追放の森のいばら姫~冷徹な魔女と追放された侯爵令嬢は、なぜか王太子殿下に溺愛されています~

深水えいな

第六章 侯爵令嬢の帰還

第26話 真犯人は誰?

 ユジと別れたレゼフィーヌたちは王都へと向かう馬車を借りた。


 乗合馬車もあるけれど、再び襲われる心配を考えたらやはり貸し切りのほうが良い。


 二人は御者に前払い金を渡すと、古びた馬車に乗りこんだ。


「それにしても、ユジを魔法で操った人物は誰なのかしら」


 レゼフィーヌがあごに手を当て考え込む。


「心当たりはない?」


「私に恨みを持つ人物……とするとお継母様とリリイかしら。私が妹のポーラに魔法をかけて呪ったと思ってるから恨んでいるのかも」


 レゼフィーヌが言うと、シルムはうーんと上を向いて考えだした。


「そうかもしれない。でも、そもそもポーラ姫様に呪いをかけたのは誰なんだい?」


「それは……分からないわ。産まれたばかりの赤ん坊に恨みを持つ人なんて思いつかないもの」


「皇后様や国王陛下が誰かに恨みを買っていたということはない?」


「分からないけど、王族だから敵はたくさんいると思うわ。王座を狙う親戚はたくさんいるから。あとは……あの日祝福を授けた魔女の中にお父様の愛人がいて、それで姫の誕生を妬んで魔法をかけたとか?」


「それはありそうかもね」


「それから……気になるのはお抱え魔導士のゼンよ」


「侯爵家にお抱え魔導士が怪しいのかい?」


「ええ。 思えばあの時、私の目にも出席していた魔女たちから見てもポーラが呪われていると明らかだったのにゼンだけはそれを認めず、結果的に私は追放されたわ」


 それにポーラの治療もゼンに任されているはずなのに全然進んでいない。


「でもユジが出会ったのは女性だったんだよね?」


「そうなのよね。ゼンが魔女を雇ったりグルになっている可能性もあるけれど」


 ポーラが産まれた時に祝福の魔女を手配したのは侯爵家お抱え魔導士のゼンのはず。


 だとするとゼンと魔女のあいだにコネクションがあってもおかしくない。


「その辺りを調べてみないとね」


 レゼフィーヌとシルムが色々と考えを巡らせているうちに、馬車は侯爵家の城に到着した。


 笑顔で出迎えてくれたのはレゼフィーヌの父親、アリシア侯爵だった。


「よくぞ戻ってきたな。お前が居なくなって大変だったぞ」


 いやいや、私を追放したのはあなたでしょうが。


 レゼフィーヌは、そう言いたいのをぐっとこらえて笑顔を作った。


「お久しぶりですお父様」


 レゼフィーヌはチラリと父親の顔を見る。


 てっきりなぜ城に戻ってきたのかと怒られるものかと思っていた。


 けれどアリシア侯爵は思ったよりも怒っていない――というか、どちらかというと上機嫌に見えた。


 あらかじめシルムや国王陛下が上手いこと手紙を書いてくれたからだろうか。


 それにしても……六年も会っていなかったからだろうか。


 アリシア侯爵の頭には、白髪がぐっと増えたように見えた。。


 頬はげっそりとやつれ顔色も悪いし、確かにアレクの伝えた通り体調が悪いように見える。


「それでは、疲れただろうから今日はゆっくり休みなさい。部屋にはハンナに案内してもらうといい」


 アリシア侯爵がくるりと踵を返す。


 その瞬間、レゼフィーヌは思わず「あっ」と声を上げた。


 アリシア侯爵の背中に、見覚えのある黒いモヤのようなものが見えたからだ。


「どうした?」


 アリシア侯爵が不思議そうに振り返る。


「いえ……お父様、体調がすぐれないようですので、疲労回復の魔法を授けてあげますわ」


 レゼフィーヌはアリシア侯爵の背中に小さく魔法陣を書くと、呪文スペルを唱えた。


「――散」


 オレンジ色に光と共に、アリシア侯爵の背中に憑いていた黒い瘴気が消えた。


 良かった。そんなに強い魔法じゃなかったみたい。


「おお、なんだか肩が軽くなったようだ。ありがとう」


「いえ、エマ婦人の家でたくさん魔法を教えていただけましたので」


「おおそうか。その話もあとでじっくり聞かせてもらうよ」


「ええ、ではまた後ほど」


 レゼフィーヌは去って行く父親の後ろ姿を見送った。


 ――お継母様とリリアはいないみたいね。外出中かしら。


 二人が城に来ることは伝えているはずなのに。


 そうレゼフィーヌが思っていると、メイドのハンナが走ってきた。


「お嬢様! 久しぶりにございます」


 涙ぐみ、頭を下げるハンナ。


「あらまあ……立派なご令嬢に成長なされて、感激にございます。今、お部屋にご案内しますね」


 レゼフィーヌたちは、ハンナに案内されて来客用の部屋に向かった。


「……ずいぶん、見慣れない使用人が多いわね」


 レゼフィーヌは辺りを見回しポツリと言った。


 レゼフィーヌが子供のころにいた使用人がハンナ以外はほとんどいない。


 ハンナは苦笑する。


「それは……奥様とリリアお嬢様が気に入らない使用人をどんどん首にしていくので……こちらとしてもベテランや中堅の腕の立つ使用人をあんなに首にされては大変なんですけどね……あ、このことは他の人には内緒にしてくださいね?」


「ええ、大丈夫よ」


 どうやらハンナも相当苦労しているらしい。


「レゼ様はこちらの部屋に、シルム様はこちらへどうぞ」


 ハンナが客室の鍵を開ける。


「隣同士の部屋なのね。近いほうが色々話もできるし助かるわ」


 私とシルムが目線を合わせてうなずき合うと、ハンナは心なしか頬を染めて笑った。


「そうですわよね。お二人の話、聞いております。婚約、本当におめでとうございます。私、レゼフィーヌお嬢様が幸せになられて本当に嬉しいです」


「ありがとう」


「それではごゆっくり」


 オホホホホと笑いながらドアを閉めるハンナ。


 どうやら私たちの話は使用人たちにも伝わっているらしかった。


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