第20話 初デート②
「ご馳走様でした。また来ますね。」
「ご馳走様でした〜。美味しかったです!」
「2人ともありがとうね。またおいで。」
優しいおばあちゃんに別れを告げて喫茶店を後にした2人は、街をぶらぶらしつつ次の目的地へと向かっている。
手を繋いで歩くソフィアたちの元に、1人の女性が近づいてきた。
「こんにちはっ!お久しぶりです!………あれ、ソフィアさん、そのお隣は……?」
「お久しぶりですね。隣は私の恋人のリカです。」
「リカさん……あっ、あのリカさんですか!初めまして!私ルルって言います!……お身体は大丈夫なんですか?」
「えっ?あ、えーと、初めまして。体調は大丈夫ですよ、ありがとうございます。」
「ずっと重い病に
その女性は突然話しかけてきたと思ったら、すぐに走って去っていった。一瞬で嵐のように過ぎ去っていった彼女の様子に、リカは呆気に取られてしまう。
「………なんだかすごい人だったね。それにしても、ソフィーは相変わらず有名人だね~。」
ソフィアが街中で話しかけられたのは、今のが初めてではない。喫茶店を出た後、2人は多くの人に声を掛けられていた。
「それだけ”守護者”の名前は
「……………それだけじゃないと思うよ?」
この街で2人に向けられる視線は、スタンピートの時に向けられていたそれとは全く異なっていた。この街を歩き始めて、ソフィアにも、またその隣を歩いているリカにとっても、不快な視線というのは全く無かった。
道中で多くの人に声を掛けられたが、どれも挨拶の次に来るのはリカの病気の心配と2人の関係に対する祝福の言葉であり、この街の人たちの優しさと同時に、ソフィアのその人望の厚さをまさに表していた。
そんなソフィアに、リカまで嬉しくなる。
「正直、国自体には興味がないですが…………この街と、その人たちを大切にしたいとは思っていますね。」
リカ以外には基本無表情なソフィアは、”守護者”という称号も相まって、最初こそ多くの住民の態度は余所余所しく、遠目に見られるような存在だった。
ただ、ある日の出来事をきっかけに、ソフィアへの態度は変わっていった。
「きっかけは……………………ある小さな女の子と出会った時でした。しゃがんで泣いている所を見つけた私は、何とかしてあげたいと思い、ちょうど木のてっぺんに引っ掛かっていた風船を取ってあげたんです。それを見ていた女の子のお母さんが、とても私に感謝してくれまして…………流石にお金は断りましたが、狭い街ですからその話が一気に広がったみたいなんです。……………今思えば、あの時に初めてこの街の住民になった気がしますね。」
無表情
「あっ、ちょうどこの場所ですね。ここで泣いている女の子を見つけて、この木に登ったんです。」
2人は足を止め、その木を見上げる。その木はリカが思っていたよりも、ずっとーーー
「……………………でかくない?」
2人の見上げる先は、一本の巨大な大木。葉っぱが青々と生い茂り、太い幹の、その幹周はおよそ20メートル、そして樹高は40メートルほどに到達していると見える。予想していたよりもずっと大きく、なんだか神々しい雰囲気も感じるそれにリカは圧倒される。
「あっ、何か書いている。……………この木、特別な木なの?」
「?……………ああ、そうみたいです。なんでも、この木は海神様が顕現した場所という言い伝えがあるみたいで、この国の重要なんとかに指定されているみたいですよ。」
「その木のてっぺんに登ったんだ…………。怒られなくてよかったけど、そりゃ街中の話題にもなるよね。」
おそらく、この木は日本で言う御神木的なものなのだろう。40メートルもの高さがある、その木のてっぺんに登れば街中の話題になるのも必然なような気がするリカだった。
***
「……………あ!ソフィアおねーちゃん!」
近場のベンチに腰掛け、しばらく話し込んでいた2人の会話に、一つの声が混ざる。
花のアクセサリーがついた帽子に、白のワンピースを着た可愛らしい1人の女の子がソフィアの元へ走ってきた。
「ソフィアおねーちゃん!」
「久しぶりですね、マリーちゃん。元気でしたか?危ないから急に走っちゃだめですよ?」
「えへへ、はーい!」
「マリー!急に走らないで!危ないでしょ…………って、あ!ソフィアさんとリカさん!」
現れたのは、今まさに二人が話題にしていたあの女の子だった。そんな女の子を追いかけ、息を切らしながら遅れて現れた1人の女性は、二人を見て声をあげる。
「あれ……ルルさん?」
「はいっ、ルルです!お二人ともさっきぶりですね。ほらマリー、お二人にちゃんと挨拶した?」
マリーと呼ばれた女の子は、ソフィアに挨拶しようとして…………横のリカに気が付く。リカに一度視線を向けたものの、直ぐにルルの後ろに隠れてしまった。その様子に、ソフィアもルルも苦笑いを零す。
「相変わらず人見知りな子ですね、マリーちゃんは。」
「そうなんですよ……。ほらマリー、ちゃんと挨拶しないとダメよ。こんにちはって言ってごらん。」
