第46話 和楽 東圏・東央 東圏大震災後

 生と死の狭間で揺れる私の魂は、怒りや哀しみ、だ。

 複雑だからと無視してきた感情が渦巻いている。


 自警団と思われる男性に声をかけられた。

 それは方向性を間違えている、怒りだった。

 

「おい、お前! 火をつけようとしただろ!」

「いいえ」

「どうやって、火をつけなかったことを証明できる」

「魔族のように人を狩ることに目的を持たず、革命のときと同じ言い回し。あきれた」

「おい、お前、外国人だろ」

「だから?」


 魂3つが混じっている、私は低い声で答えた。

 アルトを肩に乗せているから、火をつけるとは短絡的な思考だ。

 次の彼の行動は、第3者によって止められた。

 白髪で老齢の魔法使いだ。服装は軍服のようだが、長い杖を持っている。深いしわに覆われた細長い目は青灰色がかっている。


「まぁまぁ、その辺にしておいてくれぬかのう」

「……ッ?」

「わしも外国人じゃ。よくお前さん方が文句をつける東方賢者オライントと言う者じゃ」

「俺は何も言っていない。俺は悪くない」


 自警団の男性は、背を向けず、後ろにじりじりと歩いて行く。

 距離が取れると走って逃げた。

 それは、野生動物から逃げる方法だ。本能的に恐怖を感じたのだろう。


 私は魔法帽子を取って、東方賢者オライントに挨拶した。


「マリィ=フランソワーズ=レヴィです」

「わしが東方賢者とうほうけんじゃと呼ばれる、オライントじゃ」

「へぇ、意外と普通の人ですね」

「普通とはな。クロウドの言うことを真に受けているのか。うむ、わしとて逃げ上手な人間じゃ。そなたも人間じゃろう」

「魔力を制御しているから、普通の人間に見えるだけじゃないですか」

「魔力制御……君はその歳で出来たのかね?」


「えぇ。和楽わらくのシノビの里でハンゾウさんに師事しました」

「なるほど……。マリィさんや、君はこの世界に魔法使いが必要だと思うかい?」

「問答法。お師匠みたいな聞き方ですね。魔力制御しなければならないってことは、世の中で私の存在が悪いものだとされているんじゃないですか」

「クロウドの弟子は話す内容まで、そっくりじゃのう。もう迷いはないかな」

「少しだけ気になることがあります。私は本当にマリンの生まれ変わりなんですか」

「うーむ、このじじいに分かるとおもったか。わしは老体に鞭を打っても、東圏の復興に力を貸すので精一杯じゃ。ミカサに任せるとしよう」


 東方賢者オライントに会うだけで、魂の分裂や魔力制御できるとは思っていなかった。

 自分事は他人事ではないから。

 1年がかりで修行を重ね、自分1人でほとんど解決できた。

 私に自信が戻ってきた。

 ミカサと再会するまで、薬師として被災地の医療者に交じって東圏を走り回った。


 私は外国人の魔法使いに見えるからと言って逃げはしない。

 冬を越え、春になった。久々に、ミカサさんと再び会った。


東方賢者オライントから頼まれてしまった。マリィ、なるほど……魔力制御を1年で成したのは、君が最も優秀だからだ。君の魂を見るために、奥ノ国にいるイタコに会おう」

「イタコ?」

「死者の霊と交信できる、この国の巫女だ。君の場合はいったん魂を移して、会話できるようになる」

「へぇ、巫女ですか」


 被災地はこれから復興にも金がかかる。

 竜蘭ロンランに頼んで、竜国や高羅の復興支援金などの協力を得られるかどうか、のところにいる。

 少しだけの間、私はミカサさんと東北方面、奥ノ国へ向けて旅に出ることになった。

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