第8話 明日、新しい2人、新しい関係で①

ー夕食。


ソフィアの手料理を目の前にした梨華が、それはもうソフィアも若干引くくらいの大粒の涙を流したり、初めての魔物オークの肉にビクビクしながらも、食べてみると美味しくて驚いたり、満面の笑みで食べる梨華を見てソフィアが食べる前からお腹いっぱいになっていたり…………と、色々ありつつ食事を終えた梨華とソフィア。


「ところで…………いまさらだけど、ここどこ?」


膨れたお腹をさすりながら、梨華は尋ねる。


「国で言えば、ミニマ王国ですね。その中でもファスト領の此処は、国の中でも最北端に位置しています。ただ、ミニマ王国は大陸最大である帝国の1/10ほどしかないので、いわゆる小国ですね。」


「なるほどね~。なんでソフィアはここに来たの?」


ミニマ王国の北側は海に面しており、反対に南側は"死の森"なんて呼ばれる樹海がある。そのため、帝国の人間に狙われていたソフィアにとっては、この国は立地的にも都合がよかった。


それに、ミニマ王国と帝国は長年激しく対立してきた歴史がある。最初は領土拡大を企てた帝国による侵攻から始まり、それを有利な立地を利用して阻止した王国だったが、未だにその野望は帝国内でも根強いらしい。宗教的にも色々対立があるみたいだが。


「そっか、ソフィアも私も狙われていたんだったね……。犯人は帝国の人なの?」


「そのようです。相手の身に付けていたものが、帝国内のある貴族の紋章だとサナさんが言っていましたから。……名前は忘れましたが。」


ーそれに、帝国に狙われるようになったのは私の失態なんです、とソフィアは零した。


「私がこの世界に来た時は、ちょうど帝国領土内の森でして……そこでたまたま魔物に襲われていた馬車一団を助けたんです。その時は、腕試しくらいの軽い気持ちで助けたのですが……。」


「…………惚れられちゃったとか?」


梨華としては半分冗談のつもりだったのだが、ソフィアはうんざりしたような、微妙な表情で頷いた。


ソフィアの助けた馬車は、ある貴族の子息が乗っていた。助けたお礼をしたいと、屋敷へと招待されたソフィアは、この世界についての情報を貰おうという軽い気持ちでその言葉に乗り、向かっていったのだが…………。


「私はこの世界に来たばかりでしたので、身分らしい身分は全くなく……領土内への侵攻やらなんやらの適当な理由を付けて私を半ば監禁しようとしたんです。寝ている女性を抱えた侵攻者がどこにいるんだと言う話ですが……。」


「そっか、そんときソフィアは私を抱えてたんだもんね。」


「はい。それでどうしようかと悩んいるうちに、子息の父親らしき人が帰ってきたみたいで、その人が今度は梨華さまに興味を持ったんです。」


「えっなに。もしかして……私たちが狙われてたっていうのは、よくわかんない貴族に勝手に惚れられたっていう話?」


思っていた以上にしょうもない理由から狙われていたことを知り、梨華の心の中で怒りが燻る。


「『貴族は面倒くさい奴ばっかだから、関わらない方が良いよ』と後からサナさんには教えてもらいましたが…。あと、この話には続きがありまして……。サナさんによると、その貴族が私たちに仕向けた刺客には現皇帝の息も掛かってたらしいです。」


「皇帝っていうと一番偉い人だよね?それまたなんで…?」


「それが、現皇帝も梨華さまに興味を持ったみたいで………ああ、これは別に梨華さまに惚れたとかいうような理由ではないみたいです。」


ソフィアからすれば、たまたま命を助けた相手からしょうもない理由で狙われ続けたら、イライラもこの上無いことだろう。


ソフィアとしては、自分よりも梨華のことを狙った子息の父親の方を相当憎んでいる。ちなみに梨華はその逆である。


「その貴族から逃げ、道中でサナさんに助けてもらい、色々あって今ここにいると言う感じですね。」


「なるほどね〜。てっきり私としては、『この娘には特別な力が宿っていて、悪である我の組織に必要なのだ。』とかいう展開かと予想してたんだけどね。」


「……自分から悪の組織って言いますかね?まあ、残念ながら梨華さまの想像とは違って…………、いや、案外………。今日はもう遅いですし、もう寝ましょうか。」


「えっ、なんか怖いこと言おうとしてる?別に私が言ったのは適当な予想であって願望じゃないよ?ほんとに。」


梨華としては、ただ惚れられただけの方が、後でボコボコにするだけの簡単なお仕事なので楽だと思っていたのだが、そう簡単にはいかないのかもしれない。


複雑で面倒なのは勘弁だと、梨華は心の中でひとりつぶやいた。



***


お互いにシャワーを済ませ、ソフィアが用意してくれた寝間着に着替えた梨華。


梨華に着せたかったのか、梨華サイズの寝間着は大量にあった。というより、梨華専用のクローゼットがあり、その中には大量の服が入っていた。


聞けば、これら全てソフィアが用意したらしい。ぜひ着てほしいとのことなので、これから先、ソフィアのために全部着てあげようと心の中でひそかに誓った。


…………いくつか混ざっている、かなり際どいのはどうしようかと、少し悩むけれど。


「そろそろ寝よっか。」


「そうですね。梨華さま、おやすみなさい。」


そう言いながら、ソフィアは当たり前のように、先程まで梨華の寝ていたベットの中に潜り込む。


「なんで当然のように私のベットに入ってるの?全然良いし、なんなら一緒に寝ようって提案するつもりだったけどね?」


「…ごめんなさい、いつも梨華さまと一緒に寝てたので、いつもの感覚で…」


「それって私が目を覚ます前の話ってことだよね?」


「はい。梨華さまを守るには、一番近くでと思いまして。因みに私の部屋はありません。」


「それはちょっとズレてる気がするけど……。でも、ありがとう。一緒に寝よっか。………………ん?部屋ないの?」


そうして、梨華も布団に潜り込む。





梨華は一つ、大きく深呼吸をする。激しく鼓動する心臓を宥めるように。


ー梨華がこれからするのは、大事な話。梨華が目を覚ましてから、今この瞬間まで、ソフィアが隠してきたものと向き合う時間。


サナは気づいていなかった。梨華だけが気がついていた、そのお話。




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