第7話 A子①

◆A子


「思い出した?」

 人の心を見透かすようなA子に私はこう言いました。

「あなた・・いったい誰なの?」

「だから、A子よ」

 A子は繰り返し言った後、

「ふふふふ」と妙な笑い声を立てました。

 そして、A子はこう言ったのです。

「あなた、今、体の震えが止まらないのでしょう?」

 A子の声が軽い口調から重い声に変わりました。

「えっ、どうして?」

「だってさっきからずっと震えているじゃないの」

 A子にはまるで私の姿が見えるようです。

「その痙攣・・それ以上続くと、本当に心臓が止まるかもね」

 それは突き放すような冷たい口調でした。まるで私の死を望むかのような物言いでした。


 実際、A子の言う通り、心臓の鼓動が信じられない程に速まり、全身がガクガクと痙攣しました。

 錯乱した状態の中、私は思いました。

 ああ、そういうことだったのか。

 自殺したミムラという男が私が振った男だとしたら、

 A子は、ミムラに想いを寄せていた女だったのだ。

 A子は自分の愛した男が自殺したのは、私のせいだと思っている。

その通りかもしれない。けれど、そんなことまで私は責任を持てないし、彼の自殺はそれが原因だとは限らない。私を恨むのはお門違いというものです。

 ですが、A子は恨む標的を私に据えたのです。

 理不尽な理由ですが、そう思い込むと暴走するのがA子の性格なのでしょう。

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