第8話 A子②(完)

 そう結論付けた時、

 ギイッ・・

 ドアの軋む音がしました。

 音の方に目をやると、半開き状態だったはずのドアが少しづつこちら側に回転するように向かってきました。

 確かにさっき見た時は、扉と壁の間には誰もいなかったはずです。

 ですが、今回はそこにいました・・

 そこに立っていたのは、一人の女性です。

 俯いていた顔がスッと上げられると、

 薄ぼんやりした空間に浮かんだ顔は・・「A子」でした。

 見たこともない人ですが、なぜかそれがA子だと分かりました。

 ああ、今更のように気づきました。

 さっき、ドアを押しても壁に付かなかったのは、ドアと壁の間に彼女が立っていたせいだったのです。

 A子はずっとこの部屋にいたのです。

 おそらくA子はもうこの世にはいないのでしょう。おそらく自分の想う人が自殺し、彼女はその後を追ったのだと思います。

 私の所に現れたのは強い嫉妬心からでしょうか。

 人はどこで恨みを買うか分からない。誰かがそう言っていたのを思い出しました。


 A子は私と目が合うと、ニヤリと笑いました。

「ふふふふ」

 余りの恐怖に悪寒がピークに達した私は、闇の中に引き摺り込まれるような感覚に陥りました。

 戦慄悪寒の痙攣が止まらなくなり、信じられないほど体がビクンビクンと痙攣を繰り返しています。

 夫が帰ってくるまで、この体はもたない・・そう思いました。


「戦慄悪寒」・・特に原因がなく起こる場合、

 ある人は、「それは霊界の誘いの予兆だ」と言っていました。

 その言葉を思い出した時は、もう遅過ぎました。

 

 私が最期に見た、そして最期に聞いたのは、A子がゆっくり近づいてくる姿、

 そして、

 暗い廊下の中に響き渡るペタペタというA子の足音です。


 心臓が太鼓を打つように高ぶり、その動きが限界に達しました。



(了)

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戦慄悪寒 ~ ある主婦の死まで(短編) 小原ききょう @oharakikyo

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