“いずみちゃん”のモノローグ①
彼はーーーー、こうちゃんはどう思ったのだろう。
突然の手紙に困惑したに違いない。
でも、ほんの少し嬉しいとか懐かしいとか思ってくれたなら、出してよかったと思えそうな気がする。
こうちゃんと引っ越した後は色々大変だった。
知らない土地で知らない人と話すのは怖かった。
お母さんは大丈夫って言ったけど、そんなことはなかった。
小学校へ入学して、新たな人間関係を築こうと思っても、いつもこうちゃんのことで頭がいっぱいだった。
今こうちゃんはどうしてるんだろうとか、こうちゃん私のこと忘れてないかなぁとか。
ずるずると引きずっていた。
知らない人と関係を築くのが怖かった。
要はこうちゃんに依存していた。
多分そのせいだ。私はクラスで一人になってしまった。
話す人がいないわけでもイジめられているわけでもない。
ただ、友達としては接してくれなかっただけ。
だからこそ、一人になってしまった。
小学校高学年になると私みたいな子はちらほらいた。
迫害されてるわけではないけど、一人でいる静かな子。
結局、小学校は友達といえる存在は作れなかった。
いつも寂しさを感じていた。
その六年の間も私は一途にこうちゃんを想っていた。
中学生になり、私は一つ決意した。
変わろう、と。
たとえ孤独でも心強く学校生活を送ろうと思った。
友達がいなくても寂しさを感じないように。
もう友達とか好きな人とか作って、それについて悩み苦しみたくなかった。
そのためには変わらなきゃいけなかった。
私はまず、雰囲気を変えた。
髪型や美容は当たり前だけど、主に性格面の雰囲気。
堂々とした立ち振る舞いを意識した。
と言っても、どんな事をしようが私の勝手、という意味での堂々だ。
話し方も変えた。
今までは、話し相手には明るくしていたのをやめた。
どんな相手でも冷淡に話すようにした。
そして、こうちゃんのことを考えるのをやめた。
考えてしまえば、孤独が怖くなってしまうと思った。
誰かと話したくなる。こうちゃんと過ごしたあの日々を他の友達と過ごしたくなってしまう。
そうなると私はまた依存してしまう。
お陰で中学の間も友達がいなかった。
でも、それで寂しいだとか思わなくなった。
こうちゃんへの想いも全て断ち切ったはずだった。
なのに、どうして。
高校で私はこうちゃんと出会ってしまった。
久々に会ったこうちゃんは背も伸びてカッコよくなっていた。
私はどこか他人事みたいにモテるんだろうなと思った。
こうちゃんに未練がない今、また違う関係から始まるんだろうな。
それはそれでいいかもって自分の都合のいい妄想をした。
関わらないだろうと。
なのに向こうから話しかけてきた途端、私は気づいてしまった。
話しかけられて嬉しい私。
あの頃と優しい部分は変わってないことに安堵する私。
仕草や表情にドキドキしている私。
全然想いは断ち切れていなかった。
むしろ、話したことで想いはもっと募ってしまった。
私はまだ、こうちゃんのことが好きなんだ。
それがわかって、泣きそうになってしまった。
打ち明けたくなった。
私は“いずみちゃん”だよ、気づいてた?って。
しかし、中学で変わるために努力した自分を否定したくなかった。
たとえ、それが気楽になるために作った偽りの自分だとしても。
だから、私は回りくどい手紙なんて方法を選んだ。
口で言うよりもリスクはない上に、こうちゃんに私のこと思い出させることができる。
正直これは賭けだ。
こうちゃんが私だと突き止めたら、本当の自分の気持ち打ち明けるけど、私からは打ち明けない。
偽りの自分のままでいる。
すごくわがままだけど許してほしい。
だって、これは運命なんだから。
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