第23話 ラブラブで困っちゃうな

「なんと今日は新メンバーがいます。渡会くんです」

「大鳥さんが誘ってくれました。俺も一緒に勉強していいかな」

 席替えの次の日の放課後。

 私は勉強会メンバーである小春ちゃん・灰瀬くん・吉祥くんに、渡会くんを紹介した。

「おー、仲間が増えた! C組の吉祥桜太です、よろしく!!」

「A組の灰瀬です」

「よろしくね。2人ともクラス違うんだ」

「僕と灰瀬は部活が一緒なんだ。軽音やってるの」

「そうなんだ。もしかして大鳥さんも軽音部だったりする?」

「いや、私は文芸部だよ」

「……今更だけどどういう集まりなの? もしかして本当に宗教だったりする?」

「違うよ」

 渡会くんは怪しむようにこっちを見つめてきた。視線に耐えきれなくて顔を背ける。そんなに見られると照れるからやめてほしい。

 男子達が和やかに会話を交わしている中、小春ちゃんはいつも通りの笑顔を浮かべてじっと黙っていた。何を考えているか全く読み取れない。

 小春ちゃん、私が勝手に渡会くん誘ったこと怒ってるかな。

 今もだけど、前の高校生活では、小春ちゃんと渡会くんはお互いが恋人であることを徹底的に隠していた。

 もしかしたら小春ちゃんは、人目の着くところで渡会くんと一緒に過ごしているのを周囲に見られたくなかったかもしれない。

 やらかしちゃったかな。一度小春ちゃんに相談したほうが良かった?

 でも相談したらしたで「もしかして私と渡会くんが付き合っていること知ってる?」と疑われそうだ。小春ちゃんにとって、私にバレていることも不本意だろう。

 とりあえず謝らなきゃ。

 小春ちゃんの元に近づき「勝手にメンバー増やしてごめんね」と小声で謝る。

 小春ちゃんはパチパチと瞬きすると「どうして?」と首を傾げた。

「色んな人と勉強出来るの嬉しいよ。自分以外の学習方法を知ることも良い勉強になるし。それにみんなでテスト勉強って、青春って感じがする!」

「小春ちゃん……」

 本当になんて良い子なんだ、この子は……。

 そしてこの感じを見る限り、建前を言っている訳でも無さそうだ。

 まあ、もしもこの笑顔の裏で「ふざけんなよ大鳥、勝手に人の彼氏に近づいてんじゃねえ」などと思っているのだとしたら、これからは世界の全てを疑っていこうと思う。

 小春ちゃんは、渡会くんのほうを向くと「渡会くん、同じクラスの奥入瀬です。よろしくね」と言った。

 少しの間の後、渡会くんは「うん、よろしく」と笑った。

 ……オッケー。やっぱり恋人同士なのはバレたくない感じね。

 であれば不肖大鳥リツ、2人の関係がバレないように全力で支援させていただきますわね。

 心の中でそう誓っていると「リツ、険しい顔してどうしたの? お腹痛い?」と小春ちゃんに心配された。


***


「休憩ターイム!! お菓子食べる人!」

「吉祥くん、まだ2時間しか経ってないよ。もうちょっと頑張ろう」

「2時間は大分経ってるほうだよ、小春ちゃん」

「一旦! 一旦休も!?」

 吉祥くんは発狂寸前の声でそう叫ぶと、リュックからお徳用のポテチを出した。ポテチを見た灰瀬くんは「それホームパーティー用だろ」と呆れたように言った。

「それなら10分だけ休もっか。リツ、チョコ食べる?」

「食べたい!」

「はい、あーん」

 小春ちゃんにアーモンドチョコを食べさせてもらっていると、渡会くんから「2人共仲良いね」と言われた。

「とても出会って1ヶ月とは思えないよ」

「へへ、まあね」

「入学してから最初に喋ったのがリツだったんだ。初めて会った時からリツは面白かったよねぇ」

「え、私そんな面白いことしてた?」

「すごい、無自覚なんだ。やっぱり天性のコメディアンは違うね」

「私ってコメディアンだったんだ……」

 小春ちゃんからの意外な評価に衝撃を受けていると、ポテチをボリボリ食べていた吉祥くんにも「確かに大鳥サンは面白いよね!」と言われた。

「この間、間違って男子トイレに入ったときあったじゃん。あの時すぐトイレから出るんじゃなくて、低い声出して男子のフリをして乗り切ろうとしてたの面白かったな~」

「そそそれ言わないでって言ったじゃん!」

「そうだった、ごめん! みんな今のナシ!!」

「もう遅いよ!!」

 デカい声で謝れば済むと思ってるだろ!!

