第10話 謝罪

 昼休みに、武志は裕太を校舎の外の人気のない場に連れ出した。


「昨日は悪かったな」と武志。


「何のこと?」と裕太。


「お前の左ほほ、まだ腫れてるぞ。姉貴にやられたんだろ」と武志。


「金山君は何も悪くないよ」と裕太。


「実はさ、姉貴、最近失恋したらしくてさ」と武志。「それで、元気づけようと思って、お前を家に連れていったんだ。姉貴もお前が一度家に来たこと覚えててさ。お前のこと気になってたらしくてよ。」


「お姉さんにまた会えてうれしかったよ」と裕太。


「ほんとか?」と武志。「いやじゃなかったのか?」


「いやなわけないよ」と裕太。


「あんなごついゴリラ女がいいのかよ?」と武志。


「モデルみたいにスタイルよくて、かっこいいと思うよ」と裕太。


「お前、変わってるな」と武志。


「そうかな?」と裕太。


「それでさ、姉貴がお前に謝りたいって」と武志。


「ぼくが悪いんだから、謝らないといけないのはぼくのほうだよ」と裕太。


「そうなのか?」と武志。


「ぼくが無理やりしたから」と裕太。


「お前、ひょっとして、姉貴とやったのかよ」と武志。


「え?まあ」と裕太。


「まじかよ」とつぶやいて武志はしばらく黙り、「お前って、すげえやつだな」と言ってまた黙り込んだ。姉の真理が女性であることに初めて気がついたような気分になった。


「姉貴がまたお前に来てほしいってさ」と言って武志が笑った。


「本当?」と裕太は少し驚いた顔をして武志を見た。


「それから続きをしてあげるって伝言頼まれたよ」と言って武志はへらへらと笑った。


「ぜひまた会いたいって伝えてよ」と裕太。


「ああ、わかった」と武志。「ところでお前、何やって姉貴に平手打ちされたんだ?」


「それは言えないな」と言って裕太が初めて笑った。武志には目の前の裕太が、今までとは別人のように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姉の失恋 G3M @G3M

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画