今日も今日とて

無味ヨーグルト

スキップの時間

 たった16年しか生きていないのに、悩みや後悔が尽きない。

毎日毎日、悩んだり、悔やんだりするのに何も解決しない。奇跡的に悩みが解決したと思ったら、次の悩みが湧き出てくる。それに、解決した悩みだって、またいつしか悩みに戻ってしまう。そして。またもう一度同じように悩んで、同じような解決策をだして、、、、。その繰り返しだ。

つまり、悩みはループされているので、新しい悩みより使い回しの悩みばかりである。それでも、時間の無駄だと分かっていて止められない。それが、悩みなのだ。


 そう思いながらため息をつきながら、布団に入る。


今日も悩みの時間がやって来る。私が悩むときは、たいてい夜。布団に入って寝るぞと目を瞑る時に悩みの悪魔がやって来るのだ。

 


 

 (今日こそはすぐ寝れますように。)と願ってから、目をぎゅっと閉じた。


 だが、その願掛けは全く効果がなかった。目を瞑ると、今日1日の振り返りが始まってしまったのだ......。






今日は、新学期初の登校日だった。私、男虎夢李は今日から高校二年生だ。高校二年生って、なぜか輝いて見える。

 自分なりに無理やり理由を作ってみた。


「新しい環境に慣れるために必死な高校一年。新しい環境に飛び込むための準備期間の高校三年。間の二年生は、なんのしがらみもなく自由な感じがする。したがって、高校二年生は輝いて見えるのだ。」

 

 理由を自分で作っておいて、学校に慣れるのに一年も費やすのかと一瞬疑問に思ったが、「無理やり作った理由」なので小さいことは放っておくことにした。

 私は、いつも通り歩いて、でも心の中ではスキップしながら学校まで行き、二年生が使用する下駄箱の前の机に置いてある新クラスが記載されている紙を手に取った。


 華の高校二年生には高校最大のイベント、修学旅行がある。修学旅行は、普通の勉強合宿ではない。旅行だ。思い出作りのための旅行だ。思い出づくりに必要不可欠なのは、仲の良い友達。私はそう考えている。そのため、高二のクラスは高校三年間のクラス替えで最も大事だと言っても過言ではない。

 

 私は、神様。神様。神様。と呟きながら紙に目を通した。


(やった!!当たりだ。)


 

 厳つすぎる自分の名前「男虎夢李」は、すぐに見つけることができた。私は二年六組だった。出席番号は九番。新二年六組は、なぜか異常にあ行の人が多すぎる。あ行だけで十一人もいるのだ。

 いつも一緒にいる安住真希、江崎くるみの名前も見つけた。三人とも同じクラスだった。私は、ガッツポーズをした。よしっ!!

 そして、クラスメイトと同じくらい大事なのが担任。二年六組の担任は、理科の教師佐藤だった。佐藤は、20代後半の男性で、細身で高身長。そして、天パ。職員室よりも、理科準備室の方が居心地が良いのか、授業のとき以外はほぼ理科準備室にいる。生徒と話している姿を全然見かけない。謎多き人である。

 新しい担任も別に悪くない。なんなら、生徒に干渉しすぎる教師が苦手なわたしにとって、佐藤先生は当たりかもしれない。

 

 私は嬉しさのあまり、クラスを確認してからずっと心の中でスキップをしていた。  

 しかし、心の中だけでは嬉しさが収まりきれず、新しい教室までスキップで行ってしまった。これから先、一生後悔することも知らずに。

 途中、たくさんの人が私を見ていたけれど、浮かれていた私には見えていなかった。




「...!!ゆ...り...!!ゆり.....!夢李...!.......ちっ、夢李のあほやろう!!」


 名前を呼ばれて、ハッとした。足を止めると二年六組の教室を通り過ぎようとしていた。私は、やっと我に帰り、教室に入って座席を確認し自分の席にカバンを置くと、教室の後ろの角にいるくるみと真希のところに行った。その間ずっと、廊下にいる人たちの視線が私に向いているのを感じといた。前を向けず、ずっと下を向いている。恥ずかしすぎて体が熱い。ホントに恥ずかしすぎる。

 私の名前を連呼したのは、中学時代から友達のくるみ。薄い前髪に肩ぎりぎりのボブで、大人っぽい顔立ちと性格も合わさって、私は心の中で姉貴と呼んでいる。誰からも頼りにされていて、中学では副生徒会長を担っていた。少々、口が汚いところがある。くるみは、呆れて言った。


