第43話 デリッサ王
止まった世界は、何処まで行ってもその光景を変えない。落ちているものや立っているものは変われど、荒野が続くという意味では同じだ。
わたしたち三人は、リズカール国の国王デリッサが世界を終わらせる魔法を行使中という空間の中央に向かっていた。何度か大きな魔物と戦い倒し、息苦しいほどに瘴気が濃くなる。だからわたしは、気を紛らわせるためにも気絶していた間のことをお二人に話した。
「……陽華ちゃんの親友は、トウカちゃんと言うんだね。彼女と会えたんだ」
「はい。夢の中なのでわたしの想像なのかもしれませんが、また会えて凄く嬉しかったです」
そう、きっと夢幻だ。そうだとしても、また冬香ちゃんに背中を押してもらった。いつもいつも、彼女には助けられてばかりだ。
少し感情的になっていたわたしに、天真さんがぼそりと言う。そういえば、天真さんとさっきから目が合わない。
「夢は、時に一つの世界として成立することがあると聞いたことがある。夢もまた世界であるなら、お前が親友と会ったのは真実だ」
「……だといいな。冬香ちゃんも、わたしと夢で会ったことを覚えていてくれたら嬉しいです。……それはそうと、天真さん?」
「何だ?」
見上げても、天真さんはこちらを見ない。気絶している間に、わたしは何かしてしまったのかな。
不安になって陸明さんを見ると、彼女はふふっと楽しそうに笑った。
「大丈夫。きみが何か粗相をしたわけではないよ、陽華ちゃん」
「そう……なんですか?」
「うん、そう。陽華ちゃんがちゃんと目覚めて、ほっとしただけだから気にしないで」
「わかり……また魔物!?」
話の途中だったけれど、魔物が襲って来たならそちらに対処しなければ。わたしがこの時の事実を知るのは、まだ先の話。
☆☆☆
魔物と戦いながら、俺はそれに集中し切れない理由があった。緊急事態とはいえ、あれは……。
「天真、まだ動揺してるのか?」
「陸明。……元はと言えばお前のせいでもあるだろ」
俺が苦虫を噛み潰したような顔をして責めても、陸明は何処吹く風で笑うだけだ。
今、俺たちは魔物との連戦の中にいる。陽華をフォローしながら数体の魔物を相手にしているが、陽華が戦い慣れてきたお蔭で少し楽だ。こうやって話しながらやることではないのだが、陸明には一言言っておきたかった。
「ボクは、呼吸のままならなかった陽華ちゃんに人工呼吸してあげてってお願いしただけだ。それを実行したのは天真だろう?」
「それはそうなんだが! ってか、呼吸が止まってるなんて思わないだろ!」
リリファを退かせた後、俺たちは陽華が息をほとんどしていないことに気付いた。陸明がミリファたちを一掃する間に、俺は……まあ、そういうことだ。陽華が息を吹き返し、ほっとした。目を覚ます前触れを感じ取り瞬時に離れたから、陽華には気づかれていないらしい。よかった。
けれど未だに顔の熱が引かず、陽華の顔をまともに見られない。こんなに意気地なしだったかと自分に呆れるが、さっさと調子を取り戻さなければと戦いながら感覚を取り戻す。
「陸明、そっちはどうだ?」
「あと少しっ!」
陸明が巨大な鷲を雷で切り裂き、突破口を開く。その先に深い闇の力を感じて、俺は戦慄を覚えた。
☆☆☆
天真さんと陸明さんが戦いながら話していることはわかっていても、聞き耳を立てるような余裕はない。わたしは精一杯にペンライトを駆使して、初めて一人で魔物を倒した。
(使う度に、力が増してる……?)
力が増しているのは、わたしだけじゃない。天真さんも陸明さんも、初めてわたしが二人の魔法と剣術を見た時よりも明らかに強くなっている。魔法を行使した時の輝きが違う……と言ってわかってもらえるかな。魔法が弾ける時美しく輝くんだけれど、その強さが強くなっているんだ。
(少しでもわたしが助けられているのなら、精一杯やるだけだ)
大好きな二人を助けたい、守りたい。共に傍で戦いたい。わたしは推官の力が二人の力になるように、願いながらペンライトを振った。
――ギャァァァァッ
その時、近くで空を切り裂くような悲鳴が上がる。振り返れば、陸明さんが体長五メートルはありそうな鷲を雷で倒したところだった。
「陽華ちゃん、天真、行くよ!」
「ああ」
「はいっ」
鷲がこのエリアでの最後の強い魔物だったらしく、弱そうな小物はワラワラと逃げていく。わたしたちはそれらを放置して、更に奥へと進んだ。
不意に寒気がして、わたしは体を震わせた。
「……気温が下がりましたか?」
「違う。これは気温が下がったんじゃなく、魔力の気配が強まったんだ。しかもこれは……」
「負の感情を乗せた魔法だ。冷え冷えとした、破壊を望む心が魔力に乗っているから、寒く感じるんだね。――そうだろう、デリッサ王?」
陸明さんが誰かに向かって問いかける。彼女の向く方を見れば、誰かが一人立っていた。巨大なクレーターの真ん中で、何かを胸に抱えて空を見上げる男だ。
「……やはり来たか、アルカディアの若造ども」
気だるげで、だけど地面から響くような低音。びりびりと強い静電気のようなものを感じる感覚は、その男が発する魔力の波動。あまりにも負に傾き過ぎた力は、放たれれば何かが終わるような錯覚を引き起こす。
わたしたちを見回し、デリッサ王と呼ばれた男はニヤリと嗤った。
「ミリファもリリファも、時間稼ぎは出来たらしい。後は、お前たちの特別な力を我が手に収めてやろう」
デリッサ王はそう言うと、握り締めていた何かをわたしたちに見せるように指を開く。すると隠されていた手のひらサイズの黒い塊が浮き上がった。
「この『始まりの種』の力、耐えられるか試してみよ」
種が黒く輝き、マーブル模様のオーロラを空に呼んだ。
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