第3話
「あのクソ親父っ、俺を追放した事後悔させてやる……!!」
「バルド様。何杯も飲むのは身体によくありませんよ」
「これが飲まずにいられるか! 家を追放されたんだぞ!?」
都市『ワララギア』。酒場『野良猫の歌声』にて。
俺は安酒を飲みながら酔っ払いの如く管を巻いていた。
啖呵を切った後、俺は勢いで親父の魔界から飛び出した。
行く当てなどなく、旅の経験ももちろんない。
ただ親父の魔界から遠ざかる為だけの旅路だ。
当然、楽な旅にはならなかった。
道中幾度となく野生のモンスターの襲撃を受けたし、力のない野良の魔族が食料目当てに襲ってくる事もあった。途中で路銀が尽きるというハプニングもあった。
偶然出会った魔族にお金や荷物を騙し取られてしまった事もしばしば。
しかしとにかく遠くへ行きたいという一心で俺は旅を続けた。
そして紆余曲折の末、どうにか辿り着いたのがここ『ワララギア』だ。
都市『ワララギア』は別名“不干渉都市”とも呼ばれている。
例え何処の勢力に属している魔族であっても、あるいは何処の勢力にも属していない魔族であっても入る事ができるこの都市は、野良に落ちた俺には丁度良かった。
そして――
「バルド様は自ら家を出たので、追放とは言えないのでは?」
「うるせー。今はそんな正論聞きたくねーんだよー」
“申し訳ありません。耳の痛い事を言ってしまいましたか”。
慇懃無礼にそう宣ったのは、美しい銀色の少女。
名前はパルラ=シウテ。
親父に付けられていた従者の多くが俺を見捨てて去っていく中、ここまで付いて来てくれた唯一の従者だ。給金は出せないのに何故か今も従ってくれている。
まあ、ちょっと鉄面皮すぎて可愛げがないのが玉に瑕だが。
とはいえ、彼女に文句などあるはずもない。
今も俺を助けてくれるただ一人の味方なのだから。
「くそっ。どうにかクソ親父に俺を追放した事を後悔させてやりたい! なにかないのか? あんのクソッたれに頭を下げさせられるような、都合のいい方法は」
「難しいでしょう。なにせ英雄なだけありクォドネル様ご自身がかなりお強く、またその伝手もかなり広範に伸びています。ちょっとやそっとの災害が『クォドネリア』を襲った程度では、その伝手を通じて瞬く間に復興が出来てしまう程度には」
ジョッキを横に置いて尋ねると、パルラは首を横に振りそう言った。
くぅ……! 分かってはいたが、やっぱりそうだよな。
でも諦められない。あのクソ親父のヒゲ面に拳の一発でも叩き込まなきゃ、俺の怒りは収まりそうにない。できれば上の立場に立ってもう一度会いたいもんだが。
「そこをなんとか頼む! 良い方法を思い付いてくれ!」
「そうですね……では、上の地位を目指してみるのはどうでしょう?」
上の地位を目指す、だと? 一体どういう事だ。
俺が尋ねると、パルラはしたり顔で答えた。
「簡単な事です。バルド様が魔王になってしまえばよいのです」
「なっ、魔王!? 自分が何を言ってるか分かってるのか!?」
彼女の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
それくらい彼女の口にした事が衝撃的だったからだ。
魔王とは俺達魔族の間で最も立場の偉い者、――ではない。
いや、一側面として正しくはあるのだ。
魔王と呼ばれるような大魔族は大勢の臣下や民を抱えているのが一般的で、ほぼ全ての魔王は実際に王として支配者として、付き従う者達を導いている。
しかしそれは所詮結果的に得られたもの。
魔王の本質を表している訳ではない。
――『魔王』とは、“独力で魔界を維持している魔族”の事なのだ。
だがそれだけなら一見、とても簡単に感じられるだろう。
魔界を維持するだけならそう難しくないんじゃないか、と。
しかし違う。魔界の維持とはそんな簡単な事ではない。
魔族というのは恐ろしく自尊心の強い生き物だ。
何事においても己が一番でなければ気が済まず、格上はもとより同格すら認めないという傲慢さ。それを、僅かな例外を除きほぼ全ての魔族が持ち合わせている。
兄弟姉妹が上下を決める為に殺し合うのは魔族ではよくある出来事だ。
そんな魔族が、魔王という存在を認めるだろうか?
ただいるだけで自身の
――いいや。認める訳がない。
つまり魔王とは、潜在的に全ての魔族に命を狙われるのだ。
それがどのような人物かに関わらず、ただ魔王というだけで。
「バルド様が魔王になれば追放は間違いだったと証明される。加えて、物理的に立場が上になるのです。クォドネル様を後悔させるならこれ以上ない方法でしょう」
「うむむむ……。言ってる事は分かるが、魔王か……」
「確かに魔王という地位には多くの困難が伴います。命の危険すらあるでしょう。しかしその程度乗り越えなければ、英雄たるクォドネル様を越えるのは難しいかと」
……そうか。そうだよな。
そのくらい乗り越えなきゃ、後悔させるも何もないか。
「俺は魔王を目指す! 付いて来てくれ、パルラ!」
「ええ。何処までもお供させていただきます、バルド様」
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