第4話
「で。とりあえず野良魔界を見つけた訳だが……」
「どうやらゴブリンに占拠されているようですね」
酒場『野良猫の歌声』にて魔王になる事を決意した後。
俺達はワララギア周辺に存在する小さな魔界に来ていた。
目的はこの魔界を現在の支配者から奪取する事。
魔族社会において、魔界とは2種類存在している。
『正規魔界』と呼ばれる魔界と、『野良魔界』と呼ばれる魔界だ。
違いは単純。魔族がその魔界を治めているか否かだ。
魔族が治めている魔界は『正規魔界』と呼ばれるし、そうでないなら『野良魔界』と呼ばれる事になる。支配者がいない場合も『野良魔界』と呼称される。
今回の場合はどうやらゴブリンが魔界を支配しているらしい。
このゴブリン達を倒せば、俺は晴れて魔界の主となれる訳だ。
魔界を手に入れる事は魔王を目指す上で大きな一歩になるだろう。
「そんなに数はいないように見える。この辺りでゴブリンが大量発生したって噂も聞かなかったから、多分魔界自体もそんなに広さがないんだろうな」
「でしょうね。ゴブリンの噂はすぐに広まりますから」
ゴブリンは魔族社会で最も嫌われている害獣だ。
魔族と同じ人型の生物でありながら不潔で野蛮で知能も低い。
なまじ姿形が似ているだけに、余計嫌悪感を強く覚えるのだ。
また奴らは繁殖力が異常に強い。
強さはそこまででもないので駆除する事自体は容易だが、その異様な生命力の高さから気が付けば大繁殖していたという事が頻繁に起こってしまうのだ。
故に、ゴブリンは見つけたら即駆除が推奨されている。
「……ふうむ。なるほどな」
丁度いいサイズの木に身を隠しながら、様子を伺う。
すると数体ほどのゴブリンが活動しているのが見えた。
森で木の実を採取したり、洞窟に出入りしている。
見た感じここは森林と洞窟が連なった『森林洞窟』タイプ。
魔界としてはかなり有り触れているタイプの魔界だ。
資源もそこそこあるようで、狙っている立場としては有り難い。
「ここのゴブリンは魔界の資源を活用する知恵があるようだ」
「ええ。恐らく強力な統率者がいるのでしょう」
「となるとホブかシャーマンか……どっちだと思う?」
「恐らくはホブです。見える範囲に儀式の飾りがありませんから」
ホブゴブリンとゴブリンシャーマンはどちらもゴブリンの進化系だ。
とはいえ統率の仕方には多少違いがあり、ホブが暴力によって配下のゴブリンを支配するのに対し、シャーマンは知力をもって衆愚のゴブリンを心服させる。
まあどちらであっても結局ゴブリンである事には変わりはないが。
そしてパルラはここのボスはホブだと考えているらしい。
俺もまったくの同意見だ。シャーマンだともう少しアレだからな。
「……よし。あいつら油断してるな。このまま仕掛けるぞ」
「はい。何処までもお供します、バルド様」
「うぉおおおおおおおッ!!!」
「ギギィ!?」「ギギギッ!」
雄叫びを上げながらゴブリン達へと突貫した。
気付いたゴブリン達が慌てふためきながら対応しようとする。
「はっ! 反応がおせーよ!」
「ギギギギィッ!?」
そんなゴブリン達を――俺は鉄の剣で切り裂いた。
上がる血飛沫と悲鳴。頬に緑色の血が付着する。
「ギギギギギッ!!」
「はっ。そんなトロイ攻撃、喰らう訳ねーだろ!」
態勢を整えたゴブリンが粗末な棍棒を手に襲ってくる。
だがその動きは鈍重。思わず欠伸が出るほどだ。
呆気なく躱し、振り被った剣でゴブリンの頭を叩き割る。
「ふん。ひとまずはこんなもんか」
近くのゴブリンは一旦殲滅した。
鉄の剣についたゴブリンの血を払う。
さてさてパルラの方はどうなってるかな、と。
俺は唯一の従者へと視線を向けた。
「バルド様に格好悪い姿は見せられません」
茨の付いた鞭を主武装として使うパルラ。
彼女はまるで舞い踊るように戦っていた。
「ふっ、はっ。遅いですよ?」
「ギ、ギギィ!?」
ある時は茨の鞭でゴブリンを絞め殺したり、
「汚い手で私に触れないでください」
「ギギャアアアアアアッ!?」
迫るゴブリンの手を素早く振るった鞭で切り落としたり、
「主の命です。早々に死になさい」
「「「――――――――――ッ!?」」」
数体のゴブリンを纏めて斬殺したりと縦横無尽に活躍していた。
「問題はなさそうだな。ま、当然か」
彼女は従者の中でも屈指の戦闘力を誇っていたのだから。
たかだが害獣であるゴブリン程度に負けるはずもない。
「ん? ……あれは」
遠目に従者を眺めていると、洞窟から新たにゴブリンが出てきた。
「ギギッ!」「ギギギギィ!?」「ギギィ、ギギギギッ!!」
「増援、か。まったく面倒な。さっさと片付けるとしよう」
やれやれと首を振り、俺は鉄の剣片手に駆け出した。
「ぜぇいぁあああッ!!!」
「ギギギィッ!?!?」
十数体目のゴブリンを鉄の剣で切り裂く。
喧しい断末魔を上げ、ゴブリンは倒れた。
「ギ、ギギィ……ッ」「ギギギッ!?」
まだ生き残っているゴブリン達が怯えた表情で後退る。
「は。流石にこんだけ仲間がやられりゃビビるか?」
まあ無理もない事だ。こいつらは所詮は害獣。
己が頂点だと自負する魔族ではないのだから。
強者に立ち向かう勇気など持ち合わせていないだろう。
「バルド様。お怪我はありませんか?」
「この程度の敵に不覚を取ったりしねえよ」
お前の方はどうだ? パルラ。
振り向きざまにそう尋ねる。
「こちらも問題ありません。他愛無い相手でしたから」
鞭から血を滴らせながら少女は答えた。
まあ当然だな、と納得して俺は頷いた。
「さて。この魔界のボスは何処にいるかね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます