第5話 大文字山に登る(後編)
私が今回、大文字山で聴こうとしている音声コンテンツは『日本では毎年約10万人が行方不明になると言われている』。
カクヨムに投稿した小説版のあらすじには、
> 大文字山でひとり登山。「今まで歩いたことのないルートを行く」というのが今日のテーマだったので、あえて獣道っぽい細い山道を奥へ奥へと進んでみた。
> 大文字山は気軽に遊べる場所だと思っていたけれど、私は山を舐めていたのかもしれない。いつのまにか山中で迷ってしまい……。
とあるように、大文字山の山道で迷った主人公が怖い目にあう物語です。
前回のところで「そうやって山道を舐めていると大変な目に遭うんだよなあ」と記した通り、まさに山を舐めてかかって困るお話ですね。
それほど「困る」という状況ではありませんでしたが、実は私自身も昔、大文字山の山奥で、軽く道に迷ったことがあります。
山頂を越えてさらに進み、滋賀まで抜けた際の出来事です。「滋賀まで抜けた」自体は2回あるのですが、最初の時はサークルの先輩たち数人と一緒で、特に山歩きに詳しいっぽい
問題は2度目です。それから何年も経った頃、今度はサークルの後輩と二人きりでした。しかし1度目の経験から「山道を道なりに行けば滋賀県に出る」と思っていたので、地図も何も持たずに、とにかく奥へ奥へと進んでいったところ……。
とりあえず山道から出ることは出来ましたが、舗装された車道に出たというだけで、何もない自然の真っ只中でした。そのまま道なりに進んだらゴルフ場らしき施設の横を通る形に。まあゴルフ場があるくらいですから「何もない自然の真っ只中」なのも当然で、緑豊かな区域だったわけですね。
一応、そのゴルフ場を過ぎると民家だか商店だかもポツポツ見えてきて、この時も確か帰りは滋賀から電車で京都へ戻る格好だったと思います。終わり良ければ全て良しと言いたいところですが、ゴルフ施設を目にするまでの「何もない自然の真っ只中」の不安感は、とても大きなものでした。
きっとこの体験が「大文字山の山道で迷った結果のホラー体験」に脚色されて、『日本では毎年約10万人が行方不明になると言われている』にいくらか活かされているのでしょうね。
……というのは前置きとして、今回の大文字山登山に話を戻すと。
「途中で行き止まりになったら引き返せば良い。行き止まりにならないならば、それなりに使われているルートのはずであり、火床への道に繋がるはず」と考えて入っていった細い道は、すぐには行き止まりになりませんでした。だから「行き止まりにならないならば」の想定通り、さらに奥へ奥へと進んだのですが、進むうちに少し不安になってきました。
思惑通り「大」二画目――左斜めの線――の火床に沿った道へ出るならば、それはメインの登山道よりも近道になるのだから、割とすぐにその道へ行き当たるはず。しかし数分間くらい歩き続けても、相変わらず鬱蒼とした木々ばかりしか視界に入らないのです。
まさか迷ったのでしょうか? 山頂を越えた山奥ならばまだしも、こんな手前で?
あんなに慣れ親しんだはずの大文字山だったのに、それも今は昔。すっかり大文字山に
依然として「軽く迷う程度に
そんなことを考えながら歩き続けて……。
スマホの写真の撮影時刻から判断すると、先ほどの「少し広い場所」が11:19で次が11:26分なので、メインの登山道から外れて木々の間に入り、7分が経過した地点だったようです。
ようやく道案内の立札を見つけました。私が進んでいた細道の途中、そのまま真っすぐ進むのでなく、その地点から左へ曲がる方向の矢印でした。
しかし、これまでのものとは異なり手書きです。全体的に、文字がかすれて読めない部分もあります。「〇〇山歩会」みたいな但し書きもあるので、公的な案内表示ではなく、有志による立札のようです。
所々かすれた文字の中、はっきり私が読み取れたのは、最初の「大文字火床ヲ経テ」。その続きは「大文字山」か「大文字山頂」か、とにかくそれっぽい表記です。また、小さく「15分」とも書かれているようです。
何はともあれ、もう安心ですね! とりあえず矢印の方向へ入れば、山の上に辿り着くことは出来そうです。
相変わらず、少しだけ嫌な予感はしたままなのですが……。
立札の地点から4分後。ようやく視界が開けました。火床が並ぶ、その端っこに到着です。
しかし、先ほどの「嫌な予感」が的中でした。
火床の並び方、その向きが違う! 想定していた「大」二画目の火床ではなく、「大」三画目つまり右斜めの線に沿った火床へ、私は出てしまったのです。
元々が「大」の字の左側から入る登山道でしたから、途中からは「大」三画目つまり右斜めの線に沿って歩く……というのであれば遠回り。途中で「大」の字の左下から右下まで突っ切った格好ですね。
まあこの程度の失敗で済んだのであれば良し。そう思っておきましょうか。
なお「大」二画目の左斜めの線と同じように、もちろん三画目の右斜めの線も、かなり勾配のきつい道です。というより、その大部分が石段です。
大文字の送り火を見たことある方々ならば、炎で描かれた「大」の字を思い出していただけたら、どの程度の勾配か想像しやすいでしょうか。
あるいは、ちょうど11月の近況ノートに、今回の登山の写真を5枚ほど載せておいたので、そちらを参照していただいた方がわかりやすいかも。5枚のうち左下の写真が、この「三画目の右斜めの線」に沿った石段です。
https://kakuyomu.jp/users/haru_karasugawa/news/16818093089522310928
これをテクテクと淡々……というよりむしろハアハア言いながら登ると、ようやく「一番視界の良い場所」に辿り着きます。
ちょうど「大」一画目の横棒に相当する場所。まだ「大」の字の中なので当然山頂ではありませんが、ここまで来れば「大文字山まで登った」という達成感もあるため、あえて『日本では毎年約10万人が行方不明になると言われている』の作中では「山頂広場」という言葉で表現した場所です。
京都市内が一望できる場所でもあり、それが故に私は――ひとつ前のところでも書いた通り――ここを「個人的に一番神聖な場所」と思ってしまうのでした。
ここからの景色も先ほどの近況ノートに載せており、右下の画像になります。
そんな「大文字山の上」まで辿り着いたのが11:48。麓で最初に「大文字入口」の標識を見たのが――スマホで撮ったのが――10:55でしたから、ここまで約1時間の登山でしたね。
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