第24話 とにもかくにも今夜は宴

 ようやく中間考査が終わり、採点された答案用紙も今日で全て返ってきた。

 肝心の結果はと言うと。

「すごいじゃん、大鳥さん。全部赤点回避出来てる」

 私の答案用紙に全て目を通した灰瀬くんは、答案用紙をトントンと揃えながらニコリと笑った。

「なんと、過去を一つ変えてしまった……」

 エア眼鏡をクイッとあげてそう言うと、灰瀬くんは「まあ数Aはギリギリ32点だけど。小さめの過去改編だね」と厳しいコメントを述べた。

 まあいいさ。

 どんな辛辣なことを言われても、今の私に響きはしない。

 なんてったって全教科赤点回避出来たんだからな!!

 これは偉業と言っても差し支えないはずだ。

「ところで灰瀬くんはテストどうだった?」

「とりあえず全部90点以上は取れたかな」

「すごいや」

 ここにマジの偉業を成し遂げてる人がいた。

 私の喜びが霞むな。

「勉強教えてくれて本当にありがとう、灰瀬くん。これでしばらくゆっくり眠れそうだよ」

「どういたしまして。顔色やばかったよね、テスト直前の大鳥さん」

 だってテスト前日は追い込みとして徹夜同然で頑張ったからね。顔色もやばくなるよ。

 我ながらよくやったと思う。

 何年かぶりのテスト勉強+進学校の試験をよく乗り越えたよ。

 いやー、うん……。

「あとこれ10回以上もあるの……?」

「まあ、3年生は定期考査の勉強より受験勉強がメインになるんじゃない?」

「より最悪だよ」

 絶望のあまり机に突っ伏す。

 こんなに頑張ったのに、あと数ヶ月もしたら今度は期末考査だ。信じられなさ過ぎる。

 リアル高校生だった自分、よくこの地獄を乗り越えることが出来たな……。

「そういえば、奥入瀬さんいないけど部活?」

「うん。金曜日だからね」

 綺麗に揃えられた答案用紙を灰瀬くんから受け取りながら、そう答える。

「奥入瀬さんにも赤点無かったこと伝えた?」

「一番に伝えたよ。大学合格発表くらい喜んでくれた」

「大鳥さんが大学合格したら、奥入瀬さん心臓止まるんじゃない?」

「あながち否定出来ないよ」

 最後のテスト返却が終わった後、小春ちゃんに赤点が一つも無かったことを報告したところ、小春ちゃんは満面の笑みで「頑張ったねぇ!」と言って頭を撫でてくれた。なんなら少し目も潤んでいた。