「まじで、あんた何やってんの。恥ずかしすぎでしょ。高校生にもなってスキップっ   て...。はぁ、友達やめたい。こっちまで恥ずかしいよ、もうっ。」

 

くるみの友達やめたい発言は、変な言動をした私や真希に言う口癖みたいなもので、本気のやつではないのでいつもスルーしている。が、ときどき、この口癖にイラッとしないこともないわけではない。


「ほんとに、無意識なの。自分でもびっくり...!クラスが最高だったから嬉しくてつい....。」

私は、下を向いて恥ずかしさでどんどん声が小さくなっていく。

 くるみの後ろにいる真希は、私が教室に入った時からずっと笑っていてツボから抜け出せずにいた。真希は、高校からの友人で髪型はショートカット。制服指定のリボンは、首が苦しいからと、休み時間や放課後は外してスカートのポケットに入れている。中学時代ソフトテニス部だったので、こんがり日焼けしている。中学時代、結構良いとこまで行ったらしいが中学の練習がきつかったから強豪校の推薦を断り、うちの学校に来たらしい。今は地域のサークルで週に一度ソフトテニスを楽しんでいる。


「くっはははははっっっ.....!!!.....っっは!!!!.....しんどすぎるって...。うれしくてついって...!夢李ってまじ謎行動多いよね。面白すぎる....っっはは!!」


 真希は癖の強い笑い声を教室に響かせていた。

 真希は結局、笑いがとまらず朝のチャイムが鳴って、担任が教室に入ってくるまで笑っていた。先生が話している間も、思い出し笑いをして肩を震わせていた。と、休み時間にくるみから聞いた。

 

 私は、授業中先生の話は上の空でずっとスキップのことで頭がいっぱいだった。忘れようとしても、脳内にへばりついている...。後ろの席だったら、

(クラスメイトの誰かが私のスキップを見ていたかもしれない。今私を見ているかも)と周りを気にしすぎて顔を上げれずにいただろう。しかし、実際は一番前の席だったので、私の目の前にはさっきまで理科準備室にいたであろう佐藤先生しかいない。スキップ姿を見たかもしれない人の顔を見らずにすんだため、不幸中の幸いだった。

 

 しかし、別にどうでもよいことなのだが「あ行多すぎ問題」のことでふと思ったことがある。それは、夢李、真希、くるみ私達三人とも名字があ行だということ。クラス決めをした先生は、私たち三人を同じクラスにするために二年六組だけあ行だけで、出席番号が二桁を越したのか。そんなことはないと分かっている。先生達の何らかの都合だろう。でも、もし本当に私達のためなのだとしたらクラス決めをしてくれた先生にGODIVAのチョコレートを差し上げたい。

 そんな、想像も脳内からすぐさま消されてしまい、またスキップのことを思い出して悶絶した。一瞬他のことに気を取られていたため、思い出したときのダメージが大きい。

 


 そうして、自分のスキップが頭から離れず、精神的ダメージをくらい続け今に至る。今でもまだ、本当に恥ずかしい。華の高校二年生初日は、最高の一日であって欲しかった。新しいクラスも、新しい担任も最高だったのに、自分がスキップをしたせいで「恥ずかしい一日」として脳内に刻まれてしまった。

 下駄箱から三階の教室までスキップでいったのだから、下駄箱いた新一年生、三年生、三階の廊下にいた名前も知らない同学年の人達に、スキップしていた自分を見られてしまっただろう。

 きっと、すれ違った人達に


(なんだ、あいつ...?)

(え、何あれ...。脳内お花畑野郎じゃん。)と、思われたに違いない。


 

 自分の行動のせいで最高な一日になるはずが最悪の一日になることがよくある。毎日、冷静な行動を心がけてはいるのだが、どうもまだ自分の感情には勝てないのだ。こういう出来事を時々ふと思い出しては、時間を巻き戻したいと強く後悔する。いつか今日のことを思い出したら、きっと恥ずかしさでその場にうずくまってしまうだろう。......まだ来てもない未来のことを考えただけでうずくまりたくな。


 


 今日私は誓った。浮かれ過ぎには気をつけると。そして、スキップは心の中だけにすることを。絶対、絶対、絶対に。





















そして、









 

この日の私はまだ知らない。

週に一度提出する学校連絡権日記帳に佐藤先生から、

        


          ''スキップ''




と、書かれていることを。



 



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