第8話 誘惑

 真理の宿題が終わるころには、すっかり日が暮れて外は暗くなっていた。部屋には真理と二人きりだった。


 真理が勉強机の前に座って、その後ろから裕太が立って教えていた。真理の後方上からの裕太の視点では、真理の胸元が上から見える。袖のないシャツの下はノーブラだった。バストの先端がシャツの生地から浮き上がっている。


「裕太君、お礼させてよ」と真理が言って立ち上がった。裕太は「え?」という間もなく、真理に抱きかかえられた。真理は裕太より頭一つ分背が高かった。真理は裕太を抱えたまま、前かがみになって顔を近づけた。


「いいでしょ?」と真理。裕太は小さくうなずいた。真理は裕太の唇にキスをした。



台所で夕飯のハンバーグを焼く準備をしていた母の智子が、ダイニングをうろうろしている武志に言った。「ひょっとして、あんたあの男の子を真理のために連れてきたのかい?」


「ショタ好きの姉貴好みだろ」と武志はどや顔をした。「ドストライクだと思うぜ。」


「育ちのよさそうな子だね」と智子。


「ああ、父親が大学の先生だってさ」と武志。「頭がよくて落ち着いててよ、オレたちとは住む世界が違うって感じだよ。」


「心配だわ」と智子。


「子供じゃないんだから、大丈夫だって」と武志。


「真理が間違いを起したらどうするんだよ」と智子。


「最悪でも姉貴が裕太に子供産ませるとかありえないから、安心しろって」と武志。


「何言ってんだよ、あんたは」と智子。


「イヤッ」という真理の叫び声と、パシッという肌を平手で打つ音がした。さらに「出て行って!」という真理の声がすると、階段をタタタタ、と駆け降りる音がした。


 智子と武志があわててドアを開けて廊下に顔を出すと、裕太が玄関で靴を履いていた。「お邪魔しました」と裕太は頭を下げて挨拶をすると、逃げるようにドアを開けて出て行った。

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