第3話 承諾

 しばらく沈黙が続いた。


 「先輩の代わりなんてそうそう見つかりませんよ」と武志。「先輩、顔だけはアイドル並みにイケメンだから。」


 「そんな言い方するなよ」と裕二。「俺だって分かってんだよ。歌もギターもそこそこで大したことないってよ。」


 「先輩、認めるんですか?」と武志。


 「分かってんだよ!」と言いながら裕二はテーブルをバンと叩いた。「俺に音楽の才能なんてないんだよ!ただちょっとルックスがいいだけの男なんだよ!」


 「先輩、いつも言ってたじゃないですか、自分を信じろって」と武志。


 「もう、才能のあるやつと張り合うのは嫌なんだよ!気休めの言葉で自分をごまかすのは限界なんだよ!」と裕二。「だからよ、俺はもうプロを目指すのやめたんだ。」


 「そうだったんですか」と武志は驚いた顔をした。


 「俺は大学卒業したら適当な会社に就職してよ、適当な女と結婚して子供作るんだ。東京なんていかないで、生まれたこの町でヤンキーとして生きていくって決めたんだよ」と裕二。「だからよ、せめて卒業まではライブを見に来てくれる女の子たちにチヤホヤされて楽しくやりたいんだよ。」


 「今までとあんまり変わらないと思いますけど」と武志。


 「そんなことねえ。これからはナンパ一筋だ。音楽なんてクソくらえだ。俺はナンパのためにライブやるんだ。」と裕二。「だからよ、真理みたいなまじめな女はお呼びじゃねえんだ。俺みたいなダメな男とは釣り合わねえんだよ。」


 「オレ、真剣な顔した先輩って初めて見ました。かっこいいっす」と武志。


 「何言ってんだよ、お前」と裕二。「それで、わかってくれたのかよ。」


 「わかってますよ。先輩がクズやろうってことは」と武志。


 「じゃあ頼んだからな」と裕二。


 「姉貴のことは任せておいてください」と言って武志は席を立った。

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