第6話 行くさき
「お願い、許して!私をどこに連れて行く気?」
腕を掴まれ、廊下を走りながら叫ぶ。突然静かになったかと思うと、男の子は突然歩き始めた。
(ここ、まさか、王室!?)
重いドアを押すと、嬉しそうに男の子が話し始める。
「お父様、この子だよ!」
大きな部屋の奥に豪華な椅子に座ったおじいさんが呆れた様子でため息をついた。
「アルト、落ち着きなさい。」
きっと王様だわ!なんで敬語も使わずに話すのかしら…。)
「私、侍女のメロディー・ベルと申します。急に押しかけてすみません。」
手を床につき、頭を下げてじっと返事を待つ。
「本当にベル家の少女が見つかったとは…。頭をあげなさい。」
驚いてしわがれた声を出すセアドア王にメロディーが逆に驚く。
「私は、この度は大変な罪を犯しました。どうかお許しください。」
部屋の反対側から目でしっかりとセアドア王を見つめる姿にセアドア王が優しそうに笑った。
「そうか、今まで知らなかったのだな…。昔、この国には音楽の守り人という音楽を手掛ける人がいて、この国の音楽に命を宿していた。その人が消えた今、全ての音楽から命が消え、楽器からは音が鳴らなくなっている。」
「僕がピアノを弾こうとした時も、何も鳴らなかった…。」
さっきまでの元気はどこへやら、小さな声でつぶやき、俯いているアルトにメロディーは優しく背中をさすった。
「うむ。その人は自分を音海奏汰と名乗り、人々からはアレグロ・ベルと呼ばれていた。」
思わず叫びそうなのを必死に抑える。(音海奏汰って私のお父さん!)私のお父さんも、きっとこの世界にやってきたんだ…。視界が不安で揺れる。
「そなたはアレグロから音楽の力を最後に宿された娘なのだ。」
セアドア王は口をもう一度動かす。
「そこで、音楽の守り人となり、全ての音楽に命をもう一度吹き込んでくれないか。」
沈黙の風がセアドア王とメロディーの間に窓からふわりと流れる。どこか甘くて懐かしい香り。
『歌、いつもお前の好きな道に一直線にいけ。』
お父さんの低くて優しい声がメロディーの心を揺さぶる。
「わかりました。音楽のために。」
頭をもう一度下げ、手を床につく。
白髪混じりの髪の毛を手で払うと、セアドア王はアレグロに似た顔を目を細めて見つめた。
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