「リツ、そんなことしてたんだ」

 小春ちゃんから可哀想なものを見る目で見られた。小春ちゃんの向かいでは、灰瀬くんが無音で爆笑している。

「もうやだ、絶対知られたくなかったのに……」

「ほ、ホントにごめん。お詫びにポテチ全部食べて良いよ」

「夕飯前に800㎉越えのもの寄越すのは最早嫌がらせだよ……」

 恥ずかしさのあまり机に突っ伏すと、隣の小春ちゃんに頭を撫でられた。

「よしよし、良い子良い子。誰にも言わないから安心してねぇ」

「そうそう。こんなに面白いこと他の人には言えないよ」

 声笑ってるぞ灰瀬……。

 未だ顔を上げられないでいると、渡会くんの声が耳に入ってきた。

「前から思ってたけど、大鳥さんって言い回しが独特だよね。さっきのポテチの下りとかもそうだし。俺も大鳥さん面白いと思うよ」

「……ありがとう」

 まだ顔は上げられそうにもない。

 冷めかけた顔の熱が再び集まるのを感じる。

 前の高校生活でも、渡会くんは私のことを面白いと思ってくれていたのだろうか。

「と、ところで、テスト終わったら皆でどっか遊びに行かない?」

 吉祥くんは、気を取り直すようにパンと手を叩いてそう言った。

「露骨に話題変えたな」

「うるさいよ灰瀬。ね、どう?」

「良いねぇ! リツもそう思わない?」

「……うん」

 ゆるゆると顔を起こすと、満面の笑みの小春ちゃんと目が合った。

「よし、みんな乗り気! 渡会クンも参加するでしょ」

「俺もいいの? ありがとう」

「当たり前だよ! それじゃどこ行こっか。奥入瀬サンと大鳥サン何か希望ある?」

「うーん、パッと思いつくところだとカラオケとかかな。リツ、カラオケ好き?」

「好きだよ」

「そしたらカラオケでテストの打ち上げ決定!」

 ワッと皆で盛り上がっていると、今まで黙っていた灰瀬くんが「大鳥さん、本当にカラオケ好きだね」と言った。

「この間一緒に行ったときもフリータイムギリギリまで歌ってたし」

「それは歌うよ。お金勿体ないし」

「貧乏性だなぁ」

 何とでも言い給え。

 ヒトカラの時でも、私は店員から「あと10分でフリータイム終了です」のコールがあるまで歌いまくるタイプだ。

 灰瀬くんと話していると、他の人が誰も喋っていないことに気付く。不思議に思って周りを見渡した。

「ウワッ」

 思わず小さな悲鳴が出る。

 小春ちゃん・渡会くん・吉祥くんは、皆ぽかんと口を開けてこちらを凝視していた。全員ここまで同じ顔になることってあるんだ。

「埴輪みたいな顔してどうしたの」

 灰瀬くんもちょっと引いた様子で3人にそう尋ねていた。

 3人の中で埴輪から人間に戻るのが一番早かった渡会くんは、何故かちょっと顔を赤くして私のことを見てきた。渡会くんのそんな顔初めて見たな、新規スチルだ。

 初めて見る渡会くんの表情にドキドキしていると、渡会くんから「大鳥さん」とぎこちなく話しかけられた。

「な、何」

「そのさ……、もしかして大鳥さんと渡会くんって付き合って」

「ないよ」

「否定が早いね」

 渡会くんはまだちょっと赤い頬を搔いて「なんだ、誤解しちゃった」と言った。

「会話を聞いている限り、2人でカラオケに行ったみたいだったからさ。デートするような仲なんだなと思って」

「ああ、なるほど……」

 だから3人とも埴輪になってたのか。

 まあ確かに、世間一般的に男女2人でカラオケ行くのってデートだよな。

「期待してたところ申し訳ないけど、ただ普通にカラオケしただけだよ」

「ハハ、そうなんだ。じゃあ他にも誰かいたの?」

 渡会くんの問いに対し、私ではなく灰瀬くんが答える。

「オレと大鳥さんだけだけど」

「世界はそれをデートと呼ぶんだぜ!!!」

「うるっさ!! 吉祥、耳元で叫ぶなよ!」

 名曲のタイトルをもじって叫んだ吉祥くんは、耳を塞いでいる灰瀬くんの両肩をガシッと掴んだ。

「水臭いよ灰瀬、大鳥サン! どうして付き合ってること教えてくれなかったのさ」

