第5話

 洞窟の出入り口付近で活動するゴブリンを殲滅した後。

 ゴブリンのボスを探す為、俺は洞窟の奥へと行く事にした。


「よし。それじゃあパルラ、洞窟の中を――」

「――お下がりください、バルド様ッ!」


 しかし洞窟の中を見に行こう、と口にする直前。

 言葉を遮り、パルラが俺を庇うように前に立った。

 その眼は鋭く洞窟の中を睨み付けている。


「パルラ? いったい――」


 どうした、と言葉を続けようとしたその時。

 彼女が警戒する原因が洞窟の奥からやってきた。


「っ……汚らわしい!」

「おお、思ったよりデカいな」


「ギィ――ギギャギャギャギャギャギャギャ!」


 汚らしい緑色の肌。ゴブリンとしては大柄な体躯。

 そしていやらしい笑みを浮かべた醜い顔。


 ホブゴブリン――ゴブリン達を統率する上位種だ。


「はっ。やっぱりここのボスはホブだったか」

「……バルド様、あれは恐らく強化種です。通常種よりも肌の色が濃い」

「強化種、ねえ。ほーん、なるほどなるほど?」


 強化種、なんて言われても俺にはまったく違いが分からんが。

 そもそも実際にホブゴブリンを見るのはこれが初めてだから。

 通常種との違いを見分けようにも、そもそも通常種を知らない訳だ。


「ま、強化種だろうがなんだろうが関係ねえ。ゴブリンは皆殺しだァ!!!」

「はっ! 畏まりました、バルド様!」


 まあ違いなんてものはどちらも殺せばそれで済む話だ!

 俺達はそれぞれの武器を構え、ゴブリンへと突撃した。





 戦闘開始から十数分。戦いは俺達側に優位に進んでいた。


「ははっ、どうしたクソホブ野郎!! 攻撃が全然当たってねえぞ!?」

「ギギィ――グギャギャギャアアアアッ!!!」

「ほうれ、また外れたぁ! はははっ! だっせーなぁ、お前は!?」


 石の棍棒を振るうホブゴブリンの攻撃を躱す、躱す、躱す、躱す。

 合間合間に挑発を入れる事で相手の精神状態を乱れさせ、安定さを欠いた敵の攻撃の隙を突いて剣で斬り付ける。それによってホブは余計に怒り狂う悪循環。


 有効打こそまだ入っていないが、俺は戦闘中常に優位を保てていた。


「めちゃくちゃ苛々してるな。笑える」

「バルド様。そろそろ決着を着けるべきかと」

「パルラ? うーむ、そうだな……」


 翻弄されるホブゴブリンの無様さを嘲笑っていると、他のゴブリンに牽制を入れていたパルラに決着を急かされる。敵を嗤うのは趣味がよくありませんよ、と。


 信頼する従者からの諫言に俺はほんの少しだけ悩んだ。

 彼女の言葉を聞き入れ、ホブで遊ぶのを辞めるか否か。


「……まあ、頃合いか。あんまり長引かせてもな」


 結果。俺は諫言を聞き入れる事を選んだ。


 確かにホブゴブリンで遊んだところで楽しくもない。

 適当なところで終わらせるべきだったからな。


「じゃあ締めに入るか。パルラ、あれをやるぞ」

「あれ、ですね。分かりました」


 パルラが頷くのを確認し、俺はホブの狙いを自身に引き付けた。


「ほらこっちだ! お前の獲物はここにいるぞ!」

「グギャアアアアッ!!! ギギギィッ!!!」


 これまでの成果か、ホブゴブリンは怒り心頭で一目散に俺を狙う。

 怒りに呑み込まれた敵の姿に、ははっ、と思わず笑いがこぼれた。


 そうだ、こっちを見ろ! 余所見なんてしなくていい!

 その間に――パルラは戦技の詠唱を終えられる!


「――我が主の敵に戒めを! リストレイントウィップ!」


 戦技発動。パルラの鞭が伸び、ホブゴブリンを強力に拘束する。

 ホブは拘束を解こうと暴れているが、鞭はビクともしていない。


「今です、バルド様!」

「おうよ!」


 そして従者の合図で俺も戦技を発動する!


「我が剣よ、焔を纏いて敵を切り裂け! ブレイズエッジ!」


 戦技発動。俺の剣が炎に覆われ、灼熱の剣と化す。

 そして俺は灼熱の剣で――ホブゴブリンを斬った。


 ――――斬ッッッ!!!!!


「グ、グギャアアアアアアアッ!?!?!?!?」


 斬った直後、ホブゴブリンの身体は灼熱の炎に覆われた。


 ブレイズエッジの炎は斬り捨てた敵を焼き尽くす炎。

 斬った敵が燃え尽きるまで、その炎が消える事はない!


「ギ、ギギィ……――っ」


 そしておよそ一分ほど炎に纏わりつかれた後。

 とうとう力尽きたのか、重い音を立ててホブは倒れた。


 ……ふぅ。まさか一分も耐えるとは。

 中々しぶとい奴だったな。このホブ。


「ギギッ!?」「ギィギィ!!」「ギギギ、ギギィ!」


 ホブゴブリンが倒れたのを見て、ゴブリン達が逃げていく。 


「おうおう。一目散に逃げてくぞあいつら。自分達のボスがやられたってのに敵を討とうともしないなんて、薄情な連中だな。少しは仲間意識とかないのかね」

「奴らは所詮害獣です。そんなもの、期待するだけ無駄でしょう」


 逃げる奴らを蔑みの眼差しで見送り、パルラは吐き捨てるように言った。


 おお、これまた辛辣だな。見た目の不潔さやいやらしい表情を浮かべる様から魔族女性の多くがゴブリンを嫌悪している事は知っているが、パルラもその例に漏れず奴らの事を嫌悪しているらしい。彼女のこんな表情は滅多に見れない。


「そう怒るな、パルラ。あいつらはゴブリンだぞ? 負けそうになれば逃げるのは分かり切っていた事だろう。一々怒ってエネルギーを使うのは勿体ないぞ?」

「……それもそうですね。手間をお掛けし申し訳ありません、バルド様」

「気にするな。お前の為ならこの程度は苦労の内に入らん」


 そう言うと、パルラは何故か胸元を抑え、顔を逸らした。

 ……? どうしたんだ急に。心なしか顔も赤いような。


 どうしたと尋ねると、なんでもありませんと返された。


 なんでもないようには見えないが……まあ彼女がなんでもないと言うならこれ以上は何も聞かないでおこう。主でも聞かれたくない事くらいはあるだろうからな。


「よし! じゃあ、今度こそ洞窟の中を確認するぞ!」

「はい。畏まりました、バルド様」

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