第8話 出発
「どうもありがとうございました!」
ぺこりと頭を宮殿のお手伝いさんたちに下げると、メロディーが首に結んだ白いマフラーがふわりと揺れる。あたたかい服に包まれたメロディーとアルトは最後に宮殿を見上げると、前を向いて、歩き始めた。淡い青色の長いダッフルコートを羽織って白いベレー帽を頭に被り、ふわふわの白い手袋をはめたメロディーと、同じような黒いダッフルコートを身にまとい、メロディーと同じ白いマフラーを首に巻き、ふわふわの灰色の手袋をはめたアルト。横に並んだその姿をお手伝いさんたちは見えなくなるまで、手を振ってずっと眺めていた。
メロディーがふわふわの手袋で地図をバスケットから取り出した。
「シャーロット川に行くんですよね。」
「そうだな。」
静かな道に響くブーツに土がぶつかる音。沈黙に耐えられなくなり、アルトが話しかける。
「あのピアノの曲、なんていうんだ?」
「Snowですね。歌い手のパートが加わるととても綺麗なんですよ。」
前世では有名だったといっても、この世界であの歌が有名であることはない。アルトも知っているわけがない。前世の世界の懐かしさで視界が揺れかけたその時、アルトが鼻歌でSnowを歌い出した。
「なんでその歌を知っているんですか?」
「うーん、複雑な話!」
パチリとウィンクをして顔をメロディーから背けた。
(まさか、アルトさんも転生者…?いやいや、まさかね。)
あれこれ考えていると、アルトが近づいてきて、吐息が耳にかかる。音楽室でのことを思い出してしまって顔が熱くなった時、アルトが手をメロディーのおでこに当てた。
「熱があるんじゃないか?顔が赤くて熱いし、大丈夫か?」
(自分勝手な王子様だと思ってたけど、意外と優しいんだな…)そんな気持ちとは裏腹に、アルトを突き放してしまう。
「昨日、したことの意味はなんですか?破廉恥にも程がありますよ!」
「いてて…。別に、メロディー以外にしたことないけど?」
尻餅をついて起き上がるアルトにメロディーが手を差し伸べる。
(そんなセリフ言われたら、ドキドキしちゃうよ〜!)
緊張で黙り込むメロディーを見て、アルトの土が少しついた手でメロディーの手にどこからか取ってきたチューリップを握らせた。
「ピアノ、上手なんだな。俺は歌うのが好きなんだ。これ、旅のお守りだ!」
(あの子と似たようなセリフ…。なぜだろう、アルトさんと過ごすようになってもっと前世について思い出すようになった…。)
「ほら、背負ってやるから。」
ボーッとして、アルトの背中にもたれかかるとすぐにメロディーは眠ってしまった。
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