異世界で伝説の音楽の守り人になっちゃいました!?

ここあ

第1話 幻の音楽家 音海歌

 「次のコンテステントは幻の音楽家の名で知られる音海歌おとみうたさんです!」

わずか3歳でピアノとパイプオルガンを弾きこなし、弾けない楽器はないともいわれ、数々の噂や伝説の真ん中にいる幻の少女、音海歌おとみうた。たったの4歳の彼女は拍手に包まれながらゆっくりと歩く。世界で一番有名なオーディション番組であるShow The Talent (STT)。この少女は最年少出場であり、最も名が知られている出場者。

 心臓の音がうるさいほど聞こえる。緊張でガタガタと震える体が戻りたいと叫ぶが、今日のためにどれだけ練習したのかを思い出すと、その震えは止まる。淡い青と白のドレスがふわりふわりと揺れた。こつ、こつ、と足音が聞こえる。拍手の音が徐々に小さくなっていく。

 その時、小さな悲鳴が聞こえた。歌はくるりと回って足を止めかけたが、小さなピアニストのプライドがそれを許さない。椅子に座ろうとしたその時、悲鳴が大きくなったのに気づいた。手をピアノに置くと、どうしたのかと観客席に頭を向ける。もくもくと煙が上がっている。真っ赤な炎が歌の方にやってくる。少女は固まってしまった。もう逃げ道は無くなったのだ、死んでしまう、と頭の中の声が囁く。ならば、と歌は弾くはずだったピアノの曲をなめらかに弾き始めた。

歌の魂が体から消えていくのを感じながら、火の中ではピアノの歌が聞こえたという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る