case12.電車の忘れ物
記者 : ありがとうございます。様々な死地を潜り抜けてきたのですね。
──いやいや、そんな。
記者 : お話を聞いていると、×××さんにはまるで怖いもの無しのように思われますが……今までで×××さんが怖いなと感じた闇バイトはありますか?
──そりゃあ、ありますよ。挙げたらキリないですけど大丈夫ですか?記事一ページじゃ足りないかも(笑)
記者 : もうもう是非!……と、言いたいところですが、そう、一ページしか無いんですよ(笑)なので、一番怖かった闇バイトを教えてもらいましょうかね(笑)
──一番ですか。いやぁ、中々難しい。闇バイトは様々な恐怖が伴うものですから、恐怖、で一括りにするなら……強いて言えば……そうですねえ……忘れ物を拾うバイトかなあ。
記者 : 忘れ物を拾う、ですか。ボランティアのような響きですが、それも闇バイトなんですか?
──ゴリッゴリの闇バイトですよ。うーん、何て言うのかな。あまり世間に伝わらないかもしれないんですけど、受け子とか、強盗とか。そういう、所謂ニュースで見る犯罪中心な闇バイトと、自分が経験してきた奇怪な闇バイト。これらを見分ける方法が一つあるんですよね。何だと思います?
記者 : 見分ける方法……雇い先の企業情報を検索するとかですか?
──それもあります。けれど、結局一番手っ取り早いのって、バイト名を見る事なんですよ。犯罪中心な闇バイトは大抵「アンケートに答えるだけ!」「荷物を運ぶだけ!」みたいな、楽に稼げる有り体なバイト内容で人を釣るんです。対して自分がやっているような奇怪な闇バイトは、名前からして「なんだそりゃ」みたいなのが多くて。後は名前に違和感がなくても、仕事内容の説明ないしクチコミないし、何かしらあるんです。そう考えると企業情報っていうのは結局、犯罪的・奇怪的闇バイト両方に共通してあるので、その真偽で見分け切るのは難しいかもしれないですね。まあ、後は勘かな(笑)
記者 : なるほど……その見分け方を使う機会はあるのでしょうか……
──無いに越したことはありませんよ(笑)
記者 : ところで、忘れ物を拾うバイトが気になるのですが、どの様なバイトなんです?
──あ、話逸れちゃってましたね。どの様なと言われましても、殆どそのままです。とある終着駅で止まった電車に乗り込んで、忘れ物を探すだけ。見つけたら引き摺り落とすんです、線路の下に。
記者 : 引き摺り落とす?
──そう。何故かは不明なんですけど、その駅に残された忘れ物は曰く憑きってヤツで。例えば、興味本位でホーム画面を開いた人間は四肢爆散しちゃうスマホとか。やっぱりそういうのって壊すに限るじゃないですか。だから、翌日の初電に轢かせるんです。
記者 : 電車は傷ついたりしないんですか?
──傷つかないんですよ、それが。線路外れたっておかしくは無いんですけど、曰く憑きの力だと思って適当に納得しとくのが吉なんでしょうねぇ。ただ、重量があったり、大きかったりしたら流石に分解して置きましたよ。分解作業も中々大変なんですが、他のメンバーも黙々やってるのに自分だけサボる訳にはいかないじゃないですか。なので頑張りましたね(笑)
記者 : 意外と真面目なんですね……あ、すいません、今の発言は失礼でした。
──いえいえ(笑)サボると次回バイトに雇ってもらえなくなる可能性が上がるので真面目にやっただけですよ。
記者 : ズバリ、そのバイトの怖かったポイントは?
──車掌の定期巡回です。
記者 : それはどういった?
──バイト中、時々車掌が車両内を巡回するんです。向かい合わせボックス席の一両、トイレ設備あり普通席の二両、計三両で編成されてるんですけど、車掌が来たら急いで隠れなきゃいけなくって。車掌はバイトに関係のない人間、一般人なんですよ。なので見つかったらアウト、と言うか……
記者 : つまり、許可を得てないバイトだったんですか?
──はい。闇バイトなんて大抵許可取ってないものばかりですよ。ただ……そうですね、バイト中に一般人から隠れなきゃいけない、というのはスリルがありましたね。
記者 : なるほど。大変興味深いお話でした。後日テレビの方でも取材を受けるとお伺いしたので、是非そちらも拝見させていただきます。……×××さん?どうかなさいました?
──あの、怖かったポイント、そこじゃないんです。その、スリルとかじゃなくて。
記者 : あ、そうなんですね。早とちりしてしまって申し訳ありません。
──いえ……車掌が、その、変だったのが怖かったんです。
記者 : 変だった?
──忘れ物に、反応しなくて。何が落ちていようが、何が起きていようが、反応しないんです。後、他にも…………あの時、確か自分はボックス席の車両にいました。██、あ、友人の名前なんですけど、そいつと一緒に。
そうしたら、突然隣の車両から悲鳴が聞こえて。悲鳴……いや、断末魔、かもしれないんですけど。ギャンって犬が蹴られたみたいな。聴こえた瞬間、██が「車掌かもしれない。隠れよう」って言い出したんです。車掌に引っ捕まえられた裏バイターの声かも、と思ったんですね、多分。で早い内に隠れようとした時、丁度自分と██は忘れ物を拾い集めてたんですけど、うっかり使ってたトング落としちゃって。静かな空間って金属音が凄い響くじゃないですか。そしたら、隣の車両から人が駆けてくる足音が近づいてきて、思わず呆然としちゃったんです。だって足音が異常だったから。べちべちべち、って。人が、それも普通靴を履いているだろう車掌が走って、そんな音しますか?しないですよね。
車両内は暗いんで隣の車両から何が迫ってきているのか分からなかったんですけど、██には何か見えたんでしょうね。立ち尽くしてた自分を強い力でボックス席の下に押し込んだんです。「何するんだ」と思いましたよ。
でも、██は多分、守ってくれたんですよね。
俺がボックス席の下に完全に隠れた瞬間、べちべちべち、って足音がボックス席の真横、██の目の前で止まって。
車掌、だと思います。足元だけ見えましたけど、車掌服でした。なんですけど、「終電ですよ」って車掌が言った瞬間、██が消えちゃったんです。
困惑してたら、偶々近くに落ちていた忘れ物を……踏みつけて行くんですよ、車掌が。べちゃ、べち、べちって。あの走る音は足の裏に忘れ物がくっついてたからかぁ、と妙に納得しました。
そのまま車掌は次の車両に行ったんですけど、流石に友人が自分を庇って消えて普通でいられるほどメンタル強くないんで、すぐ帰りましたね。サボりですよ、サボり。もうこんなバイトやってられっかーってね(笑)
記者 : ……██さんは一体どうなってしまったんでしょうか。
──さあ。闇バイトの世界なんて、犠牲は当然、みたいなとこありますからね。でも……生きてて欲しいな、とは思いますよ。記者さんの書く記事が、いつか██に届いたらなぁ、と。
記者 : 任せてください。必ず届くような記事を書きます。
──はは、心強いですね。
記者 : 本日は、取材を受けていただきありがとうございました。
──はい、ありがとうございました。
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【編集長コメント】
全体的に良。ただし、<裏バイターの闇に迫る!>のコーナーは<女性ファッション、最新モデルが選ぶ流行とは?>に差し替えること。
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※このお話はフィクションです。
裏バイターの██くん 社不ネキ @kanna745
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