第2話 暴風の街

扇風機の暴走は止まるどころか、ますます広がっていた。抜刀電気で起きた現象は単なる序章に過ぎず、町中の家庭や学校、オフィス、そして病院など、あらゆる場所で扇風機が勝手に動き出していた。しかも、どの扇風機もコンセントが刺さっておらず、動力源のないはずの機械が回転し、強烈な風を吹き荒らしていた。


学校では、授業中に教室の隅に置かれていた扇風機が突然動き始め、生徒たちは大騒ぎ。窓から教科書やノートが飛び出し、風に巻き上げられたチョークの粉が教室中を漂っていた。教師の山下先生は、慌てて扇風機を止めようとしたが、プロペラに手を伸ばすと風の勢いに押し返され、立ち尽くすしかなかった。


「先生、これ呪われてるんじゃないですか?」と生徒の一人が冗談交じりに言うと、他の生徒たちも「お祓いが必要だ!」「幽霊が出るかも!」と、半ば興奮気味に騒ぎ始めた。


同じ頃、町の病院でも奇妙な風が吹き荒れていた。診察室や病室の扇風機が一斉に動き出し、カルテや処方箋が風に舞う。看護師たちは混乱しながらも患者を落ち着かせようとするが、扇風機が暴走する様子に戸惑いは隠せない。何人かの医師はこの現象をどうにか止めようと試みたが、科学的に説明がつかない事態に頭を抱えていた。


「どうなってるんだ、これは…?」


その頃、抜刀電気の店主・抜刀太郎は、事態がますます悪化していることを知り、町役場へと足を運んでいた。役場もまた、扇風機の暴走に見舞われており、庁舎内の書類や新聞が次々と風に巻き上げられ、まるで嵐が起きているかのようだった。役場の職員たちはあわただしく動き回り、なんとか扇風機を止めようとしていたが、手に負えない状況に困惑していた。


太郎は、町の役場で緊急会議が開かれることを知り、扇風機騒動の中心人物として招かれた。会議室に入ると、町の役人たちが真剣な顔で話し合っていた。


「抜刀さん、あなたの店の扇風機から始まったと聞いていますが、何か心当たりはありますか?」


役場の職員の質問に、太郎は首を横に振りながら答えた。


「いや、正直言って何もわからん。ただ、扇風機たちが勝手に動き出したのは確かだ。まるで…何か訴えているような感じがしてならん」


その言葉に、会議室は一瞬静まり返った。誰もがこの不可解な現象に、何か見えない力が働いていると感じ始めていた。


「風が何を訴えているというのか?…そんな馬鹿な話があるか!」


町長が声を荒げて言い放ったが、その瞬間、会議室の隅に置かれていた古びた扇風機が、再び激しい音を立てて動き出した。風が書類を舞い上げ、会議室は一気に混乱の渦に巻き込まれた。


「な、なんだこれは!」


太郎は扇風機の風を顔に受けながら、ふと何かに気づいたように独り言を呟いた。


「もしかして、これは使われなくなった扇風機たちの無念…?」


その言葉を聞いた町長は半信半疑のまま、「扇風機の無念?まさかそんなことが…」と呟きながらも、太郎の言葉がどこか引っかかる様子だった。


やがて、町全体で騒動が広がり続け、SNSでは「#扇風機の呪い」「#暴風の正体」といったタグが次々と飛び交うようになった。町の住人たちは、この異常事態に何が起きているのか、ますます不安と興奮が入り混じる状況に包まれていた。


太郎は一つの確信を持ち始めていた。扇風機の動きには理由がある――その謎を解く鍵は、過去にあるのではないかと。彼はこの不可解な現象の真相を突き止めるため、かつて扇風機の開発に関わった風間老人に会いに行く決意を固めるのだった。


次回、太郎と風間老人が出会い、ついに扇風機の暴走の真相が明らかになる。

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