第3話 やっと見つけられたチャンス
「やけに遅かったねぇ、メロディー。」
開けたドアの向こう側には腕を組んで仁王立ちをしている洗濯担当のおばさんたちの姿。おばさんの言葉に思わずビクッとしてしまう。まさか、鞭打ち…?
「まさか、誕生日に鞭打ちにするなんて可哀想だものね…。今日ばかりは許すとしようか。」
その言葉に安心してふぅっと息を吐き出す。洗濯物の入ったカゴをおばさんたちに渡した。私たちのことを扉の外に追い出すと、くるりと背を向けてカゴの中の洗濯物を川の水でいっぱいのバケツに一気に入れた。私は狭い洗濯室の窓から少しでも話し声が聞こえるように耳を近づけてみる。
「宮殿に新しく音楽室ができたそうだよ。」
「ピアノやパイプオルガンとかいう名前の楽器があるんだと。」
洗濯室にはおばさんたちに洗濯物を運びにくる人たちから聞いた噂話で溢れている。私の大好きな楽器がある音楽室!?私が行かなくちゃ誰がいくのよ!
そう思って宮殿を眺めた。14歳の誕生日の真夜中に宮殿の塀を越えると運命の人に会える。メイドたちの間にはこんな伝説がある。私は別に運命の人に会いたいわけじゃない。あの美しい鍵盤を触りたい。うっとりとしてしまうようなあの音色を奏たい。あの塀の向こうにある音楽室に行きたい。そう思って歩こうとすると、一緒に噂話を聞いていたルーシーが私の肩を掴んでくる。
「ちょっと!メロディーったらどこにいくつもり?宮殿の中は立ち入り禁止なのわかっているでしょ?」
「痛いから離してよ、ルーシー。今日は私の誕生日よ!きっと神様が私のために音学に触れるチャンスを用意してくれたに違いないわ。」
ルンルンとステップを踏む私を見てルーシーが呆れた顔してこちらを見てくる。
「頭がおかしくなったの?音楽室は王族以外は入れないわよ。」
わかっているわ、そんなこと、10年ここで暮らしてきたのだから、そんな常識なんてわかっているわよ…。
「ルーシー、私は音楽のために生まれてきたも同然なの。お願いよ、たとえ音楽で死んでしまうとしても、私は…。」
その先を感じとったかのように親友の顔が俯く。どうしても行きたいという気持ちが伝わったのかもしれない。
「そんなに行きたいならいいわよ。親友の本当の夢を応援できないなら、友情というものは存在しないもの。きっと生きて帰ってきてちょうだい。」
涙を拭うルーシーに抱きついた。家族のいないこの世界で一番最初に出会ったルーシーは私にとって家族と同じなのだ。頬をつたう涙。背中を押す温かい手のひら。
「またね。」
真夜中の暗闇の中で掠れた声が聞こえた。
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