第48話 和楽 奥ノ国 魂の帰還<下>
お店のクローズの時間近くになって、お客さんがまばらになってきた。
そこに、ミカサさんが帰ってきた。
「はいはい、閉めるよぉ」
グラスを下げる音、足音、ごちそうさまでした、おやすみ~の声。
私はバックヤードで食器やグラスを洗うのを手伝った。
ミカサさんとイタコのママが話している声が聞こえた。
「マリィは特別です。彼女の師匠クロウドもそうでしたが、魔力の修練の具合がろうそくの火と同じ大きさなんです。ママにはまた大変な鑑定を依頼してしまいます」
「ふーん、なるほどねぇ。このドラゴンの子は、かつてマリィちゃんと会っている。中世、700年から1000年前だろうかねぇ」
「この幼体のドラゴンの子。本当に、アルトゥス王ですか! 民族の大移動により、西テラ帝国が滅亡したときのアルビオン王にして、円卓の騎士の」
「だから、マリィちゃんの前世の1人が、ハイエルフにして大賢者マリンで間違いないねぇ。もう1人、自己主張が激しい方だから、すぐに王妃マリィって分かったわぁ」
ミカサさんがアルトの本当の魂に驚いていた。
私は洗い物を終えて、2人の話に割って入って、カウンター席に座った。
カード占いの前に、手相、人相を確認された。呪いがかかっているか、のチェックらしい。
「貴女、ずいぶん、心の内側に潜ることが出来るのねぇ。貴女の魔力で、アントリア全土を支配できる王の才覚があるのに」
「……母が王族です。でも、私――」
「貴女、女王には敵わないと思ったのねぇ。アルビオン女王のことね」
「なんで分かったんですか!」
「貴女の魂がそう語りかけるもんだから。うーん、ハイエルフさんと王妃さん、どちらの魂も、私に言ってくるわぁ」
「私が頑固で、魔法使いになりたくなくて、薬師を貫こうとしているのに、上手くいかないことに関係していますよね?」
「結論、そうねぇ」
私が興奮しているのに、あっけらかんとイタコのママは話す。
学生と問答を続けてしまうのは、魔法研究が好きな大賢者マリンの癖だろう。
でも、生理的な反応として、驚いたり、怒ったり、泣いたり、笑ったり、そういう感情の多さは王妃マリィのせいだ。
カウンターの机に乗っていたアルトがどんぐり目を私に向けた。お酒が入ったグラスを前に、ミカサさんはうとうと眠そうだ。
そろそろ、私も本題に入ろう。でないと、眠気に勝てなくなる。
「私たち3人の魂は仲良く1つの身体でやっていけますか」
「そうね。2人が言うレイくんって誰かしら。王妃マリィは絶対に愛するレイと離れたくないって言っているわ。でも、ハイエルフのマリンは薄い反応で王室に入ると魔法研究ができなくなると言っているわ」
「いや、私、魔法使いじゃないですよ」
「貴女、才覚あるのに、周りの人たちに『魔導書』の解読を止められたんじゃないかしら」
「はい。だから、薬師のまま、魔法使いになることを引きずり、私は仕事に困っているんです」
「家柄や血筋は上手に使いなさい。貴女が助けを求めたら、絶対に助けてくれる人たちは必ずいるわ。逆に貴女が他の人を助けてチャンスになることもある」
おっとりした話し方だったのに、畳みかけるような話し方をイタコのママにされた。
うーん、と私は悩んだフリをしたけど、本音では困っていることが和らいでいるような気がする。
2人との魂の和解には、レイをどう思っているか、魔法を使う気があるか、この辺をしっかり考えないといけないことが分かった。
「あくまでも私1人の考えですけど、レイと魔法からは私は逃げられません。そういう運命だと思っています」
「真実か分からないのを曖昧に伝えるのは、魂の鑑定士としてどうかと私も思うけど、貴女の運命は、この地球のどこかにいる誰かがかなり捻じ曲げようとしているわ。でも、それは決して悪いことじゃないの。たまには魂に従って、運命のままに流されることがあってもいいんじゃないかしら」
あれ、レイを好きだって、直接本人に言っていたっけ。
その逆も、まだ私はレイから告白を受けていない。
なんというか、そもそもレイを好きなのか、どうなのか。
大賢者マリィの魂のせいで恋愛とは……分からなくなった。
レイは今、フランシス王太子として、複雑な立ち位置にいる。
父のランス王は意識を失って、寝込んでいる。フランシスの国政は、母のエレン議長と議員たちが行っていた。
そんな中でも、相変わらず、レイは動物好きで
イタコのママにお礼をすると、ミカサさんと一緒に夜の街へ出た。
前々世では、円卓の騎士
アルトは何処かへ飛んで行ってしまった。たぶん、そのうち帰ってくるだろう。
私はタロットカード大アルカナ『ジャッチメント』を思い出した。
「イタコのママが出したカード、ジャッチメントでした。復活のとき、もうすぐ朗報が来ます。……どうなんでしょうか」
「うん、占いが全てではないが、君の心は少しでも楽になったかい?」
「ええ、アルトが私を選んだ理由も、私が魔法を使うと世界を滅ぼしかねないことも、好きなのにレイのことを意識してないことも、何となく分かりました。魂2人との距離感を意識したいです」
「そう。良かったんじゃないかな」
「ありがとうございます」
宿屋に着くと、ミカサさんは早々に寝てしまった。
私は、ベッドサイドのテーブルにランプを灯して、手紙を書いた。たぶん、待っていたら、レイが逃げるかもしれないから。
ただの近況報告、こんなものでレイの心を惹けるだろうか。
何だかママの占術の結果に引っ張られる感じがした。
今までの私なら勢いで行っていた。
私の心をむき出しにしたことで、魂の熱が冷めてしまった。
悪いことじゃないけど――今日はもういいや。
明日のマリィに選択を任せよう。
ランプの火を消して、私も寝ることにした。
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薬師マリィさんの東方旅記-オウラジュナル- 鬼容章 @achiral08
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