第2話「発射!必殺の熱光線」

「まずはッ!突撃ィッ!」

「何ィ!?」


激突する巨体。地面をえぐりながら、ダイレイジョーが魔物を押していく。


「力負けだトォ!?魔物である私ガァ!?」

「おおおおおりゃぁぁぁぁぁぁッ!!」


そのまま力任せに横投げ。魔物がズドンと地面に転がる。


「観念あそばせッ!今のわたくしは、このダイレイジョーなるルビーと一心同体ッ!貴方では到底勝てぬことがわかりますわッ!」

「だまレェェェェェェェェ!!!」


跳ね上がるように立ち上がりながら、巨大な拳をダイレイジョーに見舞う魔物。

しかし、その拳は軽く片手で受け止められる。


「無駄だと言っておりますわッ!」


捕まえた拳を引き寄せながら、もう片腕で腹に一撃。

めり込む衝撃が空気を振るわせる。


「ガッ……!」


再び崩れ落ちる巨体。

戦闘経験などないアンネローゼ嬢が動かすダイレイジョーは、それでもその一撃が重く響く。


「……くソ、ちくショォォォ!!!」


魔物が翼を大きく広げた。

その風圧に、一瞬怯んだダイレイジョーを引きはがすように、魔物は空に舞い上る。


「そうか……、あれがなのか……!」

「あら、お逃げになることも、許しておりませんわッ!」


ダイレイジョーはその右腕を魔物に向けた。

身体ダイレイジョー中の、魔力が右腕に集中する。

指を鉤爪のように曲げ、手の平を目標ターゲットに。

左手で二の腕を抑え、暴れる凝縮された魔力を抑え込む。

右前腕内部で魔力が巡る。回転する様に、廻り、圧縮される。


──魔力充填、120%


右前腕が変形。手の平にエネルギーが凝縮され、赤く、赫く煌めく。


赤石鋼機熱光線ダイレイジ・ルビー・ビームッッッ!!!」


開放。

一筋の熱線が、掌から照射される。

視界が、赤白く染まる。


その熱光線は振り返った魔物を呑み、声一つあげさせずに蒸発させた。

そして夜空を、貫いた。


ジジッと音を残し、熱光線の照射が終わる。

反動で数メートル後退したダイレイジョーは、右前腕部の排熱機構から蒸気を排出。再変形し腕が元に戻った。


「はぁ……、はぁ……、終わり、ました、わ……」


安堵すると同時に、ドッと身体中の力が抜ける。

そして、視界がぼやけ始めた。


「いけま……せんわ……、血を……流し……すぎ……」


そうしてわたくしは、ダイレイジョーの中で意識を失った。







さて、その後がとにかく大変だったことは説明せずともお分かりいただけるだろう。


ダイレイジョーの中で目を覚ました私は、すぐにダイレイジョーを再起動。

その巨腕で地面を掘り返し、ダイレイジョーを地に埋めた。


「こんなものに乗って帰ったら、お母様が失神いたしますわ……」


まぁ結論から言うとボロボロになった私を見て結局お母様は失神した。


私が街に戻った時、あの後無事に街に戻った子供達が大人に報告し、今まさに大規模捜索隊が編成されたところであった。


その先頭に真っ青な顔をした工務店の彼ガイがいたのは笑ってしまったけれど。


ともあれわたくしは、無事に家に帰ることができた。

気絶するようにベッドで眠り、次に目を覚ました時は丸一日経っていた。


ベッドの上で暖かいスープを啜り、ふぅと一息ついたところで考える。


あの魔物は、一体何だったのだろうか。

あのルビーは、いったい何だったのだろうか。


「ダイレイジョー……」


あれは純粋なルビー塊に見えて、高純度のルビーのみで構成された巨大な魔道具と言った方が正しいのだろう。


搭乗者の魔力を練り上げ、循環させ、増幅させる装置。

魔力をフィードバックさせ、機体に刻まれた使い方を搭乗者の脳に直接叩き込む兵器。


「die rage joe……。どういう意味かしら」


ルビー・アンネローゼは、いわばモノづくり大好き人間。超弩級のクリエイタータイプである。


そんな彼女の脳内では、既に魔物は消え去り、ダイレイジョーなる未知への興味が占めていた。







「ということでガイ。これがダイレイジョーですわ!」

「何だコレェぇぇぇぇ!!!」


気になったら調べる。当たり前のことである。

まずは魔道具に詳しいガイを、ダイレイジョーを埋めた場所まで呼び寄せた。


「わたくしの見立てでは、これは古代魔道具。オーパーツと呼ばれる者の一種だと思いますの」

「いや待ってください」

「仕組みもカラクリも、何もかも理解できない超高次元なものだと感じましたわ」

「いやそのちょっと待っ──」

「もしかしたら、千年前にあったと言われる魔物との戦争で使われたものかも」

「ちょっと!!!待て!!!!」


珍しくガイが吠えました。


「お嬢様、これを掘り起こしたんですか!?」

「えぇ、掘り起こしましたわ!」

「これに乗ったんですか!?」

「ええ、乗りこなしましたわ!」

「で、巨大な化け物と戦った!?」

「ええ!勝ちましたわ!」


あ、ガイが倒れましたわ。




「なるほど確かに、これはすごい」

何とか落ち着いたガイがダイレイジョーをペタペタと触る。

