレアノちゃんの左腕は見つかっていない。』



 そんなつもりはなかったのだが、桐生は小声で読み上げていたらしい。

 令一が無言の抗議をし、桐生の背中をぼかっと殴った。



「あいた! あれ、声に出してた?

 わざとじゃないって……。

 恐がらせたつもりはないんだけど、令一も内容は理解してくれたね。

 ハレアノちゃんは女の子。僕たちが追いかけたのは男の子。

 そして、あの椅子の上にあるのは」



 桐生は令一を引きずりながら拷問椅子に近づき、血まみれの腕をひょいと持ち上げた。



「やっぱりこれ、右腕だ。左腕じゃない」



 子どもの腕は肩から引きちぎられたような形状だ。血まみれで凄惨に見えたが、とても軽い。作り物だとよくわかるし、血色のペンキも乾いていて手につくようなことはない。

 持ち運びやすさを理解しているスタッフにありがたいと桐生は思い、やめてくれと令一は思った。

 子どもの右腕には腕輪がはまっている。子どもがつけるにしては高価なつくりだ。

 引っ張ってみたが、腕と一体化していて抜けるも何もなかった。腕ごと持っていけというスタッフの気合が感じられる。



 とりあえず桐生が腕を小脇に抱えると、令一が「ひょわあああ」と悲鳴を上げた。



「ごめんね、懐中電灯に地図に新聞の切り抜きに、もう手がいっぱいで。

 小脇に抱える以外ないんだ」


「新聞と地図持つ、だから体の前で持ってくれ、こっちむけるなああ」



 切実な令一の訴えに桐生は笑って、地図と新聞の切り抜きを令一に預けた。

 これで、胸の前で子どもの腕を抱えられる。



 確か、部屋Bには紙切れが三枚あった。

 桐生は手ごろな場所、机の上に手を伸ばしただけだ。残り二枚にも手がかりがありそうな気がする。

 部屋Bに戻ろうとした桐生を、令一は全力で引っ張った。



「なんで戻る!?!?」


「新聞の切り抜き、残り二枚も読みたいから」


「アレがいたらどうする!! というか、いるだろ!!」


「あの大男?

 うーん、いるかもしれないし、引っ込んでくれてたら嬉しいな。

 じゃあ、ちょっとドアを開けて、様子を見るだけ」


「なんかいたらすぐ閉じろ、すぐっ」


「はいはい」



 桐生は部屋Bのノブに手をかけた。……回らない。

 鍵がかかっているようだ。

 部屋Cの扉と同じパターンか。



「入れないや。一方通行なのかな。通った部屋は戻れないとか?

 だったら、できるだけ一筆書きで回れるようにしないと」


「最短距離でいけよ!」


「だって、この地図、ゴールがどこか書いてないんだもん。

 最短距離がどっちかわからないなら、できるだけ多くの部屋を回ったほういいと思う」



 桐生に言われて、令一は地図を確認した。

 4×4のマス目の部屋が記された地図には、確かにゴールがどこかは書かれていない。

 外に出られる場所がわからない。



「外壁に面しているどこかだろう」


「そうだろうけど、脱出に鍵みたいなものが必要だったら、多く部屋を回らないといけないと思うよ。

 この腕をどうするかも考えなくちゃ」


「こっちむけるなぁー!!」



 桐生は移動前に、部屋Fを懐中電灯ですみずみまで照らした。

 拷問器具は中世の魔女裁判のものに似ている。しかし、じっくり見ると作り物だし、壁にしっかり接着されていて持ち運びできないようにされている。

 腕と間違えて拷問器具を持っていかないようにだろうか。

 腕輪というキーワードを聞き逃さなかったら、間違えないと思うけれど。

 薄暗い地下室の様相も、壁の絵だ。懐中電灯という制限された灯りが、本物のように見せるからすごい。



「この部屋は、これ以上何もないみたいだ。

 あの男の子を追いかけるとしたら、どこへ行けばいいかな」



 一方通行かもしれないと仮定して、桐生は今後のルートを令一にも告げた。

 このまま右の扉、Gへ。そしてHへ。

 そこから上の扉、Lへ。左に移動でK、J、I。

 前に進んでM。

 Mの部屋はドアがひとつしかなく行き止まりのようなので、戻れるかどうかはそこから考えようと令一に伝えた。



「たぶん、部屋Cが駄目だったから部屋Dも開かないと思うんだ。

 それだけ、通りすがりに確認するね」


「何故だ?」


「スタート地点だからだよ。

 僕が追いかけた男の子は、部屋Aがスタート地点。

 農民風の男の子は、部屋Cがスタート地点で、僕らはあの子を追いかけなかったから開かない。

 この仮定が正しければ、僕らが追いかけなかった女の子のスタート地点も施錠されてるはず」


「……。

 桐生。お前、お化け屋敷で推理して楽しいか……?」


「楽しいよ!

 それに、ここは謎解き要素もあるって聞いたから、謎は解ける限り解きたいな」


「ホラー映画で好奇心旺盛な奴は、9割、返り討ちに遭う……」


「ほんと令一、怖がりなのにホラーに詳しいね?」



 桐生は、ゆっくりと部屋Gへの扉のノブを回した。

 鍵は開いている。令一を必要以上に怖がらせないように、桐生はなるたけゆっくり部屋Gに足を踏み入れた。




つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る