飽きっぽい俺はスキル【異世界転生】を駆使して色々な異世界ライフを満喫する

@yuzururi

【プロローグ】異世界転生というスキル

人生に飽いていた―

地球の日本国に生まれ落ちて45年―

代わり映えのない日々のルーティンー


20代の頃までは良かった。

色々な初体験に彩られた刺激に満ちた日々。

でも大人になるにつれ、人生の刺激は減ってゆく。


大学卒業後、俺は刺激を求めて職を転々とした。

技術職、営業職、接客業、清掃業、塾講師、整体師、警備員 etc ……


趣味も色々なものに手を出した。

スポーツ、音楽、料理、絵画、読書、映画、アニメ、ゲーム etc ……


結果、どれも長続きはせず、今はすっかり無職の無趣味だ。

何をやっても「焼き直し」としか感じない人生。

この世界で生き続ける限り、死ぬまでこの退屈は続くのだろう。


(ああ……つまんねぇ……もう今すぐ死んでもいいわ)


そんな罰当たりなことを考えながらボ~ッと外を散歩していると、

暴走車に撥ねられて本当に死んでしまったのだから、とんだ笑い話だ―




◇◆◇◆◇




「魂の狭間へようこそ。死せる者よ。私は女神アルテナです」


死んだ俺の前に神秘的な姿をした女神様が現れた。

魂の狭間?ここはあの世ってことか?


「あなたは大いなる意思によって選ばれました。

新たな命に加え、あなたの望むスキルを授けましょう。

そしてこれまでとは異なる世界でもう一度生きて行くのです」


ああ、これはアレだ。最近ブームの「異世界転生」ってヤツだ。

ア〇プラやネ〇フリでよくアニメを見たな。

まさか実際に体験できるとは。しかも俺の望むスキルをくれるって?

チートスキルのおまけ付きってパターンか。

「大いなる意思」ってのが何かは知らんが、そこはあえて突っ込むまい。


「あの~、スキルって何でもOKなんですか?」


「ええ。世の理を乱す危険なものでさえなければ、

可能な限りあなたの要望に応えましょう」


世の理を乱す危険なスキル?具体的にはどんなものだ?

世界のすべてを自分の思い通りにできるスキル!とか?

そりゃ神になれるな。

う~ん……せっかくなら人生の退屈を紛らわすような

面白いスキルがイイよなぁ。ここはどうすべきか……


熟考の末、俺の頭にあるアイデアが浮かんだ。

このスキルなら未来永劫、退屈せずに済むんじゃないか?

よし、そうしよう!


「それじゃ【異世界へ転生するスキル】をお願いします」


「分かりました。それではこれから異世界へ転生するあなたに

【異世界へ転生するスキル】を授けましょう」


……………………


「は?」


女神様から変な声が出た。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!あなたは一体何を言っているの!?」


女神様のキャラが変わった。


「え?だから自在に異世界へ転生できるスキルですよ。好きな時に何度でも」


「そ、それって意味あるの?仮にそのスキルを使って異世界へ転生しても、

転生先ではそれ以外のスキルを持たない普通の人として

生きていくことになるわ!チートスキルで「俺TUEEE!」ができないのよ?

