【第一異世界】アルフェール・レプセカ [1]

俺の名はリスティン。地球の日本国よりこの世界に転生した元45歳の男の子。

今は元気に赤ちゃんやってます。まだ生まれて間もないのか、ジタバタしか

できません。え?退屈を紛らわすために異世界転生したのに退屈じゃないかって?

もちろん退屈ですよ。一日の大半は眠るか天井を見つめるだけです。

でもいいんです。美人母のニーサさんがよく俺を散歩に連れ出してくれます。

おんぶに抱っこがとても心地良いです。そして言わずもがな、今の俺の食事は……

ゲフンゲフン―


(まぁ、早ければ半年くらいでハイハイできるようになるんだっけ?

半年か……長いなオイ。そもそも今の俺って生後何日目だ?)


俺のスキル【異世界転生】による転生がどういう原理なのかは知らんけど、

ハッキリとしているのは「前世の記憶がある」「赤ん坊に生まれ変わる」

「人間の言葉なら理解できる」ということだ。何と文字まで読めてしまう。

先日、ニーサに抱かれてリビングへ移動した際、鏡に映る自分の姿を確認できた。

母に似て可愛らしい男の子だ。元45歳の中年オヤジがこんなに可愛い訳がない。

俺の遺伝子は1ミリもこの体に反映されていないようだ。良かった。


赤子ながらも、ここでの生活を続けるうちに分かったことがいくつかある。

異世界ライフの記念すべき最初の舞台として俺が選んだこの世界は

「アルフェール・レプセカ」と呼ばれている。

文明レベルは中世並で、王道ファンタジーって感じの世界観だ。

俺たちの住むこのログハウスは森の中の一軒家で、街からは離れた場所に

あるらしい。そして我が家は母子家庭。父親の姿は見当たらない。

死別したのか離婚したのか別居中なのかは不明だが、

今はニーサがひとりで俺の面倒を見てくれている。


ああ、そういえば週に二回、ヴィルマーっていうオッサンが訪ねてくるな。

年の頃は還暦前ってところか?俺たち親子を気にかけてくれている。

ニーサの代わりに街へ買い出しに行ってくれたり、畑で採れた作物をお裾分け

してくれたりもする。気の良いオッサンだ。まさかニーサを狙っているのか?と、

彼を疑ったこともあるが、どうやらそれはなさそうだ。

普通に既婚者で、孫もいるらしい。時々、俺にお孫さんのお下がりの衣服を

プレゼントしてくれる。我が家は決して裕福とは言えないのでとてもありがたい。




◇◆◇◆◇




「あら、リスティン、今日はどこまで行くのかな~?」


数か月も経つと俺は随分と動けるようになっていた。寝返りを打ち、

ずりばいもできるようになった。部屋の中ならある程度は動き回れる。牛歩だが。

順調に成長しているぞ!ハイハイまであと少しだ!


ニーサは女手一つで俺を育てているが、何か仕事に就いているのだろうか?

一日中俺の面倒を見ており、散歩や洗濯の時以外は外へ出ることはほとんどない。

基本、家の中で家事などをこなす。俺の知らないところで在宅ワークをしている

可能性もあるが、もし専業主婦だとしたら生活費はどこから出ているのだろう?

まぁそれなりの貯えがあるのかも知れない。それと、彼女がヴィルマーさん

以外の人と会っているところを見たことがない。そもそもこの家に彼以外の

客人が来たことは一度もない。まぁ街から随分離れているみたいだからなぁ。




◇◆◇◆◇




(俺、大地に立つ!)


ついにハイハイからの掴まり立ちに成功した!まだグラグラするが、

きちんと二本の足で立っている!偉いぞ俺!自分で自分を褒めたいですッ!

よし!今日から「掴まり立ちスクワット」毎日100本をノルマにしよう!

早ければ一ヶ月くらいで歩けるようになるんじゃないか?

嗚呼……ついに自由に歩ける日が来る!楽しみだなぁ……って、おわッ!


ゴンッ!


油断した……バランスを崩し、後頭部を強か打ち付けた。痛いよママン。

大丈夫か?俺の脳ミソ。まぁ意識はハッキリあるし、今のところ大事は

なさそうだけど―


「ちょっと、リスティン!どうしたの!?大丈夫!?」


ニーサママが慌てて駆け付ける。ゴメンね、心配させて。多分大丈夫だから。


「頭を打ったのね?癒しの祝福(キュアブレス)!」


ニーサが俺に回復魔法をかけてくれる。ああ、何度受けても心地良い。

まぁそりゃそうか。回復魔法なんだし。でも気になるのはニーサの額の紋様だ。

回復魔法を使う度にボンヤリと発光している。あの紋様は魔法と何か関係が

あるのかも知れないな。そういえば、ヴィルマーさんの額には紋様がない。

そしてヴィルマーさんが魔法を使用しているところも見たことがない。

ひょっとしたら、この紋様が刻まれた者だけが魔法を使えるって可能性もある。

ちなみにニーサの息子である俺の額にも、形は違うが小さな紋様が刻まれている。

俺も将来、魔法が使えるようになるのかもな?楽しみだ!




