ロストアイテム

 窓より朝陽が差し込む。

 床には生活用品が雑多に置かれ、ソファにはジャケットやサスペンダーが脱ぎ捨てられている。

 この生活感溢れる空間は、彼らのだ。


≪逮捕されたキリル・ガルマショフの処遇については──≫

「本当に良かったんすか?」


 アナクロなラジオを止め、寝衣姿のヘイスは小さきボスへ問いかける。


「何の話だよ」

「カミラちゃんのことっす」


 寝癖のついた尻尾を抱き、ソファに腰掛けるヘイス。

 それを横目にエプロン姿のヤガミは、高周波刀が占領する机へマグカップを置いた。

 立ち上る白い湯気を朝陽が照らす。


「俺たちが預かってどうすんだよ」


 カミラが大宙賊の一人娘であるか、真実は謎のまま。

 しかし、元幹部が目をつける存在であることは間違いない。

 ゆえに、カミラの保護は治安当局へ任せたのだ。


「あのままガルマショフを見逃して、報酬を貰う手もあったんだぜ」


 レフコスはガウスライフルの部品を拭き上げながら、合理的な意見を述べる。

 普通のハンディマン便利屋であれば、そうするだろう。


「……野郎の一人勝ちが気に食わなかっただけだ」


 渋面を浮かべるヤガミは、誤魔化すようにマグカップの中身を飲み干す。

 そんな殺し屋のボスを見遣り、2人は小さく溜息を吐く。


 ──鳴り響くアナクロなドアチャイム。


 狐耳が立ち、パールレッドの瞳がドアを映す。


「お客さんっすよ、ボス」

「こんな朝っぱらから誰だよ……」


 ヤガミは寝癖の残る黒髪を掻きながら、事務所のドアへと向かう。


「宗教の勧誘ならお断り──」

「おはようございます、ヤガミさん」


 ドアを開けた先には、律儀に頭を下げる客人。

 美しい黄金色の髪を見て、黒髪少女の顔が引き攣る。


「…冗談だろ」


 呟きは朝陽の中に溶けて消えた。

 今日も今日とて、便利屋アウトキャスト・スコードの仕事が始まる。

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