それでもいいの!?」


女神様の口からそんなスラングが聞けるとは。


「もっと他にあるでしょう?【無詠唱で魔法を使えるスキル】とか

【敵を捕食して自己強化できるスキル】とか

【色々な食材を取り寄せできるスキル】とか【素質を鑑定できるスキル】とか!」


どこかで聞いたようなスキルばかりだな。


「分かってないなぁ、アルテナ様は。そんなチートスキルを備えた

人生なんて「勝ち確」で退屈過ぎますよ。そりゃ最初のうちは

面白いかもしれない。けれどそんなのすぐに飽きますって。

ゲームだってそうです。ステータスがすべてカンストし、アイテムもすべて

コンプリートした状態で始めても、達成感もクソもないでしょう?」


「は、はぁ……」


「いいですか?「強すぎる」ってのは悲劇なんです。

強すぎると人生から光を奪っちゃうんです。

望むものすべてが簡単に手に入ってしまうから、退屈で辟易するんです。

って地上最強の生物さんが言っていました。

だから俺はそんな退屈な人生はいらない。適度に刺激のある異世界ライフを

楽しみたいんです。それにこのスキルなら一度ならず何度でも転生を繰り返し、

色々な異世界を経験できますよね?最高じゃないですか!」


女神様がポカーンとしている。論破したった。


「ま、まぁ……あなたがそれで良いって言うのなら止めはしないわ。

本当に良いのね?後悔しない?」


「もちろん」


「はぁ……コホン、ではあなたの望み通り【異世界へ転生するスキル】を

授けましょう」


女神様が手をかざすと、俺の身体が眩い光に包まれた。

不思議な何かが俺の中に宿ったような気がする。


「さぁ、これであなたにスキルが付与されました」


「え~と……どうやって使うんです?」


「目を閉じ、異世界に転生したいと強く念じれば良いのです。

ちなみに転生先の世界はランダムで選ばれます」


「へぇ~それだけですか。お手軽ですね」


「では、早速転生してみなさい」


「はい!それじゃ行ってきます!アルテナ様!ありがとう!」


「い、いってらっしゃい……」


俺は目を閉じて強く念じた―


【異世界転生!】




◇◆◇◆◇




(ん……?空気が変わったな。無事、異世界に転生できたのか?)


俺はゆっくりと目を開けてみた。

ここは……どこかの部屋の中だ。豪華な屋敷の一室といった感じで、

どうやら俺はベッドに寝ているようだ。柵が高いな。これはベビーベッドか?

自力では起き上がれない。寝返りも打てない。手が小さい。

なるほど。この転生は赤ん坊から始まる流れか。今の俺は赤ん坊なのだろう。


「あら、あなた。この子が目を覚ましましたよ」


「おお、相変わらず可愛らしい瞳だな」


俺の顔を覗き込む男女がふたり。父と母だろうか?

随分と裕福そうな格好をしているな。マントまで羽織っちゃって。

部屋も広くて家具も高価そうなものばかり置いてある。

ここは金持ちの家か?


「あなたにそっくりで凛々しい目をしていますね。

きっと将来は立派な国王になってくれますわ」


「うむ。我がグラスベル王国の未来は明るいな!」


国王!?王国!?ちょっと待って!このふたりは王様と女王様?

ということは、俺ってどこかの国の王子に転生しちゃったの?

ええええ……世継ぎってことは第一王子なのか?


う~ん……王子かぁ……王子ねぇ。王族の人生ってのも悪くはないけど。

でも、それってある意味チートだよね。

生まれながらに「権力・財力」がカンストしている状態だ。

それに、次期国王って立場じゃ悠々自適な生活は送れそうにもない。

色々と窮屈なんだろうなぁ。ド〇クエ4のお姫様も城を脱走してたし……


(よし!チェンジだ!)


俺は目を閉じて強く念じた。


【異世界転生!】


さらば!名も知らぬ父と母よ!私は異世界へと旅立ちます!

ん?そういえば、スキルで転生するとこの体はどうなるんだ?

別の魂が宿るのかな?それとも死……?

いやいや、深く考えるのはよそう。次だ次!


「あらまぁ。この子ったらまた寝ちゃったわ」


「ふふ、寝る子は育つ!たくさん寝て大きくなるんだぞ?」




◇◆◇◆◇




(また空気が変わった。転生成功か?)


俺はゆっくりと目を開けてみた。

うげッ、なんじゃここは!?洞窟の中か?薄暗いし、カビ臭い。

どこなんだよ一体?まさか洞窟に捨てられた捨て子にでも転生したのか?


