メユカは千回だって好き
加須 千花
久自良、大好きだよ。
冬を越え、春に咲く花を手折り持ち。
あなたに千回も───
万葉集
* * *
奈良時代。
あたし、
長い
あたし達、
「
夜の闇のなかでみる、丸い頬の形。
全部好き。
全部好きだ。
幼馴染みの頃から。今も。逢えない間も。ずっと好きだ。
「あたしも逢いたかった。寂しかった。ずっと、帰りを待ってたよ。」
久自良は、たくさんの傷が身体に増えていた。どれも治療のあと……、わざと火傷させて、傷を塞いだあとがある。
斬られた時も、傷を塞ぐ時も、痛かったろうに。
可哀想に。
無事に帰ってきてくれて良かった。
本当に……。
* * *
久自良は、いろんな土産話をしてくれた。
一番驚いたのは、久自良の上司、
なんと、豪族の娘を妻にし、その家の婿になり、鎮兵を辞めるそうだ。
真比登といえば、強くて強くて、負け知らず。多賀の鎮兵に真比登あり、
「鎮兵抜けるの、もったいないわね?」
「うん。オレもそう思う。
でもとにかく、真比登が豪族の娘にメロメロで。離れられないみたいよ。」
「へぇ。豪族の娘……。
こう言っちゃなんだけど、真比登、
豪族の娘は、そこはどうなの?」
「それがねぇ、稀有な気高いお心の持ち主で、気にならないみたい。
豪族の娘も、真比登にメロメロでさ。すごいんだぜ?」
「ふうん?」
「衆人環視のなかで、真比登の頬をぎゅっとつかまえて、自分から口づけしちゃうの!」
「えっ?!」
(話を盛りすぎじゃない?)
「本当に?」
「本当なの。何回もしてた。皆、
あたしはクスクス笑った。
「それ、最高だね! 真比登、良かった。
あたしも衆人環視で久自良に口づけ、しちゃおうかなぁ?」
「やっ、やめて! オレは恥ずかしい!」
「ぷっ、あははは!」
あたしは大笑いした。
「わかったよ。久自良が嫌がること、あたしがするわけないじゃん。」
そして、優しく、口づけをする。
「
「
* * *
季節は流れ。
冬過ぎて春。
夏草の茂る夏。
白い雲、夏の眩しい日差しのなか、
「どぉっせーい!」
「おぁぁああ!」
今日は、年に一回の、多賀の鎮兵のお楽しみ、相撲の
普段、鎮兵の鍛錬を、妻たちは見学できない。
でも、この相撲の節会は、お祭り。
妻たちの観戦も許されている。
男たちが相撲をとり、優勝者には、米一
雑穀じゃないよ!
お米だよ!
「今年の米は?」
「
「じゅるり。」
兵舎住まいの妻たちがお喋りをする。
米はご馳走。
品種によっての違いも、貴族のあいだでは
もちろん、あたしら
(
「
それが、今年は、決勝まで進むことができた。
「
勝ってぇ───!」
自分より背の高い相手と組み合い、力比べをしていた久自良が、
「せあァッ!」
相手の
「優勝、
と宣言した。
「きゃああ! やったあ───! 米ーっ!!」
(なんてかっこいいの、
あたしは、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
肩で息をする
大好き。
何回だって、千回だって。
ずっと好きだって、伝えたい!
だからずっと、そばにいてね……。
───完───
↓挿絵です。
https://kakuyomu.jp/users/moonpost18/news/16818093088012210322
メユカは千回だって好き 加須 千花 @moonpost18
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