「いや、だから付き合ってないんだって」

「照れなくていいんだよ大鳥サン!」

「照れてるように見える? この顔が」

「……本当だよ。どうして教えてくれなかったの」

 今まで黙っていた小春ちゃんが、ぽつんとそう言った。俯いているので表情は分からない。

「あの、さっきからずっと言ってるけど本当に2人で遊びに行っただけだって……」

「だから、どうしてそれを教えてくれなかったのっ!?」

「ヒッ」

 いきなり小春ちゃんからガバッと肩を掴まれた。指が肩に食い込んで痛い。

 バッと顔を上げた小春ちゃんは、何故か怒っているように見えた。

「すごい、点対称だ」

 お誕生日席に座っている渡会くんが、肩を掴まれている私と灰瀬くん・肩を掴んでいる小春ちゃん・吉祥くんを見てボソッとそう言った。なかなか良いツッコミだ。

「こ、小春ちゃん、怒ってる?」

「当たり前だよ! どうして私も遊びに誘ってくれなかったの!?」

「えっ、そっち?」

 意外な回答に目を丸くしていると、小春ちゃんから「それしかないよ!」と噛みつかれるように言われた。

「……確かに、最近までは2人のことちょっと疑ってたよ? メッセージのやり取り頻繁にしてるし、やたらと距離近いし。私に隠してるだけで本当は付き合ってるんじゃないのって。でも、一昨日2人でガチ変顔対決してるの見てから『本当に何もないんだ』ってようやく分かったの。リツと灰瀬くんの変顔、とても好きな人に見せられるようなものじゃなかった」

「あれ見てたんだ。声かけてくれれば良かったのに」

 私と小春ちゃんの会話を聞いていた男子陣が、各々好き勝手に口を挟む。 

「ガチ変顔対決は恥ずかしさのライン越えないんだ」

「ていうかガチ変顔対決って何?」

「人間の尊厳をかなぐり捨てて全力で挑む闘いのこと。オレはまだ大鳥さんの域には達せなかったよ」

「いや、灰瀬くんもなかなか……」

「ガチ変顔対決のことから一旦離れて!!」

 小春ちゃんは両拳を机にダンと叩きつけて一喝し、私と対岸の男子達をジロッと睨んだ。

 力尽くで周囲を黙らせた小春ちゃんは、再び私のほうを向く。

「デートとかだったらもちろん遠慮するよ。でも、2人はただ遊びに行っただけなんでしょ?」

「う、うん」

 頷くと、今までつり上がっていた小春ちゃんの眦は途端にフニャフニャと下がった。 

「……私だって2人と一緒に遊びたかったぁ~!」

 嘘でしょ。

 なんて可愛い駄々なんだ。

 にやけそうになるのを堪えていると、小春ちゃんは向かいの灰瀬くんに鋭い眼差し(鋭いと言ってもバターナイフくらいだけど)を向けた。

「というか灰瀬くんは、何で私より先にリツと遊んでるの!」

「こういうのは早い者勝ちだから」

「そうかもしれないけど……」

「そもそもオレのほうが大鳥さんと知り合うの早かったし」

「どうして火に油を注ぐんだ」

 吉祥くんは珍しく呆れた顔をして灰瀬くんにそう言った。

 油(灰瀬くんの煽り)を注がれた火(小春ちゃん)は、顔を真っ赤にしてプクッと頬を膨らませた。そしてその顔のまま私のほうを向く。

「えっと、誘わなくてごめん……」

「……」

 困った。本当に可愛くて笑っちゃいそう。

 さて、このカワイ子ちゃんの機嫌はどうすれば治るかな。

 見つめ合うこと数十秒。私は考えた中で最善の答えを小春ちゃんに提示する。

「テスト後の○ィズニーデートで許してくれる?」

「……いいでしょう」

 小春ちゃんは、まるで我が儘なお姫様のように、つんと口を尖らせてそう言った。

 そしてすぐに破顔する。

「えへ、楽しみ」

「……もしかして付き合ってるのって大鳥サンと奥入瀬サンだったりする?」

「というかオレ達が遊ぶ約束はナシになったのか?」

「なってそうだね」

 男子陣が各々ぼやく。 

 もちろん、カラオケも行くよ!

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