◇◆◇◆◇




「お母さん。ちょっとだけお外に行ってもいい?」


「いいけど、お母さんとの約束はきちんと守るのよ?リスティン」


「は~い」


一歳半。今や俺は自由に外を歩き回る活発な少年だ。言葉もそれなりの

イントネーションで上手く発せられるようになってきた。

喋れさえすれば前世での知識があるのでいくらでも話せちゃう訳だが、

いきなり幼児がペラペラと難しい言葉を話し出すのも不自然なので、

年相応のレベルで会話をするように心掛けている。まぁどの程度までが

年相応なのかはよく分からんが……それっぽくしておけば問題ないだろう。


本も積極的に読むようにしている。この世界の情報収集が主な目的だけど、

言葉をどんどん学習しているかのように見せる意図もある。

家にある本では魔法や額の紋様の情報は得られなかった。でもある日、

ニーサにそれとなく聞いてみたこところ、はやり額に紋様のある一族のみが

魔法を使用できるとのことで、このことは決して誰にも話さず秘密にして

おくように!と釘を刺された。


「世の中には私たちの魔法の力を悪いことに使おうとする人たちがいるの。

だから魔法のことは誰にも言っちゃ駄目。秘密にしなければならないの」


とはいえ、相変わらず俺たち家族が接する外部の人間はヴィルマーさんだけで、

他に話せる相手はいないんだけどね……


家の外へひとりで出ることは一応許可されているが、「約束事」が三つある。


「外へ出る時は必ず帽子を被り、額の紋様を隠すこと」

「出歩けるのは家から見える範囲まで」

「人と会っても決して話さず、付いて行かず、直ちにニーサに知らせること」


森の奥や街へ行くことは許されていない。せっかく自由に歩けるように

なったのに残念ではある。まぁ今の俺はまだ幼児だからな。

若干退屈だが仕方ない。もっと成長すれば、森の外へ行ける日も来るだろう。

帽子で額の紋様を隠すのは、万が一誰かと遭遇した際、

魔法使いの一族だということを知られないようにするためだ。

誰かと出会うことなんてまずないだろうけど……




◇◆◇◆◇




それは三歳の誕生日のこと―

ふと父のことをニーサに尋ねてみた。彼女は少し寂しそうな顔をし、

「あなたが生まれる前に遠いところへ行った」とだけ教えてくれた。

俺は外見だけは三歳児だが中身は45歳のオッサンだ。

ニーサの顔を見てそれとなく察した。俺の父はもう既に―


最近では色々な言葉を遠慮なく発するようにしている。所謂ギフテッドと

呼ばれる神童であれば、3歳になる頃にはそれなりに流暢に話せると

聞いたことがあるからだ。俺ごときが神童を演じるのはおこがましい気もするが、

いつまでも幼児言葉で話すのは正直辛い。そろそろ解禁しても良い頃だろう。


そういえば、額の紋様がすこしずつ大きくなっている。

大人になれば、ニーサの紋様と同じくらいの大きさになるのだろうか?

厨二病的ではあるがカッコイイ!これもまたファンタジーなのである。


ファンタジーといえば、この世界アルフェール・レプセカには魔物が

存在するらしい。かつて世界中を恐怖に陥れた魔王ゾルハが従えた

異形の怪物たち……とは言っても今はごく一部の地域にしか生息しておらず、

ゲームのように郊外へ出れば即エンカウントするというものではないそうだ。

もしそうだったら、森の中に住む俺たち家族は無事では済まないしね。

ちなみに魔王ゾルハは俺が生まれる12年前に各国の連合軍の手によって

既に討たれており、今のアルフェール・レプセカは比較的平和なようだ。


(まぁ魔王に支配されている世界ってのも生き辛そうだしねぇ。

魔王なき時代に生まれて良かったのかもしれないな)


勘違いされては困るのだが、俺は退屈を嫌い、常に刺激を求めている―

しかし、決してハードボイルドな人生を送りたい訳ではない。

イージーモード過ぎる人生はつまらない。だがハードモード過ぎるのも嫌だ。

適度に楽しく日々を過ごしたいのである。


前の世界では20代の頃までは良かったんだが、それ以降、特にアラフォーに

なると極端に人生がつまらなくなった。少なくとも俺の場合はそうだった。

だからスキル【異世界転生】で異世界を巡るとしたら、

ひとつの世界当たり、最長で30年くらいまでが滞在の目安となるだろうか?

まぁ転生した先での境遇にもよるけど―


そんな風に異世界ライフの今後の展望を考えつつ、俺はニーサと共に

アルフェール・レプセカでのファンタジックな生活を満喫していた。




◇◆◇◆◇




そして俺が四歳を過ぎたある日―


ニーサが死んだ―

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飽きっぽい俺はスキル【異世界転生】を駆使して色々な異世界ライフを満喫する @yuzururi

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