ルルに促され、スカートのすそをぎゅっと握りしめながら、その影からゆっくりと出てきたマリーちゃん。緊張しているのか俯きながら呟いたその声は、そよ風に流されて行ってしまいそうなほどに小さかった。
「こ、こんにちわ…………」
「ふふっ、こんにちは、マリーちゃん。私はリカだよ、よろしくね。」
リカは笑顔でしゃがみ、マリーちゃんと視線を合わせる。
…………しゃがんだら、リカの方が低くなったなどという事実をソフィアは決して言わない。子どもっぽさを気にしているリカを前にそんなことを言えるほど、ソフィアは鬼ではないのだ。
リカに優しく声を掛けられ、マリーちゃんはゆっくりと視線をあげた。リカの名前が引っ掛かるのか、何かを思い出そうとして首を傾げる。
「リカ、リカ………?んー…………もしかして、ずっと病気だった?」
「………………そうだね。ようやく治ったんだよ。」
「!」
ついに思い出したかのように、マリーちゃんはばっと顔をあげ…………リカに飛びつくように抱き着いてきた。
先程までの人見知りはどこへ行ったのやらな様子にリカは混乱しているが、それを見ていた2人はまるでこうなることを予想していたかのような反応だった。
「わっ……ど、どうしたの?」
「リカおねーちゃん!元気になって良かった!…………あのね!リカおねーちゃんとソフィアおねーちゃんは、私のお師匠さんなの!」
「…………んー?」
マリーちゃんを抱きしめながら、リカは首を傾げる。説明を求めてソフィアに視線を向けた。
「実は、マリーちゃんにはリカのことについて少し話してまして…………」
「マリー、騎士団になって、人助けをしたり、悪い人をやっつけるの!だから強いリカおねーちゃんとソフィアおねーちゃんに弟子入りしたの!」
「………私よりリカの方が強いんだよと一度言ったら、こんな様子でして。………マリーちゃんはずっとリカのことを心配してましたよ。」
「なるほど…………。」
リカはマリーちゃんが抱き着いてきた衝撃で落ちた帽子を拾い、その頭をそっと撫でてから帽子をかぶせてあげる。
「マリーちゃん、心配してくれてありがとね。将来は騎士団に入りたいの?」
「そうなの!騎士団になるのが夢なの!ソフィアおねーちゃんとね、リカおねーちゃんの病気が治ったらとっくんするって約束したんだ!ルルお母さんも良いっていってくれたの!」
ソフィアを見れば、申し訳なさそうにリカに軽く頭を下げる。きっと、このマリーちゃんの純粋無垢なキラキラとした目を前に断れなかったのだろう。
視線をソフィアからルルへと移せば、ルルはもっと申し訳なさそうにしている。
そんなに申し訳なさそうにしなくても良いのだが…………ルルも思うところがあるのだろうか。
「そっか。そしたらまた今度、私とソフィアおねーちゃんの二人と一緒に、特訓しよっか。…………ルルさん、いいですか?」
「わ、私は構いませんが…………」
「ほんと!約束ね!ソフィアおねーちゃんもね!」
「うん、約束ね。」
「はい、約束ですね。」
特訓の約束に満足したのか、マリーちゃんはリカから離れてルルの元へ向かう。嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる姿に、2人は和やかな気持ちになる一方で、ルルはなんだか複雑そうな表情を浮かべている。
「ところで、ルルさんはどうしてここに?」
「……あっ、そうでした!午前の仕事が終わったので、職場に来たこの子と一緒にお昼ご飯に行こうと思って外に来たんです。」
「マリーちゃんはルルさんの娘さんじゃないんですか?」
「マリーは私の姉の娘ですね。続柄的には叔母になるのでしょうけど、よく面倒を見ているので、マリーからしたら第二のお母さんって感じかもしれないですね。」
「第二の、親………」
聞くところによると、マリーちゃんのお母さんは商家の旦那さんに嫁いだらしく、その仕事柄、家を空けることがしばしばあるとのこと。幼いマリーちゃんを連れての馬車の旅路は危険が伴うため、妹であるルルに預けているのだと言う。
「……そうだったんですね。………よかったら、お昼ごはん一緒にどうですか?ソフィーもいいよね?」
「はい。ちょうど私からも言おうと思ってましたので。ルルさんが良ければぜひ。」
2人からの提案に、ルルが何かを言おうと口を開く前に、マリーちゃんが声をあげた。
「一緒にご飯食べる!ルルおかーさんもいいよね!」
「えっと…………お二人の邪魔になってしまいませんか?」
「そんなことないですよ。マリーちゃんも行きたそうにしてますからね。」
「それでしたら…………ぜひご一緒させてください。申し訳ないです…………って、あ!そうだ!この先に美味しい定食屋さんがあるんですよ!ぜひお二人に食べてみてほしいって思ってたんです!行きましょうっ!」
「…………ルルさんも結構子どもらしいところがあるよね。」
「マリーちゃんとルルさん、なんだか似ているような気がしますね。」
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