 ちなみに小春ちゃんは全教科95点以上だった。英語と古典に至っては満点だ。

 そんな神から見れば私の取った点数なんて塵同然だったろうに、それでも小春ちゃんは私の頑張りを心の底から褒めてくれた。

 本当に良い友達に恵まれたものだ。

 灰瀬くんと2人で話していると、外からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

 その音は教室の前で止まったかと思うと、今度はガンと大きな音を立てて教室のドアが開く。

「2人ともやっぱりいた! お疲れ!!」

「お疲れ様〜」

「お前足音までうるさいのかよ」

 足音の主は吉祥くんだった。

 廊下を走ってきた吉祥くんは、息を切らしながらズンズンとこちらに近づいてきた。手にはA4サイズの紙束を持っている。

「見て! 全教科赤点回避出来た!!」

 持っていた紙束、もといテストの答案用紙を机の上にザッと広げた吉祥くんは、キラキラした目でこちらを見つめてきた。

「おお、本当だ!」

「でしょでしょ! 世界史と地学基礎以外は50点いかなかったけど、僕にしてはよくやったと思わない?」

 吉祥くんは満面の笑みでそう言った。

「小テストで0点連発してた頃と比べればな」

「だよな、ありがとう灰瀬!」

 吉祥くんの屈託のない笑顔を向けられた灰瀬くんは、眩しそうに目を細めて「お前と話してると自分の陰湿さが浮き彫りになる気がするよ」とぼやいた。

「こんなに良い結果だったのは、灰瀬と大鳥サンと奥入瀬サンが勉強教えてくれたからだよ。ありがとう!」

「どういたしまして」

「わ、私は何もしてないよ」

「そんなことないよ、大鳥サン。現代文の読み方のコツとか教えてくれたじゃん。アレ、試験で超役に立ったよ!」 

 確かに教えた。

 でも本当に大したことじゃない。「『しかし』とか『だが』の逆説の後に来る文章は筆者の主張であることが多いよ」とか、塾講師が言いがちなことを真似して言っただけだ。

「確かに大鳥さん、現代文の点数良かったね。現代文に関しては、勉強も全然してなさそうだったのに。国語が得意っていうのは本当だったんだ」

「現代文は当たるときは当たるんだ。外れるときは外れるけど」

「当たり前のことを続けて言ったね」

 現代文は、筆者の主張がしっかり読み取れればある程度点は取れるけど、少しでも読み間違えると全ての問題が不正解になってしまうことがある。

 センター試験の模試で0点取ったことあるしね。国語の点数でカバーしていた私にとって、あれは血の気が引いた。

 悲惨な過去に思いを馳せていると、ギュッと手を握られる。握ってきた手の主である吉祥くんは、私と目が合うと顔をほころばせた。

「とにかく、本当にありがとう!」

「目、目が……」

「また元気のない○スカのモノマネ? 大鳥さん、それ好きだね」

 仕方ないでしょ。

 陽キャの笑顔を間近で浴びれば元気のない○スカにもなる。

 吉祥くんの笑顔の眩しさでショボショボになった目を擦っていると「そういえば奥入瀬サンは?」と吉祥くんに聞かれた。

「小春ちゃんは部活だよ」

「そっか、奥入瀬サンにもお礼言いたかったんだけど」

 残念そうに吉祥くんがそう言った直後に、カラカラと教室のドアが開く。

「あ、皆いる! やっほ~」

「奥入瀬サン!」

「小春ちゃんだ!」

「図ってたのかと思うぐらいタイミングがいいな」

「タイミング?」

 灰瀬くんの言葉に首を傾げながら、弓道着姿の小春ちゃんは教室に入ってきた。

 制服のポケットからスマホを取り出し、カメラアプリを起動する。

「もう部活終わったの? 早いね」

「ううん、まだだよ。教室に水筒忘れちゃって、今休憩時間だから取りに来たんだ」

「そっか。なんかポーズ取ってもらって良い? 今から待ち受け用の写真撮るから」

 恥ずかしそうにピースする小春ちゃんのことをありとあらゆる角度から撮る。もちろん動画機能もオンにしている。

「なんか流れるように撮影が始まったね」

「折角だしオレ達も撮るか」

「う、嘘!? 撮らないで、もう終わり!」

 困惑している吉祥くんとニヤニヤしている灰瀬くんも写真撮影に加わったところで、第1回弓道美少女撮影会は終了となってしまった。第2回の開催が今から待ち遠しい。

 火照りを冷ますように両手でパタパタと顔を扇いでいる小春ちゃんは、机の上に広げられた吉祥くんの答案に目を向けた。

「もしかしてこれ、吉祥くんの?」

「そうそう! 僕、赤点回避出来たんだよ!」

「えぇっ!? すごい!」

「でしょ、奥入瀬サンのおかげ……」  

 小春ちゃんは吉祥くんの元にパタパタと駆け寄った。

「本当に頑張ったねぇ、吉祥くん」

 そして、興奮で赤くなった顔で笑った。

「……うん、ありがとう」

 吉祥くんは、珍しく小さな声で小春ちゃんにお礼を言った。

 どうしてだか、この時の吉祥くんの表情がしばらく頭にこびりついて離れなかった。

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上がるしかねえ!!! もりこ @morikousan

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