第2話

 森を抜けると、立派な城が見えた。

 剣の練習とは関係ないが行ってみることにした。


 城下には、町があり、活気がある。


「さっきのやつ、誰かに聞いてみる?」

「やめとけ、国家機密やぞ」

 しかし、「ロバの耳ではない裸の王様」には、ちょっと興味がある。

「大体、ロバの耳ではないってどういうこと?」

「しっ!!」

 太郎が俺を黙らせようとするのと同時に、俺らは男たちに捕まった。


「国の秘密、口に出す奴がどこにいてんねん」

 太郎が呆れたように言う。

 が、相手は意外と丁寧な物腰で言った。

「お願いします。本当にそのことはご内密に、直ぐにこの町を出て下さい」

「いや、それはいいんだけど、何、あの国家機密?」

 俺は、その男に問う。


 男たちは顔を見合わせた。

「うちの王様は人がいいんです。でもその分、人に騙されやすいというか、ちょっと勘違いが激しいと言うか……。」

「勘違い?」

「王様は、民の声をよく聴くために、ロバの耳を持って生まれてきた、という童話を読み、王というものは、皆、ロバの耳を持って生まれたものだと信じています。そして、それを恥じて隠しておかねばならないと」

「ホントにロバの耳なのか?」

「まさか! 普通の人の耳ですよ」

「騙されたんちゃうの?」

 太郎が言う。

「いいえ、騙されたのはまた別で。先日来たキャラバン隊の中にペテン師がおりまして、王様というものは、このように立派なお召し物を着るべきです、と」

「実際には何もないのに服を着せたようにみせかけた、ってあの話か?」

「ご、ご存知なんですか?」

「どこにでもある話みたいだな」

「そうなんです。それで、現在、王様は、全裸で、ロバの耳を隠すために帽子を深く被っている状態です」

 俺と太郎は、その様子を想像して、何とも言えない気分になった。

 っていうか、王様、童話、最後までちゃんと読め。


 その姿を見て、うっかり本当のことを言ってしまった家来が、国外追放をされてからは、それは国家機密になったらしい。


「そのへんに長靴ってあるか?」

 太郎が唐突に、男たちに言う。

「あ、あると思いますけど、どうするんですか?」

「俺が履く」

「は?」

「ええから。なるべく小さいやつで頼むで」

「は、はい」


 それから、太郎は、俺を引っ張って、城に向かった。

「だ、大丈夫なのか?」

「まあ、なんとかなるやろ」


 城では、王様が一人で『世界名作童話集』を読んでいた。

 太郎の姿を見るなり、

「おお、もしや、そなたは『長靴をはいた猫』か?」

 と嬉しそうに言う。

「そうです、王様。そして、こちらが、我があるじのジロウでございます」

「おお、そうかそうか。そなたのことは本で読んで、よく知っておる」

「王様、何故、そのように帽子を深く被っていらっしゃるのです?」

 太郎がうやうやしく問う。俺は太郎に言われたように、ただ突っ立っているだけだ。

「うむ。余の耳はな、実はロバの耳なんじゃよ」

 長靴をはいた猫に絶対的信頼を置く王様は、簡単にその帽子を脱いだ。

 普通の耳だった。

「これは素晴らしい。ですが、せっかくの耳も帽子で隠していたのでは、民の声も半分しか聞こえないでしょう。ここは主の魔法に一つ任せてもらえませんか。その耳を、普通の耳に見せるようにいたしましょう」

「ほ、本当にそのようなことができるのか?!」

 帽子も取って、服も着ていない、目の前にいるのは、ただの全裸の太ったおっさんだ。いや、ここで笑ってはいけない。

 俺は、太郎に目配せされて、適当な言葉で魔法をかけたふりをした。

「これで、王様の耳はロバの耳には見えません。堂々と耳を出し、冠をお被りください」

「おお! ありがたいことじゃ!!」


 しかし太郎、この裸はどうする気だ?

「それから王様、そのお召し物は大変素晴らしい。着ていることがわからぬほど軽く、目に見えぬほど細い糸で縫い合わされた服でございます。」

「そうであろう?」

「しかし、主が用意しました服は、それよりも飛び抜けて上質な生地でできており、肌触りも抜群。王様をよりご立派に見せることでしょう。どうぞ、ご試着を」

 そう言うと、予め家来に用意させていた、とびきり上質の服とローブを着させた。


「どうじゃ? 変ではないか?」

「素晴らしいです。お確かめになりますか?」

「ああ、しかし、どうやって?」

「主が、魔法で鏡を出します」

「鏡?」

「その者の姿をそのまま映すものです」

 太郎に促されて、俺は覚えたてのミラーの魔法を放った。

「おお!! これが余の姿か!!」

 王様らしくなった王様は、喜んで、礼をはずんでくれた。

 城にも町にも平和が戻った。



「お前、芝居上手かったな」

 城を出て、太郎に言う。

「演劇部やってん」

「どこのだよ……」

「それよりジロウ、その金で、武器屋行くで! 強い武器ゲットして、森で特訓し直しや」

「えー。もうゆっくり寝たいんだけど」

「スポーツの秋やないかい」

 

 こうして、俺は散々、剣の練習をさせられたのだった。


(おしまい)

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裸の王様の耳がロバの耳ではなかった件 緋雪 @hiyuki0714

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