祠に棲まうモノ。

貴津

祠に棲まうモノ。


「その祠……」

 道端の瓦礫の傍で座り込んでいるソレに声をかけると、ソレはゆっくりと顔をあげた。

「壊されたんですか」

 ソレの座り込んだ傍にある瓦礫はどうやら元々木造の小さな祠だったらしく、心無い者たちに壊されたようだ。潰れた木片には泥の足跡が付いていて、それは明らかに人間の靴跡だった。

 ソレはそんな壊れた祠の隣にぼんやりと座っていた。

(悪いものではないようですね)

 ぼんやりと自分を見上げているソレに悪いものは感じない。

 昔からそこにあって、近隣の人たちに大事にされているだけの存在。

 善意も悪意もなく、願われればほんの少しそれを叶え、人間の善意に支えられてきた。そんな小さな存在。

(この国にはそんな存在がたくさんいる)

 この国は八百万の神の国だ。教義ある宗教のみならず、感謝や恐れなどの自然発生的な小さなものにも神を見出しそれを祀ってきた。

 そういったものたちに支えられている精神性ともいえる。

 この国は無宗教だと言う者たちも多く、神の威光が伝わらないと言われることもある。

 ――が、教義の固まった信仰より柔軟にその存在を受け入れ、むしろ、その影響は強いとも言える。

「……壊した奴の顔を覚えていますか?」

 ソレはふるふると首を振った。

 この人間じみた応答に、ソレはかなり人間に近しい存在なのだと知る。

(さて)

 私はこの存在をどうするか考える。

 祠を作り直すことも、新しい祠に案内することもできる。

 祠を壊した奴を見つけ出して、その罪を償わせることもできる。

 祠を壊した奴を罰して、新しい祠に落ち着かせれば、この存在はまたうつらうつらと長い時を人の傍で過ごすだろう。

(ただ……この存在を見つけたのは私です)

 人に祀られて初めてその存在は神となる。


(ならば、私の神になってもらおう)


 こちらを見つめているソレに、私は手を差し伸べた。


「私と共に参りましょう。新しい祠に御祀りいたします」


 あなたを祀り崇めましょう。

 あなたの祠を壊した者たちを見つけましょう。罰しましょう。

 あなたを神として受け入れ、そして、名前を与えて縛りましょう。


 私はその小さな存在を手のひらに乗せた。

 大事に大事に祀ろう。

 そして、祠を壊した人間に罰を与えるように。

 この存在に矮小な人間の区別などつかない。

 人間を認識したならば、それは「人間」という全てに向かう。


(罰を与える存在として)

 立派な祟り神になるように――。



―― 終?

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