第45話 和楽 紀ノ国・シノビの里~東圏・東央 魔力制御の修行

 最初は魔力を感じることさえ出来なかった。

 だけども、修行開始はそんなものだ、と割り切った。

 

 ミカサさんの使いで走るシノビは、ハンゾウさんと言った。

 私の手と足の枷を取ってくれたニンジャだ。

 今回、彼に師事することになった。


 座禅。

 丹田に魔力を集中させる。

 約1年間、私は修行を続けた。


 アルトの鳴き声で何を言っているか、少し理解できるようになった。

 ギンギンになっていた目が治まり、頭の痛みも消えた。


 ハンゾウさんが声を殺して、私の前にやってきた。

 いつもは気配に気づかないが、今日はその気配に気がついた。

 少しばかり、このニンジャは殺気立っている。


「マリィ殿、修行中悪い。東圏で地震が起きてしまった」

地震ジシン?」

「あーすくぇいく、です」

地震アースクェイク、ということは、助けが必要な人たちがいますか?」

「はい、我々は西ノ君にしのきみの勅令で、東圏の被災地へ派遣されることになった」


 和楽わらくの首都・東央周辺、東圏で、大規模な地震が起きたらしい。

 建物の倒壊や火事により、住民たちが困っているそうだ。

 私は完全に魂との対話を成したわけではない。

 ただ、修行の成果が分かるときが来た。


 一先ず、アルトを飛ばして、どこから被災地へ入れるか、ミカサさんへ手紙を出した。

 私は東海ノ国の道中で手紙を待っていた。その間に、ハンゾウさんたちが東圏へ入った。

 アルトが帰ってきた。一通の手紙とともに。


『マリィ殿

修行中、心配をかけてしまった。申し訳ない。

医師の助手が圧倒的に足りない。

医薬品や食料、その他の物資はニンジャが運んで十分な量になってきた。

君はマリンの幻想を魂とともに乗り越えようとしている。

その修行が無駄になる可能性がある。

それだけ深刻な状況だ。

また魂の分裂や魔力の漏れが起きるかもしれない。

よく考えてから、東圏に入ってほしい。

                   』


 この手紙、相手の名前が書いていない。

 和楽この国の文字は、私でも読みにくいし、書くことも難しいのだ。

 アルトが見つけたミカサさんか。そう考えるのが妥当だ。


 私はアルトを肩に乗せ、歩いて東圏へ向かった。

 数日かかった。

 小山の関所を越えて、凸凹の道を歩き、ようやく東央に入った。


 木造の家々は潰れて焼け焦げている。

 鉄筋コンクリートの建物は倒壊を免れたものも少し傾いていた。

 見渡せる廃墟。燻ぶった臭いが漂う。

 赤子の鳴き声、途方に暮れる母親。水道管が壊れて水を吹き出し、少年が顔を洗っている。

 自警団のおじさんたちは、倒壊した家を見て回っている。


 東圏大震災。人々の苦しみや悲しみが私の心に直撃する。


 私の魂が揺れる。

 1つは、魔族の侵攻で、死体が転がり、燃える村を見た『私』の怒りイメージ。

 もう1つは、断頭台に向かって歩いて行く『私』の哀しみイメージだ。

 ハイエルフの大賢者『マリン』と断頭台の王妃『マリィ』とマリィだ。


 魂は動揺しているのに、ろうそくの炎の大きさくらいに絞った魔力がブレない。

 それでも、私の心は穏やかだ。感情のコントロールが出来ている。

 でも、東圏の災害を心配している。

 自他が切り離されている。不思議な気分だった。


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