偉人(?)たちの閣僚会議
緑川青
偉人(?)たちの閣僚会議
某月某日、とある国の国会の閣僚応接室にはあらゆる年代からあらゆる偉人が集まっていた。
「まずは一連の不祥事から国民の信頼を取り戻すことが先決ですな。われわれは頑として国民に示さねければなりません。われわれは絶対に裏切らない、と」
総務大臣の朱全忠が言った。官房長官の明智光秀も「全くその通りだ」と同調した。
「それよりも、経済政策が大事なのでは?」
そう言い出したのは財務大臣のルイ十四世だ。「やはり大事なのは公共事業ですな。板橋区らへんに豪華な宮殿を作って日本の一大シンボルとするのです。雇用も増えるし、観光スポットにもなる」
「ちょっと待ってくれ、そんなことをしたら財政破綻まっしぐらではないか?」外務大臣のジョン王が言った。
「なんてことはない。増税をすればよいではないか」
「それがよくないと言っておるのです。私も財政難から増税した経験があるが、そしたら貴族が猛反発してきてマグナ=カルタを承認させられてしまった」
「それは確かに面倒だな……」
閣僚応接室にしばらく沈黙が流れた。
「ではいっそのこと増税しなければよいのでは?」
そう切り出したのは経済産業大臣のフェリペ二世だ。
「私は国を何回か破産させたことがあるが、特に不都合はなかったぞ。それに、資金繰りなら文部科学大臣のピサロ君に任せればよいではないか」
ピサロは少し驚いたような顔をしたが、すぐにいつも通りの落ち着いた微笑を浮かべて言った。
「ではそのための資金は私が裏ルートで調達してきましょう。事務次官のコルテスも協力してくれるはずです」
「素晴らしいじゃないか、ピサロ君」フェリペ二世は満足気味だ。
「私は断じて反対だ」農林水産大臣の毛沢東は少し苛立ちながら言った。「そうやって強いものが弱いものを一方的に搾取するから格差ができる。だから革命が必要になるのだ」
「全くその通りだ。それに近頃の社会にはいたるところにスパイと思想犯がはびこっている。もうこんなにも粛清リストが埋まった」国家公安委員会委員長のスターリンは広辞苑並みの厚さがある紙の束を机にたたきつけた。
「まあまあ、皆さんいったん落ち着いて……」法務大臣のチャールズ一世がそう言いかけたとたん、応接室の正面にあるドアが勢いよく開いた。
「大臣!これ以上の横暴は許されませんぞ!今日、この時点をもって大臣を辞任していただきます。いいですね!」鉄騎隊を率いた法務省事務次官のクロムウェルはあっという間にチャールズ一世を連れ去ってしまった。そしてチャールズ一世という法務大臣はいなかったことになり、クロムウェルが元から法務大臣だったことになった。
「最近は物騒だな、私も気を付けることにしよう」環境大臣のルイ十六世はそう言うと、閣議そっちのけで趣味の狩猟の準備をし始めた。
「そんなことはどうでもいいですわ。とにかく今は、少子化対策です。子供にやさしい社会を一刻も早く実現するべきですわ」こども政策担当大臣のカトリーヌ・ド・メディシスが力強く訴えた。
「いや違う。地域創生だ。最近は過疎化がひどすぎる。もっと地域に寄り添った支援が必要だろう」地域創生担当大臣の始皇帝が反論した。
これを皮切りに他の大臣たちも言いたいことを他にかまわず言い出してしまったので、閣議は大荒れとなった。罵声の飛び交う応接室の端で雍正帝が絶望的な表情を浮かべていた。しかし論争が終わる気配もなく、これでは何も決まらないので、雍正帝はわずかな希望にかけて全員に訴えた。
「みなさん、いろいろな意見をお持ちだと思いますが、これでは話が全然まとまりません。ここは一度、総理の指示を仰ぐべきでは?」
そうだな、その通りだ、確かに、という声が応接室に広まった。雍正帝は少し安堵した表情を浮かべた。
「では総理、ご意見をよろしくお願いします」
「じゃ、とりまインドまで征服しよ」
内閣総理大臣のアレクサンドロス大王は言った。
こうして第三次世界大戦がはじまった。
偉人(?)たちの閣僚会議 緑川青 @ao-midorikawa
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