「ギャッ!ギャギャ~ギャ~!」


え?ナニ?何かの鳴き声みたいなのが聞こえたけど……

声のした方へ目を向けると、そこには異形の亜人の姿が。


「ギャギャギャッ!」


うわッ!何だコイツ!?モンスター?これってもしかして

ゴブリンってヤツ?知らんけど……でもそれっぽいよなぁ。

ええええ……まさかゴブリン(仮)の赤ん坊に転生しちゃったの?

そのゴブリン(仮)は俺を抱き上げると、慈しむような目で俺を見つめた。


「ギャッギャ~……」


言葉が分からない。これは父か?母か?性別も分からん。

オッパイがないから父親だろうか?う~ん……まさかの亜人かぁ。

確かに人外に転生するってパターンもよく聞くし、

それもある意味、刺激的だけど。でもこんな原始的な生活環境じゃ、

メチャクチャ不便だよなぁ。あと、やっぱり人間がいいわ。

言葉も分からないし……あれ?そういえば、さっきの国王夫婦の言葉は

理解できたな。異世界に転生しても人間の言葉なら分かるみたいだ。

俺が元々人間だからか?まぁいいや。という訳で―


(チェンジだ!チェンジ!)


俺は目を閉じて強く念じた。


【異世界転生!】


さらば、父だと思われるゴブリン(仮)よ!まだ見ぬ母にもよろしく!


「ギャ~ギャッギャ~」




◇◆◇◆◇




(……転生成功か)


目を開けるとそこはログハウスの一室。俺は揺り篭に揺られていた。

さて、ここはどんなお宅だろう?最早「異世界お宅訪問」状態だな。

見たところ普通の民家のようだが。ログハウスとはオシャレじゃないか。

壁に衣服が掛けられている。おお!何だかファンタジーの世界観溢れる

デザインだ!やっぱり異世界はこうでないと!これは期待できるぞ!


……………………


誰も来ないな……隣から人の気配はするのだが。

そうだ!声を上げれば誰か来るかもしれない。


「ああう~あうあああ~!」


喋れない……まぁ赤ん坊だから仕方がない。

でも声は出る。誰か気付いてくれ!


「あう~あう~ああうあ~!」


「あらあら、どうしたの?」


俺の声を聞き、ひとりの女性が部屋へ入ってきた。母親だろうか?

茶髪のポニーテールに整った顔立ち。美人だ。そしてスタイルが良い。

服の上からでもハッキリと分かる。とても良いものをお持ちだ。

見たところ生前の俺よりも年下だろうか?

まぁ45より上ってことは流石にないよな。

そしてよく見ると彼女の額に紋様のようなものが刻まれている。


「どうしたのかな~?リスティン。もうお腹空いた?」


リスティン?俺の名前はリスティンというのか。

名前もファンタジーっぽい感じだぞ。

彼女は優しく俺に微笑みかけてきた。マジ美人。息子なのにホレそうだ。

ん?息子だよな?転生すると性別も変化する可能性ってあるのか?

リスティン……男の子とも女の子ともとれる響きだ。分からん。


「あら?リスティン、あなた、頬っぺを虫に刺されてるじゃない」


そういえば左の頬っぺたが少し痒い。蚊にでも刺されたか?


「ちょっと待ってね~」


彼女は俺の左頬にそっと優しく手を当てた。そして―


「|癒しの祝福(キュアブレス)」


彼女の額の紋様と頬に当てた手が微かに輝いた。

そして俺の頬に伝わるフワッとした心地良い感覚―

直後、左頬の痒みが消えた。おいおい、これってまさか!?


「は~い、これでもう大丈夫!」


回復魔法!?この人、魔法が使えるの!?てか、ここは魔法が存在する

世界なのか!?おおおお!これぞまさに異世界ファンタジーだ!いいね!

母親は美人さんだが、見た感じ家柄は普通っぽいし……

これは……決まりだな!


(よぉし!俺の異世界ライフの第一章はこの世界に決めたッ!

よろしくね、ママン!)


「ふふふ、笑ってる。今日はご機嫌だね~?リスティン」

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