第47話 和楽 奥ノ国 魂の帰還<上>

 神聖騎士国ハイネスで出会った、蒸気機関車は和楽わらくにもあった。

 高次科学・産業革命の影響をこの極東の島国も受けていた。

 魔術師による機械調整がいらない、純科学のみの蒸気機関車だった。


 私、アルト、ミカサさんは、東圏で鉄道の運行がある駅から北へ、奥ノ国・杜園もりぞのまで、汽車に乗って移動した。


 杜園もりぞのの街は、陸軍の駐屯地や科学などの研究をする大学が置かれるだけ大きい都市だった。

 甘味処。枝豆をつぶした和菓子、ずんだ餅を食べた。独特の風味と、豆本来の甘さを感じた。

 残りの1つをアルトと取り合いになる。相変わらず、食い意地だけは減らない。


 ミカサさんが護符に手をかけた。軍人の服装をしている3人組が声をかけてきた。

 私の恰好で敵に目をつけられていたようだ。


「軍人に紛れた下っ端の陰陽師か。大人しく退け」

「お前は西洋人とつるむな。警告はした」

「修練が足りぬ」

「何ッ!?」


 護符を地面に貼ると、3人はその場から動けなくなった。

 ミカサさんは無力化した3人を無視して歩き出した。

 私とアルトは、何があったのか分からない。

 ミカサさんは淡々と言う。和楽わらくでは、社会主義は異様な広がりを見せているらしい。


「サムライでもなく、シノビでもない。社会主義レッドに染まった陰陽師崩れだ」

社会主義レッド? カディさんもその集団の一員だったのですか」

「あぁ、デンシロウか……なつかしい名前だ。大逆の罪、和楽わらく政府が早まって、国外追放にしてしまった男だ。まさかこんなにも、我が国に社会主義レッドが浸透すると思わなかった。いいや、デンシロウ1人が増えても止められなかっただろう」


「政治思想だとすると、アントリアにも広がってくるんでしょうか」

「フランシス辺りだと、フロンティア連邦からの新しい民主主義が流行っているだろう。おそらく、その対抗として社会主義が広がる可能性はある」

「そうなんですね。覚えておきます」

「あぁ、そうしてくれ。ちなみに、今、私たちは歓楽街を目指して歩いている。あぁ、そういう睨みっこはなしだ」


 夜のアダルティな街は、暗闇で生きる者たちが争っている。

 高額支払いをかけるヤクザ、軍隊といかずとも傭兵、さっきのように社会主義レッドに染まった陰陽師崩れ、学生の地下活動家、など太陽の下ではお目にかかれない奴らがいる。

 ただ稀に本物が混じっていることがある。飲食店スナックのママとして、私が探しているイタコがいるらしい。

 分町通りの一角にある飲食店スナックに、私たちは入った。


 ミカサさんは珍しく冗談を言った。私は真顔で答えてしまった。


「なぁ、マリィ、お酒飲めるかい」

「あんまり、得意じゃないんですよねぇ」

「そう。冗談だよ」

「なんですか、このやり取り」

イタコママに会うのは久々だ。ちょっと、緊張していた」

「私はこういう場所、嫌いじゃないですよ」


 ハイネスの夜を思い出した。そうだ、ブラウンと一緒に店に入ったんだっけ。

 チーズとソーセージ、場所は違えども同じ状況になっている。


 ミカサさんがカウンター越しに、誰かと話している。

 私は自分の恰好と、ベビードラゴンのアルトを肩に乗っけていたので、酔っ払ったお客さんに絡まれていた。

 東亜トンヤ地方では、薄い愛想笑いで十分らしい。マジャの店で臨時の店員をしたときよりマシかな。

 服のそでを引っ張られて、ミカサさんが隣に戻ったと気付く。


「クローズの時間まで待てるかい? それから魂の鑑定をしてもらえる」

「そうですか! 私は別に大丈夫です」

「ふむ、私は今晩の宿を探してくるよ」


 ミカサさんは地の利がある。私がついて行っても邪魔だろう。


 急に、学生と問答をする羽目になって、和楽わらくの話し方の深さに唸っていた。

 西から東の国へ旅をしてきたという話は、学生たちに好評だった。

 彼らはまだ海を渡ったことがない。それだけ、海外の国への憧れがあるのだろう。

 すごく適当に飲み明かすアントリア人と違って、質問が飛び交う。なんというか、 

 真面目なのにこんな飲み屋街にいて大丈夫かと思った。いや、私も21歳成人じゃないけど、さ。

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