「この巨体、構成しているルビーの内部に超高密度な魔力回路がびっしりと構築されています。こんな芸当、今の技術じゃ誰もできないですよ……」

「ええ。しかも簡易的な命令で複雑な動きが取れるよう学習プログラムされていますわ。あまりに複雑すぎて、何にもわかりませんわ」


服は、糸を織ってできている。

だが人はその糸一本一本に意識を向けることなどできないだろう。織り重なった「一着の服」としてそれを認識する。

ダイレイジョーもいわば同じ、魔力回路が緻密複雑精密すぎて、解読自体バカらしくなってくる。


「そうだガイ、貴方も乗ってみます?」

「え、いいんですか?」


ダイレイジョーは、外からでも簡単な命令が送れることがわかった。

地面から掘り出した時に使った「近づいてこい」という命令。

そして今登場する際に使った「ハッチを開けろ」という命令。


命令を受け取ったダイレイジョーはゆっくりと屈み、ハッチを展開して手のひらを地面スレスレに差し出した。


しかし、ガイを操縦席に座らせ操縦桿を握らせたが、何の反応もない。

ガイにダイレイジョーは反応しなかった。


「操縦できる人間が限られているようです。魔力量か、質か、はたまた……」

「ルビー家だから、操縦できるのか」


結局その日、何もわからないということがわかった。

いやいやこれでいいのだ。わからないものを、仮説、実験、仮説修正、実験、その繰り返しで理解する過程。そこもまた非常に面白いものなのだから。


ダイレイジョーがある周囲を広く「地盤の影響で危険」ということにして立ち入りを禁じ、ガイにひとまず機体の調査を任せた。






「失礼致します。お嬢様」


数日後の晩、爺やが私の部屋をノックする。


「頼まれていた文字の解読が終了いたしました」

「まぁ!すごく早いわね、ありがとう爺や!」


爺やには、ダイレイジョーに浮かんだ文字「die rage joe」の解読を依頼していたのだ。


「それで、なんて書いてあったの?」

「はい。お嬢様に頂いた文字列は、古代勇者文字で書かれておりました」

「古代勇者文字……?」

「ええ。お嬢様もご存知とは思いますが、千年以上前、この世界は魔王と人間の壮絶な戦いが繰り広げれておりました」

「え、えぇ習っておりますわ」

「そして千年前、ついに魔王を討ち払った者。それが勇者マイク。伝承によると、その時代の強力な魔法使い百人が、その命を賭して異世界から召喚した男性だったといいます」


異世界から召喚された勇者マイク。

正確な顔や記録はその多くが千年で失われてしまったが、伝説は今でも残る。

『勇者マイクと四人の騎士』

この国で最も有名なお話と言って良いだろう。

子供向けに色々改変されていたりするが、その人気は色褪せない。


「実は、勇者マイクは初め我々とは違う言語で話していたようなのです」

「異世界語というわけね」

「ええ。それが古代勇者文字。お嬢様からいただいたこの文字でございます」


やはり、ダイレイジョーが千年前の物だという読みは合っていそうである。


「そして、この古代勇者文字を解読すると、この文字列はこう書かれていることがわかりました」



「ダイレイジョー。die怒りrage鉱石joe



やはり、名前。

この名をつけた人は、いいえ、この名をつけたのが勇者マイクだとするのなら、どんな思いだったのだろうか。


何となく、わかった気がした。

ダイレイジョーは、魔王への憎悪と殺意によって作り出された兵器。

千年前の、古代兵器なのだろう。


「お嬢様、爺やは恐ろしゅうございます。お嬢様はいつこのような文章と出逢われたのか。爺やはこの文章が、平和なものとは思えませぬ」

「あ、あぁ。大丈夫ですわ!これは、そう。図書館で偶然見つけたんですの!勇者マイク伝説の、何かの本でしたわ!やっぱり勇者関係でしたのね!ありがとう爺や。わかってスッキリしましたわ!」


心配する爺やを何とか誤魔化し、再び自室に一人。

人間が魔物になった、あの晩のことを思い出す。


「あの魔物を、今の兵士たちが倒せるとは到底思えませんわ……」


そして、子供たちのことを思い出す。


「もし、また何かあったときは、わたくしが、出撃なくては……」







「なに?ゼドと連絡が取れない……?」


ジェムリアのどこか。人目のつかないどこかで女が口を開く。


「はい。予定ではガキを攫って既にここに到着しているはずなのですが……」

「……裏切りは」

「ありえません。あいつは頭に血が昇りやすいですがバカじゃない。我々を裏切るというリスクが高すぎる愚かな真似を、する奴じゃありません」


女はしばし黙り込むと、再び口を開いた。


「ガルマ、ルビー領へ行きゼドを探せ。……何かあったら、暴れてかまわん」

「承知」


ガルマと呼ばれた男は深く一礼すると部屋を出ていった。

一人残った女は、浅く息を吐くと呟いた。


「まさか、な……」


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