鉱機令嬢ダイレイジョーG

遠藤ぽてと

プロローグ「発進!鉱機令嬢ダイレイジョー!」

「はっ……!はっ……!」


月の明るい夜だった。

夜にしか開かない花、月光花はとある病の薬になる。

母のために月光花を摘もうと渓谷にやってきた私は、巨大な何かに追われている。


その巨体は月を隠し、大きな影を落とす。

もつれる脚で逃げる私が、あんな化け物から逃げられるはずがない。

アレがその気になれば、私は3秒で胃の中である。


──遊ばれている。


泥と涙と鼻水で、ドロドロになりながら無様にもがく私を、アレは嗤っているのだ。


悔しいなどと思うはずもない。今はただ、恐怖と生への渇望で足を動かすのみ。

そして数分、はたまた数秒後のことだっただろうか。

遥か、遥か先に村の篝火が見えた。

ちらりと光るそれは、希望の灯火であると共に、その遠さは私を絶望させるに十分だった。


到底辿り着けそうにもないその距離に、心折れて足を止め──ない。


一秒でも長く時間を稼げ。

一歩でも近く村へ近づけ。

あれを飽きさせぬよう、無様に尻を振って走れ。

転んで、擦りむいて、泥だらけになってフラフラで逃げろ。


母さん。父さん。みんな……!

絶対に、帰るから!




「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」




「よく吠えましたわッッ!」



──赤い流星が、墜ちた。


見間違えか。巨大な人型が、化け物相手に飛び蹴りをかましたのだ。

赤い軌跡を残しながら、目にも止まらぬスピードで。


地面を抉りながら転がった化け物と、私が口を開いたのは同時だったと思う。


「なんダ!貴様ハ!」

「あなたは、いったい……?」




「煌めく赤は勇気の炎。迸る、愛と怒りの焔の音──」


月光を受けて、赤く、赫くそれは煌めいていた。



「ダイレイジョー。発ッ進ですわッ!!」




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