第20話 同じ言葉を連呼されている!

 さっきまで大通りだったのに、今は狭い路地を走っている。

 それも私は荷物のようにクロムに担がれている。この担ぎ方に文句はいわないけど、後ろ向きって言うのがちょっと微妙。


 追いかけてくる人を見ながら、移動していくのが、なんとも言えない気分になる。


 怖いという感覚はなくって、なぜ追いかけてくるのだろうという感覚の方が大きい。

 そういう感覚の自分に戸惑いがあるのも事実。


 この状況を怖いって思わない。死骸に囲まれて動く木が近づいて来たほうがよっぽど怖かったと……これは、これぐらいでは怖がる状況ではないと、感覚がズレてしまっている?


 私、ヤバい人になってきている?


「ちっ!」


 クロムから舌打ちが! これは私が重すぎて文句を言いたいってこと!


 するとクロムは壁を走り出した。それも斜めに走っている。

 異世界の壁って走れるのか……私が遠い目になっていると、浮遊感に襲われて、クロムが地面に降り立った衝撃がきた。と、同時にクロムは私を地面に下ろした。


 周りをみると、街に入ってきたときに見た高い岩の壁に挟まれている空間だった。 


 入口に戻ってきてしまった。クロムが上っていた壁って、山を切り取った垂直の壁だったのか。


「カリン。入口に向かって突っ走れ」


 そう言ってクロムが私の背中を押すけど、入口の方に剣を構えた人がいるよ。

 勿論、街の方にも十人ぐらい武器を構えた人がいる。


「突っ走っていいの?」


 私は小声で聞く。するとクロムは空間から剣を取り出しながら言った。


「それが一番被害がない」


 これは私が引き起こす被害ってことだよね。この状況をクロムが対処できるかわからないけど、最悪いつ使うのかわからない大きな門を駆け上って、壁を超えて行けるということなんだろうね。


 私がクロムに背を向けて、走り出そうとしたところで、剣を持った人が私の側を抜けてクロムに攻撃してきた。


 あれ? もしかして、これはクロムが狙われているってこと?

 そうか、モノを出し入れしていたのはクロムだから、必然的にクロムが持っているだろうと襲われているのか。


 で、私は逃げていいと。


 クロム、頑張ってと思い、背を向けつつ振り向けば……げっ! 私に炎が向かってきている!


 これってどうすればいいわけ?


 ワタワタとしていると、私に炎がぶつかって、燃えた。凄く燃えた。全身が燃えたと言っていい。


 だけど熱くない。あれ?


 首を傾げていると、クロムが私に被せてくれた外套が燃えていることに気がつく。


 私が着ている服は燃えていないけど、クロムの魔力をまとわせているという外套だけが燃えた。


 異世界の謎がまた増えた! 意味がわからない!


『Жадность?』

『Жадность!!』

『Жадность―――!!』

『Жадностььььььььььь!!』

『Жадность!!』

『Жадность――――!!』


 うわっ! 何か周りが一斉に同じ言葉を連呼し始めた。何? 何が起こったの?


 私はまだまとわりついている火をパタパタと落としていると、私の黒い髪が見えた。あれ? クロムの色変えの術も解けている?


 もしかしてこれは「魔人だー!」って叫んでいるっていうわけ?


 クロムの術が使えない物体と文句を言おうとしたら、目の前に銀色の光が見えて、思わず顔の前に手をかざす。


 眩しいっと思ったら、悲鳴が近くで聞こえた。


 え? なに?


 すると、私の近くで膝をついて、痙攣しながら空を見ている人がいる。


 怖! 何が起こったわけ?

 それも白目を向いているし!


 私がこの状況に意味がわからないと引き気味でいると、上の方から『ゴゴゴゴゴゴゴ』っという音が聞こえ、視線を上に向けると……腹に衝撃が! 先ほどと同じ状況に陥っている。

 そう、クロムにまた荷物のように担がれて、垂直移動している。何に使うかわからない大きな門を駆け上がっているのだ。


 そして門を上り切ったところで、私の目には街並みではなく何故か岩の壁が見える。……え? 意味が分からないのだけど? 岩が落下している?

 

 「ちっ!」

 

 クロムの舌打ちと金属の甲高い音が聞こえたと思ったら、岩の壁が細かくバラバラになりながら、落ちて行く。

 これは下の人が生き埋めになるよ。クロム、流石にやり過ぎじゃない?


 その光景を見ながら私は浮遊感に襲われた。そして視界はクロムが纏っていたマントを被せられて塞がれてしまう。


 あの? これだと本当に荷物みたいになっているけど?


「何をしたの?」

「あ?」

「流石に岩を落とすのはやり過ぎだよ」

「お前、自分でやったと自覚ないのか? 壁の岩を斬ったのはカリンだ。俺は被害を最小限に抑えるために細切れにしただけだ」


 岩の壁が落ちたのを私の所為だというクロムは、地面に降り立ちそのまま走り出す。

 いくらなんでも岩を切るなんてできないよ。それに私の方が攻撃されたんだよ。そんな事実ない。ない。

 あ! そう言えば!


「香辛料を買っていない!」

「この状況でそれを言うのか!」

「言うよ!」

「そんな悠長なことは言っていられないぞ」

「え? なぜ?」


 どうしたのだろう?

 それから、この状況は周りの景色が見えないのだけど?


「あの状況だと魔人が現れたと直ぐに国に報告されるだろう。人の国だがな。そうなると、ここに討伐団が出される可能性がある」

「ええー!」

「近づいたヤツが魔力に当てられたのと、あの岩壁を切り崩したのが決定打だな」


 討伐団って何!

 それから痙攣している人って、私に近づいたからだったの? クロムが言っていることは本当だった。人は弱いと。

しかし、私が岩を切ったというのは否定する。私はそんなことをした記憶はない。


「早く魔力を安定的に抑えられるようになれ、でないと人の街には今後一切いけないぞ」

「あれはクロムの術が解けたからでしょう!」

「馬鹿か! 俺の術は完璧だった。カリンが炎に襲われたときに、無意識で魔力を解き放ったんだろうが! だからさっさと逃げろと言っただろう!」


 また私が悪いと言われた。それに私がいつ魔力を解き放ったっていうのかな?

 するとクロムに並走する足音が聞こえることに気がつく。


「わふっ!」


 え? この鳴き声……銀太がここにいる!

 感覚的にまだ山を下りきっていないはず!


 これって街の近くにフェンリルが出たって騒ぎにならない? いやもう遅い。遠くから悲鳴が聞こえる。


 はぁ、私は無事に元の世界に帰れるのだろうか。その前に平穏に情報集めをしたいのだけど。


 クロムに荷物のように抱えられながら私は遠い目になったのだった。



__________

ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。

白雲の力不足で20話で打切りを通達されてしまいました。追加投稿は可能なのですが……


連載作品を複数投稿しているので、続きを書くかちょっと迷い中です。


ブックマーク、評価で応援していただきました読者様には本当に申し訳ないのですが、お時間をください。


白雲の力不足で申し訳ありません。


週一投稿なら可能か…

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極致転移-無い無い尽くしの異世界でモフモフたちとスローライフ……できない- 白雲八鈴 @hakumo-hatirin

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