姉の失恋

G3M

第1話 プリン

 金山武志がダイニングルームで朝食を食べていると、台所で姉の真理が金切り声を上げた。「武志!あんた私のプリン食べたでしょ!」


 「しらねえよ、そんなもん」と武志。


 「しらばっくれても無駄よ!」と真理。


 「どこにそんな証拠があるんだよ」と武志。


 「証拠?あんた以外に食べる人いないでしょ。だからあんたが犯人よ。証明終わり」と真理。


 「状況証拠じゃ有罪にはならねえよ」と武志。


 「なんだと?あんたにはたっぷり前科があるんだよ」と真理は武に近づいた。「しばいて自白させてやる!」


 「ちょっと待て、姉ちゃん」と武志があわてて腰を浮かせた。「ほんとにオレじゃないって。」


 ガチャリとドアが開いて母親の智子が入ってきた。「何してるのよ、あんたたち。」


 「武志が私のプリンを食べたんだ」と真理。


 「おれじゃないって、ほんとに」と武志。


 「あんた、夜中に酔っぱらって帰ってきてから、ここでケーキだのドーナツだの食べてたでしょ。忘れたのかい?」と母。


 「あんまり覚えてない」と真理。


 「あんたまだ酒臭いわよ。シャワー浴びてきなさい」と母。


 「わかったわよ」と言って真理は部屋を出て行った。



 「なに朝からカリカリしてんだよ、姉貴は」と武志。


 「失恋したんでしょ、ほっといてあげなさい」と母。


 「失恋って、笑っちまう。姉貴、男と付き合ってたの?」と武志。


 「どうかしらね。だけど、ある程度お付き合いしてたから落ち込んでるんでしょ」と母。


 「へえ。あんなゴリラ女と付き合う男がいるなんて信じられねえ」と武志。


 「あんた一言多いわよ」と母。「食べたら早く学校行きなさい。遅刻するわよ。」

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