第3話 風の真実

扇風機の暴走が続く中、町中はますます混乱を極めていた。家庭、学校、病院、役場――どこでも扇風機が勝手に動き出し、人々はこの異常な事態に翻弄されていた。しかし、被害は少なく、怪我人も出ていないため、不思議と恐怖よりも「何が起きているのか知りたい」という興味が先行していた。


そんな中、抜刀太郎は、扇風機の暴走に対する答えを探すため、かつて扇風機の開発に携わった風間老人を訪ねることを決意していた。風間老人は、今は町外れの古い一軒家でひっそりと暮らしている元エンジニアだ。彼は、かつての家電業界をリードし、多くの家電を開発したが、今はその功績をほとんど知られていない。


太郎は、薄暗い道を抜け、風間老人の家にたどり着いた。家の前で扉をノックすると、ゆっくりとドアが開き、老人が顔を出した。


「お前さん、何の用だ?」


「風間さん…抜刀電気の店主、抜刀太郎といいます。実は…町中で扇風機が勝手に暴走していて、そのことでお話を聞きたいんです」


風間老人は一瞬黙り込んだ後、太郎を家に招き入れた。老人の家には、昔の家電が所狭しと並び、その中には古びた扇風機もいくつか置かれていた。


「扇風機が暴走している、か…。やはり、あれが始まったか」


風間老人は静かに語り始めた。


「昔、私は多くの家電を開発した。特に扇風機には特別な思い入れがあったんだ。冷房がまだ普及していなかった頃、扇風機は人々の生活を大いに助けた。涼しい風を送り、家族を笑顔にしてくれたものだ。だが、技術が進むにつれて、扇風機はエアコンに取って代わられ、次第に忘れ去られていった。使われなくなった扇風機は、倉庫や押し入れで眠り続け、その存在意義を失ってしまった」


太郎は老人の話を真剣に聞き入っていた。


「では、今回の扇風機の暴走は…」


「そうだ、これは扇風機たちの無念だよ。彼らは、かつてのように人々の役に立ちたいと願っている。だからこそ、今になって自分たちを思い出してほしいと訴えかけているんだろう」


太郎は驚きと同時に、どこか納得した気持ちを抱いていた。扇風機はただの機械ではなく、かつて人々の生活を支えていた存在だったのだ。今は役目を終え、忘れ去られていたが、それでも彼らは風を送り続けたいと願っている。


「どうすれば、この暴走を止められるのでしょうか?」


太郎の問いに、風間老人は微笑んだ。


「彼らに、ありがとうと言えばいい。感謝の気持ちを込めて、その役目を終えさせてやるんだ。忘れ去られた存在に、再び敬意を払うことが必要だ」


太郎はその言葉を胸に刻み、町に戻ることにした。町中の人々にこの話を伝え、扇風機たちに感謝の言葉を捧げる準備を始めた。


その夜、町の広場に人々が集まり、扇風機の暴走を止めるための小さな儀式が行われた。太郎をはじめ、町の住人たちは、倉庫や家の中から持ち寄った扇風機に向かい、声を揃えて言った。


「今までありがとう。僕たちを涼しくしてくれて、本当にありがとう」


すると、信じられないことが起こった。扇風機たちは一斉に回転を止め、静かに動かなくなった。風は止み、町には静けさが戻った。人々は安堵し、同時に扇風機たちの役割が終わったことを実感した。


それ以来、町では扇風機が大切に扱われるようになり、夏には再び多くの家庭で風を送る役割を果たすようになった。抜刀太郎もまた、扇風機の重要性を再認識し、店の一角に「扇風機コーナー」を設け、彼らに感謝を込めて販売を続けることにした。


「扇風機の乱」は、かつての日常を支えた家電たちへの感謝と、忘れ去られた存在への敬意を取り戻す物語となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

扇風機の乱 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画