裸の王様の耳がロバの耳ではなかった件
緋雪
第1話
また異世界かぁ……。
前の日に飲みすぎてしまい、ちょっと頭が痛いんだが。
「なんや、調子悪いんかいな」
この、俺の隣で偉そうに言ってくるキジトラの猫。名前を「太郎」という。俺は40代のなんの変哲もない(ややブラック企業の)会社員。それがある日突然、異世界に来るようになった。毎日ではなく、ごくたまに。しかも寝ている時限定。でも「夢」ではないのだ。
太郎は、俺が最初に異世界に来た時に、うっかり現実世界に連れて帰った猫だ。現実世界では普通の猫(いや、ちょっと偉そう)なのだが、俺が異世界に誘われる時、一緒についてきて助けてくれる(というか今までのボスは、こいつが倒してくれている)。
「なんなんだよ、今回はぁ? 俺は休みたいんだよ。やっととれた連休だぞ?」
「二日も休んだら体が
「お前は、毎日寝てるからいいよ? スポーツの秋だから異世界ってなんだよ」
「ほれ、行くで」
今回も、俺の意見は全無視だった。
「今回は、ちゃんと経験値上げえや、お前。剣とか、もっと使えるようになれや。いつまでもそんな重たいもん持ってるわけにいかへんやろ」
太郎は、俺が肩からたすき掛けにしている、でかい袋を見る。
「確かに重いんだよなあ、これ」
この中に詰まっているのは、「尖った石」。俺は、これをぶつけることで、敵を倒してきた。倒してきたといっても、顔に傷をつけられたら○んでしまう、オネエの火竜だけなんだが。
「今回は、この森で、剣の練習やで。できたら、魔法も教えてもらえや。」
「なんなの、今回は『特訓』なわけ?」
「現実世界で剣振り回すわけにいかんやろ。俺かて猫語しか喋られへんしな」
「それもそうだな……」
俺は、太郎の言葉に従うことにした。
鬱蒼とした森の中は、どこから敵が出てきてもおかしくなさそうだ。その辺からヌッと現れたら、対応できるだろうか?
そんなことを思っていたら、現れた!!
スライム!! お前かっ!!
「あ、それ、俺の下僕やから、ヤらんように」
太郎が横で呑気にそう言った。
なんだかんだで、太郎の助けも(かなり)借りて、数匹のモンスターを倒しながら、森を進んでいた時だった。
俺は宝箱を見つけた。厳重に鍵がかかっていた。
「なあ、これって……」
俺はワクワクしながら太郎に聞く。
「さっきのモンスターが落としていった鍵で開くかもしれんな」
太郎も頷く。
カチャッ。音がして、宝箱が開いた。
「おー」
中に何やら紙が入っている。何だ?
「『国家機密』って書いてあるな」
太郎は、この世界の言葉が読める。
「国家機密?」
俺は中身を太郎に見せた。
「『裸の王様の耳はロバの耳ではない』って書いてあるな」
「は?」
「裸の王様の耳はロバの耳ではないらしい」
「それが秘密? っていうかどういう意味、それ?」
「さあ? この先に城があるんかもな」
そして、太郎と共に少し進んだ時だった。
少し開けた場所に、会議用の長机とパイプ椅子が置いてある。嫌な予感しかしない。
「じゃじゃ〜ん」
お気軽な感じで、また魔法使いの爺さんが現れた。
「勇者ジロウよ、そなたに魔法を進ぜよう」
「爺さん、火系の魔法しかできねえだろ!」
「ふふふ、わしを侮るなかれ。おい!」
爺さんが呼んで、木の陰から出てきたのは、この前の水魔法の弟子(?)ではなく、別の男。
「こいつはな、光系の魔法の使い手じゃ」
やっぱり爺さん、火系しか使えないんだろ。
「ただでは教えられん。ということで、今回もクイズで〜す」
「また影絵クイズかよ?!」
「あ、あれね、予算の関係でボツになった」
「予算……」
「はい、第一問!」
「急だな!」
「上は洪水、下は大火事、な〜んだ?」
「風呂」
「……答えるのが早すぎるぞ、ジロウ、もっと考えろ」
「違うのかよ」
「いや、正解。ピンポーン」
「……」
「では、第二問! パンはパンでも食べられない」
「フライパン」
「ジロウよ、最後まで聞け」
「違うのかよ」
「いや、正解。ピンポーン」
「……簡単すぎやしないか?」
「ムムッ。では、最後の問題じゃ。難問じゃぞ!」
「ほう」
「『みきくけこ』、この道具な〜んだ?」
「鏡。『か』が『み』になってるからな」
ってか、この世界に五十音存在するの?! 寧ろその方が謎だけどな。
「ピンポーン。全問正解じゃ。では、お前に、光の魔法を進ぜよう。おい。」
光魔法を操るという弟子が俺に杖を振った。
ピカッという光が俺を覆って、一瞬、周りが真っ白になった。
「これでそなたも光魔法の使い手となった。『光1』と唱えてみよ」
「光1」
手元がちょっと明るくなった。
「暗いところでも、これで文字がかけるぞい。ちなみに5まであるから」
「5は、どんなのだ?」
「ん〜、城のライトアップくらいはできるの。」
……役に立つのか、それ。
「あ、今回、オプションでミラー機能もつけたから」
「ミラー機能?」
「ミラーって唱えると、好きな所に鏡だせるから」
「何に使うんだよ」
「身だしなみを整える……感じ?」
わけのわからん魔法使いを放置して、俺と太郎は先へ進んで行った。
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